テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターとしてもお馴染みの、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部長 五十嵐敬喜氏に、経済情勢のポイントを分かりやすく解説していただくコーナーです。
第2回 道路特定財源の一般財源化
5兆円を超える道路特定財源
道路特定財源とは、「道路の整備とその安定的な財源の確保のために創設されたものであり、受益者負担の考え方に基づき、自動車利用者の方々に利用に応じて道路整備のための財源を負担していただいている制度」(国土交通省)のことである。具体的には、ガソリン税や軽油引取税などを主たる財源として、その収入を道路整備に充てようというものだ。しかも暫定税率を課しているから、税率は本来の水準の倍以上だ。こうして国と地方を合わせるとその財源規模は毎年5兆円以上に上っている(07年度予算は5兆6000億円)。
この道路特定財源を一般財源化しようとする動きがあるのはご存知の通りだ。まずは昨年末に「真に必要な道路建設の経費以外は一般財源化する」という政府・与党合意があった。ところが国交省が最近、これを逆手にとって、今後10年間で真に必要な道路整備の経費が道路特定財源の見込み額を上回るという計画を発表した。つまり一般財源に回す余裕はないと言い出したわけだ。
道路整備は常に最優先の課題か
確かに、道路財源は余っているわけではない。総道路整備額のうち、国費部分は道路特定財源で賄っているが、地方費の半分近くは一般財源で賄われている。道路特定財源が余っているといっても、あくまでも国レベルの話なのである。地方も含めて考えれば、道路特定財源は決して余ってはいない。
また、地方の多くやあるいは大都市からも、道路(整備)はまだ足りないという声が上がっているのも事実である。例えば大都市に住んでいる私の周りでも、自宅近くの国道と一般幹線道路との交差点の慢性的な渋滞という問題がある。国道を越えた先に行くためには、どうしてもその交差点を利用せざるを得ず、多くの住民が難渋しているのが現状だ。この渋滞を解消するには、予算をつけて立体交差工事をする他ない。もう道路予算は不要だということにはならないだろう。
しかし問題は、より大局的に考えた時に、国または自治体が優先して予算をつけるべき分野は何なのかという点である。例えば大規模な住宅開発によって人口が急増した地域で、小中学校の教室も教師も足りないという事態が生じているのであれば、渋滞の方はもうしばらく我慢してもらって、学校の整備を優先することは十分正当化できると思われる。集まったお金の使途を頑なに限定してしまうことが、国民や住民にとって本当に望ましいのかどうかについては議論の余地があると言えよう。
一般財源化の論理
一方、道路特定財源が誕生した経緯を考えれば、ガソリン税や自動車重量税などを一般財源化するというなら、この仕組みは一旦ご破算にすべきかもしれない。自動車関連諸税の暫定税率を廃止した上で一般財源化する方がすっきりするという議論には説得力がある。実際、暫定税率を払わされている納税者にしてみれば、自分達が追加的に支払っているお金が、負担を免れている人たちのためにも使われるのは割に合わないことかもしれない。
しかし半世紀以上も前にこの制度が出来た頃と比較すれば、自動車の保有比率は大幅に上昇しており、今や自動車関連諸税の納税者は一部の人々に限られるとは言えない。また自家用車の普及率が上がったことが、環境に負荷を与えたり、やや極論ではあるが毎年数千人の命を奪っていることも事実である。
元々は、自動車が持てるような相対的に裕福な人たちに、道路整備を急ぐために多めの負担をお願いするというのがこの制度の趣旨だった。そしてその根拠が「受益者負担」である。それが数十年という時を経て、納税者のベースも、自動車に絡んで予算を振り向けなければならない分野も、ともに大きく拡大しているのである。支出の対象をいつまでも「道路」に狭く限定すべきではないだろう。
暫定税率は下げなくてよい
大きな方向感としては道路特定財源は一般財源化することが望ましいと思われる。その際、暫定税率はどうするのかということだが、廃止して本則の税率に戻すのが正論であることは承知の上で、私は今のまま維持すべきだと考える。
暫定税率を廃止すればどうなるか。例えばガソリンは1リットルあたり24円強値下がりすることになる。利用者の節約マインドが緩むのは確実だろう。先進各国が、地球環境の悪化を防ぐために、協力して省エネを進めている時に、理由はともかく日本がガソリン価格を引き下げるのはいかにも不味い。京都議定書で国際公約した節約目標を、今のわが国は期限内にとても達成できそうにない状況にある。そのような国が、みすみすガソリンの使用量が増えるように税制を変更してしまっては、見識が問われよう。
ここは、あえて高いガソリン価格を維持することによって、省エネの推進に向けたわが国の強い決意を世界に示すほうが望ましいのではないか。ただし暫定税率の部分を「環境税」に変えろというのではない。それをすると、また新たな利権が生まれかねない。払う方は、環境に負荷を与えてしまっていることの代償としての税金だと考えればよいだろう。その上で、収入(税収)は一般財源として、その時々に最も優先度の高い分野に支出するのである。
なお、暫定税率の期限は来年の3月末である。今の「ねじれ国会」の下でこの問題が決着しなければ、4月以降税率は低下する。その後改めて暫定税率を復活させるような事態になれば、現場は大混乱することだろう。そんなことにならないように、この制度をどうするかについては年度中にきちんと結論を出す必要がある。


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