テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターとしてもお馴染みの、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部長 五十嵐敬喜氏に、経済情勢のポイントを分かりやすく解説していただくコーナーです。
第6回 高騰する原油価格を下げる方法はないのか
限度に近づいた先進国経済
高騰する原油価格には、先進国といえども相当苦しいところまで追い込まれていることは間違いない。アメリカでは燃費の嵩む軽トラック(ピックアップ・トラック、ミニバン、SUVなど)を中心に自動車販売が「底が抜けた」ように落ち込んでいる。それどころか、消費全般まで不振に陥ってしまっているのである。2008年11月に選挙を控えた現政権は、何とかしたいと考えているに違いない。
欧州では、2008年7月に入って欧州中央銀行(ECB)が利上げに踏み切った。2008年6月の同地域の消費者物価上昇率が前年同月比で4.0%だった。2%以下を目標にしているECBにとって到底容認できない水準である。しかしインフレの原因は好況による需給逼迫ではなく、原油や資源価格の高騰であり、しかも、そのせいで景気が悪化している。それでもECBは利上げせざるを得なかったのである。今後もインフレが続けば、利上げをやり続けるのか。政策当局はきわめて難しい舵取りを強いられることになる。
日本経済はどうか。耐えられる原油価格の上限がWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)ベースで160ドルという試算も可能である。70年代の2度の石油危機を経て、80年に40ドルという価格をつけた。それには耐えられず日本経済は深刻な不況に陥った。当時と今を比較すると、為替市場で円が2倍以上の水準に上昇している。省エネの度合いも2倍近く進んでいる。合わせると日本経済への負担はおよそ4分の1になっているから、逆にドルベースで当時の4倍の価格が限度だという計算だ。 しかし、気がつけば現実はその限度に近づいている。原油価格高のせいで日本経済が失速するシナリオも考慮せざるをえなくなってきているのである。
ドル買い協調介入は成立するか
先進国が揃って景気後退に陥るようなシナリオは最悪だ。そんな事態に陥らないためには、そろそろ本気で原油価格の高騰を止める必要がある。投資ファンドが幅広くコモディティ市場に買いを入れていることを考えれば、原油価格の上昇を止めることによって、その他のコモディティ価格にも影響を及ぼすことが出来る可能性が高い。
現在先進国の間では、原油先物市場での投機の動きを牽制するために、モニタリングを強化しようという合意が生まれつつある。しかし、そんなことで価格の上昇に歯止めがかかる可能性は小さいだろう。もっと強力な方策が必要だと思われる。
そうした強力な対策の例として、2つの介入が考えられる。まず1つは、為替市場における日米欧のドル買い協調介入である。ここ1年半ほどの期間、原油価格の上昇は為替市場で進行するドル安と歩調をそろえて進んできた。ドルの先安感が原油の先高感を煽ってきた面があるのだ。投機筋がドルの先安感を拠り所として原油先物を買い上げてきたのだとすれば、ドル安に歯止めをかける協調介入の実施は、少なくとも彼らに、原油先物買いを一旦手仕舞いして、利益を確定するインセンティブを与えることになる。元々価格の水準がバブル的に上昇しているだけに、一度こうした動きが出ると、売りが売りを呼ぶ展開になって、原油価格が大幅に下落する可能性があると考えられる。
もっとも、今のところ協調が成立する可能性は小さいと市場は見ている。何しろECBは、利上げを強行するほどインフレの加速を懸念している。自国通貨(ユーロ)を弱くするような介入に同意するとは思えないというわけだ。しかし、それならば、かりに協調介入が実現すれば相場への影響はそれだけ大きいに違いない。結果として原油価格が大きく下がれば、欧州にとってもおつりが来る話だと言える。要するに、ユーロが下落する以上に原油価格が低下すればいいのだから。
原油市場への直接介入も選択肢
もう1つの介入は、WTI市場に(アメリカ)当局が先物売りという形で介入することである。一般には、先物の売りを仕掛けても、期限前に反対売買をして差金決済するケースが多いようだ。しかし、それをやってしまうと、せっかく売り介入した効果がなくなる可能性もある。そこで、途中で反対売買することなく、期限まで売りポジションを持ち続けるのである。その場合、期限には原油の現物を手渡す義務が生じるが、それには政府が保有する備蓄を充てればよいだろう。
これまでにも、アメリカ政府が原油の備蓄を取り崩したことは何度かある。最近の原油価格の高騰が需給の逼迫を反映したものであるなら、単純に備蓄を放出することでもある程度の効果は期待できる。しかしあくまでも投機的な上昇であるなら、備蓄の放出で価格を下げることは難しい。そこでまず先物市場で売りを仕掛けた上で、最終的に政府備蓄を放出するのである。バブルに突き刺す針としてはかなり強力なものだと言えるのではないだろうか。


![企業経営者限定SNSコミュニティサイト[C.E.Oリンク]](/img/ban_ceolink.gif)








