五十嵐敬喜の「銀行員のための経済レポート」

テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターとしてもお馴染みの、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部長 五十嵐敬喜氏に、経済情勢のポイントを分かりやすく解説していただくコーナーです。

第4回 日本も政府系ファンドを持つべきか

350兆円もある世界の政府系ファンド

ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF、政府系ファンド)という言葉を目にする機会が増えている。各国の政府が運営するファンドのことで、主として原油の売上げ収入を原資とする産油国のファンドが有名だ。資産規模が最大のファンドはアブダビ投資庁(UAE)のもので、9000億ドル近いようだから、日本円にすれば100兆円規模だ。アメリカ議会の調査報告によれば、「昨秋時点で資産残高が10億ドルを上回ったのは39ファンド。資産残高の総額は3兆2390億ドル(約350兆円)だった」(日本経済新聞、2月23日)ようだ。サブプライム・ローンにからんで資本不足に陥ったアメリカの金融機関に巨額の投資をするなど、政府系ファンドはにわかに注目を浴びるようになってきている。

資産1000億ドル超の政府系ファンド
名称 資金源 資産規模(億ドル)
アブダビ投資庁(UAE) 石油 8750
シンガポール政府投資公社 外貨準備 3300 
ノルウェー政府年金基金 石油 3220
サウジアラビア通貨庁  石油 3000
クウェート投資庁 石油 2500
中国投資有限責任公司 外貨準備 2000
香港金融管理局 外貨準備など 1400
ロシア国家安定化基金 石油 1270
テマセク・ホールディングス(シンガポール) 外貨準備など 1080
中央匯金投資公司(中国) 外貨準備など 1000
出所)日本経済新聞、2008/2/23紙面より

日本版政府系ファンドとは

そうした中、このところ日本でも政府系ファンドを創設すべきだという議論がある。実際、首相直属の国家戦略本部の中に「SWF検討チーム」(座長は山本有二前金融担当相)が設置されている。日本がそうしたファンドを持つのだとすれば、その原資は言うまでもなく外貨準備であろう。今やその残高は約1兆ドル(100兆円強)に達しているから、世界的に見ても相当規模のファンドになりうるわけだ。

しかしこれは本末転倒の議論というべきである。日本の外貨準備は、国内での借り入れを対価に積み上げた外貨資産という意味において、たとえば主として原油の売上代金を原資とする産油国のファンドなどとは全く性格を異にしているからだ。具体的には、財務省が外国為替証券(為券)という短期国債を発行して市場から調達した円資金を、外為市場で外貨(ドル)と交換して得たものが外貨準備である。つまり100兆円を超える日本の外貨準備は、過去の度重なる為替介入によって積み上がった政府の外貨資産であると同時に、そこには同額の円建ての政府負債が存在するのである。

したがって外貨準備を政府系ファンドに仕立てることは、「民間から借金の形でお金を吸い上げた上で、政府が為替リスクを含む運用リスクを負って運用する」ことを意味する。素直に考えれば、なんでわざわざ政府がそんなことをしなければならないのかという疑問を持たざるを得ない。巨額の外貨準備を低利の米国債中心に運用するのはもったいないという指摘もあるが、それなら外貨準備と借金を同時に減らすのが筋だろう。低利でしか回っていないお金を政府が持ち続けないで、民間に返せば済む話だ。

民間にできることは民間に任せる

そもそも国が外貨準備を持つ理由は何だろうか。一言で言えば、自国通貨を買い支える(為替市場に介入する)ためである。日本にとっては、円が急落するような事態を回避するための資金だ。そうだとすれば、そんな資金が1兆ドルも必要なのかと誰もが思うだろう。しかしこれを減らそうとすれば外貨(ドル)を売るという操作が必要になる。その結果、為替相場を円高に振らせてしまう恐れがあるので、ドル売りをひたすら避けてきたことが日本の外貨準備をここまで膨れ上がらせてしまったのである。

実際、実に滑稽なことも行われている。外貨準備の運用利回りが低いとはいえ、残高が巨額であるだけに、毎年の運用益も金額としては大きい。当然この利益は国の収入だから予算に回せる。受け取った運用益(外貨)を円に換えて使えばいいわけだ。ところが現実には、この運用益をそのまま外貨準備に加える(政府資産の増加)一方、それに見合った為券を発行し(政府負債の増加)、調達した円資金を予算に回すということが行われている。外貨建てで生じる外貨準備の運用益を、為替市場で円買い取引を行わないで国内で使うために考え出された巧妙な操作なのである。

しかし、少し視点を変えて眺めれば、何のことはない、これは円高になることだけは避けようとする「途上国的な方法」に他ならない。日本は民間部門が自由に外貨を保有することが認められている国である。その大方針とこんな姑息な為替操作は相容れないと言うべきだ。

政府系ファンドを作って外貨準備で一儲けしようなどと考える必要はない。「民間でもできることは民間に任せる」のは小泉政権以来の政府の方針ではないか。まして、民間のほうがもっとうまくできることに政府が手を出すべきではないだろう。

2008/03/04 掲載)
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