五十嵐敬喜の「銀行員のための経済レポート」

テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターとしてもお馴染みの、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部長 五十嵐敬喜氏に、経済情勢のポイントを分かりやすく解説していただくコーナーです。

第5回 食料自給率は引き上げるべきなのか

大きく変化した食生活

わが国の食料自給率(カロリーベース)は2006年度に39%まで低下して、主要先進国の中では最低水準であった。歴史的に見ても、昔の日本はもっと高かった(1965年度の自給率は73%)。これは日本の危機なのか。

わが国の食料自給率が低下してきた最大の理由は、時代の流れとともにわれわれの食生活が大きく変化したことである。つまり何を食べてカロリーを摂取するかという点に関して、国内で自給できるものを食べる量が減って、輸入依存度の高い食料を取るようになったということだ。最も目立つのは米を食べなくなったことである。65年度には1人1日当たり1090kcalの米を摂取していた。当時の総摂取カロリー2459kcalの44%に当たる。06年度には596kcalまで減少しており、総摂取カロリー2548kcalの23%にとどまっている。

代わってカロリー源として大きく浮上したのが、畜産物(肉類、牛乳および乳製品など)や油脂類(大豆油、菜種油など)である。両者を合わせた摂取カロリーは、65年度が316kcalだったのに対し、06年度は762kcalと大幅に増加している。国内自給率は、油脂類は4%に届かないし、畜産物も16%(輸入飼料による生産は輸入にカウントする)にとどまる。

1人1日あたりの摂取カロリーの比較
年度 総摂取カロリー 畜産物と油脂類
1965年 2,459kcal 316kcal(13%) 1,090kcal(44%)
2006年 2,548kcal 762kcal(30%) 596kcal(23%)

意味がない食料自給率

食料自給率という言葉からわれわれが直感的に抱くイメージは、「何か食料という塊があって、今やその4割しか自給できていないために、一朝ことが起こって輸入がストップすればたちまち飢えてしまう」といったものではないか。

しかし食料自給率を引き上げるべきだ、というなら、いったい何パーセントまで持っていけばいい(安心できる)のだろうか。目標水準を45%としようが50%としようが、そうした数字に意味があるとは思えない。なぜなら実際の食料自給率は、「何を食べているか」ということと、「各々の食品がどれだけ自給できているか」という2つの要素で構成されているであって、その組み合わせ次第で食料自給率は大きく振れてしまうからである。

たとえば、100%自給できる米で必要カロリーの半分を摂取すれば、食料自給率は優に50%を超える。しかしそんなことで食糧安保上の目標を達成したとはとても言えないだろう。他方で、われわれの食生活に欠くことのできない小麦や大豆の自給率はきわめて低い(それぞれ13%、5%)。食料自給率全体がたとえ80%になろうと、これらの輸入がストップすればわれわれの生活には深刻な影響が及ぶ。結局われわれが直面しているのは、幸いなことに、飢えるかもしれないという問題ではない。だから食料自給率といった漠とした指標の高低を議論しても意味があることだとは到底思えないのである。

対応はもっと現実的に

いまさら食生活を昔に戻すことが不可能であるのは明らかだが、では畜産品や油脂類の自給率を引き上げることが現実的か。おそらく意味のある上昇を実現することは無理だろう。また、今後さまざまな努力を重ねたとしても、小麦や大豆、あるいはほぼ100%輸入しているとうもろこしの現実的な自給率はいったい何パーセントまで上昇しうるのか。

日本という国が、今のような食生活を維持していくにはお金がかかる。自給率の低下は、せめてそのコストをできるだけ抑えようとしてきた結果だと言えよう。今後はそのコストを増やしてでも自給率を引き上げるべきだ、という主張にも一理はあるが、いくらコストをかけても、多くの基幹品目でそのほとんどを輸入に頼らざるを得ない現実からは逃れられまい。むしろその現実を受け入れるところからこそ知恵は生まれてくるのではないか。

2008/05/14 掲載)
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