テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターとしてもお馴染みの、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部長 五十嵐敬喜氏に、経済情勢のポイントを分かりやすく解説していただくコーナーです。
第3回 改革後退の気配見せる2008年度予算案
閣議決定された2008年度予算案
2008年度の政府予算案が閣議決定された。国会審議はこれから始まるが、衆議院では与党が3分の2以上の議席を持っているから、最終的にはほとんど修正がないまま可決される可能性が高い。総額にして83兆円を超えるこの予算案をどう評価すればよいだろうか。
財務省が「平成20年度予算(財務省原案)のポイント」という資料を12月20日に作成しているが、その冒頭に「基本的な考え方」として次の3点を挙げている。第一に、歳出改革を確実に実施しているということ、第二に、新規国債の発行額を4年連続で減額したこと、第三に、成長力強化、地域活性化、生活の安全・安心などの政策課題に予算を重点配分したこと、である。
要するに、歳出と歳入の両方の課題をクリアした上で、財政の健全化も進めましたと言っているわけだ。額面どおり受け取っていいのだろうか。
基礎的財政収支を均衡させる意味
私は、今の予算編成で最も優先すべきことは、「子供たちにツケを回さない」ための財政健全化だと思う。政府の目標もまさにそうであって、そのために国と地方を合わせた財政の基礎的収支(プライマリーバランス)を、2011年度までに黒字にするという中期目標を立てているわけだ。
念のために、「基礎的収支を黒字にする、少なくとも赤字にはしない」ことの意味を確認しておこう。歳入を経常的収入と借金(国債の発行)による収入に分け、歳出を経常的支出と借金の元利金支払いに分ける。基礎的収支とは、「借金による収入−借金の元利金支払い」のことを指すのだが、それは同時に、「経常的収入−経常的支出」のことでもある。
この収支が均衡すると、国債の発行は借金の元利払いのためだけに行われる。元本償還のための国債発行は国債の発行残高には影響を与えないから、結局、利払いのための発行分だけ国債の残高が増えることになる。つまり、「国債発行残高の増加率=(国債の)金利」だが、金利と経済成長率がほぼ同じだとすると、国債発行残高/経済規模(GDP)という比率が一定水準に保たれることになるわけだ。しかし金利の方が成長率より高ければ、基礎的収支を均衡させてもこの比率は上昇してしまう。だからハードルを高めに設定して、均衡ではなく黒字にまで持っていくことを目標に掲げているのである。
財政の健全化は予算配分の前提
さて今回の予算案では基礎的財政収支は約5兆1800億円の赤字で、前年に比べて7500億円強も悪化している。新規国債の発行額が減っているのに、なぜプライマリーバランスが悪化するのか。これは、国債の削減額が小さすぎるからである。金利が低下しているおかげで、実は国債の利払い費が前年より少なくて済んでいる。しかし、せめてその分だけは新規国債の発行額を減らさないと基礎的財政収支は悪化する計算になるのである。支払いが減った分だけ新たな借金を減らすことをせず、ちゃっかり別の支出に回しているというわけだ。
最近は格差が問題にされることが多い。とくに予算においては都市と地方との格差是正を求める声が強い。景気の勢いが鈍ってきたと感じる人が増えているだけに、選挙を意識すればするほど、政治的にはそうした声を無視するわけにはいかないのであろう。
しかしそうした考え方は、入口のところで間違っていると思う。格差の是正を含めた「歳出増加要請」と「財政の健全化」は、バランスさせるべきものではない。財政の健全化を前提にした上で、さまざまな歳出の要請をバランスさせるべきなのである。国債の発行は後世代の負担でわれわれが利益を得ようとする行為である。一気には無理としても、目標とする2011年度の黒字化に向けた歩みを後退させてはならない。
なし崩しの消費税引き上げも
財政健全化を歳出の抑制で達成しようとすれば、目立った効果が出せるのは、20兆円を超える規模を持つ社会保障費だけだと言ってよい。今度の予算案ではこれを2200億円抑制したとされるが、それでも前年比では6300億円も増えている。今後高齢化はさらにスピードアップしてくるから、この費目を削減するのは容易なことではない。抜本的な改革が必要だ。
そうした状況下で、たとえば高齢者医療で早くも腰砕けが起こっている。75歳以上の高齢者であっても、被扶養者については医療保険の負担を求めるという方針が先延ばしされた。また、70〜74歳の人たちの医療費自己負担比率を1割から2割に引き上げることについても、やはり先延ばしされた。選挙対策の色彩が濃いと思われるが、こうしたことを繰り返せば財政の健全化は遠のくばかりだ。
地方への配慮で、地方交付税の特別枠として「地方再生対策費」が4000億円の規模で創設された。それを受け取る個々の自治体から見ればきわめて小さな金額であり、効果のほどは疑わしい。こうしたばらまき的な歳出は、それを受け取る人たちの懐にお金が入るわけだから、その金額分だけの効果は確かにある。しかしそれが呼び水にならなければ、ひたすら出し続けざるを得なくなる。財政に余裕がないときにそれはできない。この支出の財源は地方法人税の一部国税化で賄うようだが、2008年度に限っては赤字の増加要因だ。
景気の回復・拡大はもう6年も続いている。そんな環境の下でも財政の健全化が後退してしまうようでは、景気が悪くなってしまえばなおさらだろう。「あれもこれも金がかかるから消費税を引き上げます」ということになりかねない。



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