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八十二銀行 山浦愛幸頭取インタビュー

菁々として育材を楽しむ


▲ 八十二銀行 山浦愛幸頭取

<澁谷>

八十二銀行のPRポイントや強みについてご説明ください。

<山浦頭取>

長野県のしっかりした基盤は弊行の大きな強みです。長野県の人間は非常に真面目です。真摯な態度でお客さまの相談にのることが出来ていると自信を持っています。お客さまの懐に飛び込み、接点を強くしてきたことで、最近はだんだんと本音を言っていただける関係になってきたと思います。
銀行のビジネスモデルは、一部では、貸し金からお客さまの資産運用へと変わってきていますが、弊行の強みはこういったときに発揮できるのではないかと考えています。また、課題解決型営業に力を入れており、いち早く401k推進チームを作り、18年9月末には151社導入、契約者は1万5千人になりました。おそらく地銀の中では一番多いと思います。

<澁谷>

長野県で、貴行の口座を持っている人の占める割合はどれくらいですか。

<山浦頭取>

およそ200万の口座がありますが、長野県の人口が220万人ですから、複数持っている方を含めて7割程度の方が持っているということになります。私は、十数年前支店にいたときに、松本の郊外に新しい店舗を作るため、テリトリーにある口座を集めて移管活動を行ったことがあります。この際、中には保険に入るためだけに作った口座もありましたが、新しい支店に口座が移動したことがきっかけで活用を始める方もいらっしゃいました。このように、多くの皆様に何らかの目的で口座を開いていただいていることは大きな強みだと思います。

<澁谷>

銀行業務と証券業務のシナジー効果はありますか。

<山浦頭取>

証券会社と弊行の客層は違うようです。弊行に多くの運用資産を持ち、他の証券会社等にも運用資産をお持ちのお客さまもいらっしゃいますが、弊行には決済口座を持ちながら、運用資産の大半は他の証券会社等にあるというお客さまも多くいらっしゃいます。今までが怠慢だったのか、企業のオーナー、特に中堅企業のオーナーとの取引開拓が法人とのお取引に比べるとできておらず、これは今後の課題です。
個人の資産管理がこれからどうなっていくのかわかりませんが、いずれにしても商品の幅を広げ、お客さまのさまざまなニーズに対応するために証券会社を活用していかなければいけません。
お客さまと営業マンとのつながりは証券会社の方が強く、銀行は2年で担当が替わりますが、証券会社ではそういったことはありません。特に地域的な証券会社では、担当者が転勤しても、お客様を引き続き担当することもあるそうです。アルプス証券は個人を対象としているので、法人との取引はほとんどありません。法人となりますと、いわゆる投資銀行業務のようなことになります。証券会社とのタイアップなどを検討する中で、いろいろな資産運用のお手伝いや、法人取引のサポートをしていかなければいけません。
特に法人では、取引企業のオーナーや従業員とのコミュニケーションを図り、ニーズをつかんでいくことが大切だと思っています。

<澁谷>

今までの八十二銀行では顧客にいなかった方を取り込めたなど、効果はありますか。

<山浦頭取>

弊行では、大手證券の証券仲介を4店舗で行っていましたが、9月からアルプス証券の証券仲介を11店舗で開始しました。アルプス証券によれば、タンス株券が全体のまだ半分ほどあるとのことで、今後証券や株券が無くなりますから、証券や株券として残っているものを取り込み、預かり口座を作っていくことが将来に向けての布石です。

<澁谷>

頭取として八十二銀行をどのような銀行にしていきたいですか。

<山浦頭取>

一つめは、当行の行員は真面目で掘り下げて研究していくタイプが多いのですが、一方でスピード感が劣っていると思います。特に本部にはスピードを上げてほしいと思っています。
私は、仕事についての決断は一週間以上考える必要はなく、3日も考えれば十分だと思います。調査することもいろいろとあると思いますが、あまり細かく調査しすぎるよりも、早く実行することが大切です。考えてから走るのではなく、考えながら走るという風にしていきたいと思います。
二つめは、昔から進取の精神を大事にしていますが、最近は少しそれが鈍ってきていますので、取り戻すようにしたいと思っています。私共が銀行に入行した昭和46年頃、IBMとチームを組み、全店統一CIFを導入した総合オンラインシステムを作りましたが、都銀もまだ行っていなかったこのシステムは大変に評価されました。
また、営業店に人が増え、増築や建替え、端末機の入れ替えが必要になった際に古くなった端末機などは、地区センターを作って、そこで利用しました。地区センターは当行が銀行界で初めて導入し、都銀など多くの銀行が弊行のセンター見学に訪れるようになりました。こういった様々な先進的なことを行うことで、進取の精神を脈々と培ってきたと思います。

<澁谷>

進取の精神が、システム開発・センター設置などにつながり、「じゅうだん会」ができたということですね。

<山浦頭取>

弊行では、最初の第一次オンラインを昭和46年から開始し、数年間の準備期間を経て全店に普及させました。このシステムをIBMが仲介し琉球銀行へ提供しましたが、これがきっかけで次期システムを琉球銀行と一緒に開発することになりました。この次期システムが稼働したのは平成元年5月です。この後、IBMが仲介して、このシステムを親和銀行、山形銀行、阿波銀行、宮崎銀行、関東つくば銀行へも提供しました。
このシステムは、各銀行がそれぞれカスタマイズしていましたが、さらに投資効率を上げるため、共同版システムというものを作り、徐々にカスタマイズしない方向に変わってきています。現在、山形銀行、武蔵野銀行、阿波銀行、琉球銀行、八十二銀行の5行で共同版システムに移行しています。ニーズを聞いてどの銀行にも共通にしていこうと、じゅうだん会の企画室を弊行の企画部の中に作りました。また、一年に1、2回は頭取が集まって打ち合わせをしています。

<澁谷>

融資支援システムに関しても共同で開発していくのでしょうか。

<山浦頭取>

融資支援システムの自己査定部分については、弊行で開発しました。今後、メンバー行の意見も聞いてレベルアップしていきます。最近はシステム投資に対する費用が膨らんできていまして、銀行の中の経費も何割かは、システムに食われてしまいます。経費を節約するためには銀行も共同センターで運営・管理するようになればいいのですが、そこまではまだ踏み切っていません。

<澁谷>

地域貢献の取組みについて教えて下さい。

<山浦頭取>

環境についてはかなり力を入れて取り組んでいます。弊行は日本経済新聞社の2005年環境経営度ランキングで銀行部門1位になりました。銀行でISO14001を取得したのも、さくら銀行(現三井住友銀行)が最初で弊行はおそらく2番目です。茅野元頭取が環境に力を入れ、車が一番環境を汚染しているとマイカーを乗ることをできるだけ避けたりして、プリウスも初期に入れました。茅野は、環境を汚せば人類の明日はないと言い、ISO14001を取得しました。
最初は、電気を消したり紙を減らすことを心がけていましたが、最近は環境会計を導入し、公表しています。また、役職員家族を含めた活動である「エコライフ活動によるCO2削減運動」やキッズISOという、子供へのISOの教育も銀行をあげて行い、家庭でも教育するよう呼びかけています。また、茅野が中心となって長野県の優良企業が約380社入会している長野県環境保全協会を運営しています。国の地球温暖化について委託を受け、弊行からも寄付金を出しています。
 

<澁谷>

地域の方に開かれた素晴らしいギャラリーをお持ちですね。

<山浦頭取>

空いた店舗の1階を利用したギャラリーでの展覧会や、同じ敷地内にある財団建物の1階ロビーを使っての音楽会や長野県にゆかりのある画家の絵を集めた展覧会を企画しています。企画展以外の期間は貸しギャラリーとして一般の方に使っていただいていますが、こちらは1年先まで満杯と繁盛しています。個人の趣味で絵や写真、陶器などをやっている人たちの希望で、週単位に交代で開催しています。

<澁谷>

地域の皆さまの発表の場になっているんですね。
貴行は東京で、長野に人縁や地縁がない先でも積極的に取引をしていらっしゃり、リスクをとっていると感じます。

<山浦頭取>

地縁がなくてもきちんと審査ができれば、様々なお客さまにご利用いただきたいと思っています。最近、東京都と埼玉県に法人営業所を出しましたが、長野県と同じように地道なお付き合いをしていただく方針でやっています。
長野県にはメーカーが多く、取引先の中心は製造業です。一方で長野県の流通業、サービス業に関してはあまり盛んではないかもしれません。前身銀行の頃から生糸への融資を行っていましたが、昭和の始めにどんどん駄目になっていきました。そのあたりから精密の方に転換していったのだと思います。そんなことからか、製造業中心の産業構造となっています。

<澁谷>

長野県は、堅実な機械メーカーさんが多いですね。

<山浦頭取>

40社ほどが公開しています。部品、特に電子部品、自動車部品が強くなってきています。

<澁谷>

私は菁菁塾で講演をさせて頂いておりますが、八十二銀行の行員の方は非常に真面目で勉強家だと感じます。

<山浦頭取>

当行はかつてより研修に力を入れていました。今から30年近く前、私が20代で人事部にいた頃、銀行の仕事に直結する研修は銀行できちんとやり、自己啓発的な研修は、休日に自主的な取組みとして勉強すればいいではないかと焼き鳥屋で議論したところ、面白いと取り上げられ自主参加研修と呼ばれる研修が開始されることになりました。

<澁谷>

それが今も続いているのは凄いですね。菁菁塾とはどのような由来ですか。

<山浦頭取>

詩経の序に、「菁菁者莪 楽育材也」という一文があります。
昭和20年の初め、弊行頭取の飯島正一氏が『菁々楽育材』と揮毫したものが研修所にあります。菁々として育材を楽しむ、「我は若々しい優秀な人を育てることを心より望んでいる」という意味です。また、ずっと前、東京の中野付近に職員子女が東京に進学した時の宿を提供していまして、そこは菁莪寮という名前でした。

<澁谷>

若手行員や、女性行員に対して、どのような期待をされていますか。

<山浦頭取>

私は以前から女性の活用に力を入れたいと思っていました。女性の支店長は一人いますが、他行と比べると少なく、遅れていると思います。今後は能力の高い女性の活用をきちんとしていきたいと思っています。

私は、今の若手行員には、精神面についての教育が必要ではないかと考えています。といいますのは、子供も少なくなったのか、家庭が裕福になったのか子供を大切にするあまり、家庭では何不自由なく生活しています。我慢することの出来ない若者が増えているように思います。社会に出ると、特に銀行員になったりすると、我慢しなければいけない場面が多々出てきます。それは、規律を守ることや、コンプライアンスにも繋がってくると思います。

また、自己責任で歯を食いしばってやり抜く精神も必要です。私は、それぞれの行員が自立してほしいと思っていますので、課題を与え、プロセスについては行員自らが考え、サポートは自ら求めるという姿勢をとらせようとしています。こうすることで自主性が発揮され、達成感も味わうことができると思います。やり方を初めから指示してしまうと、考えることがなくなり、やり甲斐も少なくなってしまいます。それぞれが自分で考えて責任を持ってやる、という自己責任の連鎖が、組織の中で定着していくと非常に良いと思います。特に銀行は人が財産です。仕事の中で、楽しみや生きがいを持ち、行員ひとりひとりが能力を発揮していくことが銀行の発展につながると思っています。

<澁谷>

銀行にはこのところ自己責任が求められていますが。

<山浦頭取>

私が支店長をしていた時は、「一日一回は私に文句を言いに来なさい。文句を言う人は評価するけれども、言わない人は評価しない。」と言っていました。
というのは、同じ分からないことをやるにも、相手が聞く前に教えてしまうのと、わからないから教えて下さいと聞きにくるのとでは、大きく違うと考えています。
今後は自発的に教えて欲しいと聞きにくるような、組織風土にしていく必要があると思います。

<澁谷>

以前と比べると、銀行員の負担が増えてきています。こういった中でモラルアップさせていくには、どうしたら良いとお考えですか。

<山浦頭取>

まず、頭の切り替えが大切だと思います。規制がかかり自由がなくなってきていると思うかもしれませんが、逆にこの規制の中ではこういうことが出来るんだ、と頭を切り替えることが重要だと思います。考え方の転換をした方がいいです。

<澁谷>

考え方の切り替えは本当に大切だと思います。変化をチャンスと捉えるのかまずいと捉えるかで違ってきます。頭取は非常に前向きに物事を捉えられていると感じます。

<山浦頭取>

私がそう思わないといけないですね。「落ち込まずにやることはやる」というスタンスをもつことが大切だと思います。ただ、そのことを4000人の行員に伝達していくことは非常に難しく、支店長会議で伝達しても全員にそういう気持ちになってもらうのは難しいです。東京など、違う環境を見た行員は、もっと厳しくやらなくてはいけないと思うようになるようです。伝達をしていくのは難しいですが、色々なチャンネルを使い繰り返し言っていくしかないのかもしれません。形式を整えた「通達」だけではなく「心」がこもった伝達をしていきたいと思っています。

(2006/09/13 取材 | 2006/11/17 掲載)