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住友信託銀行 常陰 均 社長インタビュー

資金運用型金融仲介モデルの確立を目指して


▲ 住友信託銀行 常陰 均 社長

住友信託銀行の強みとPRポイントについて


<澁谷>

今年1月に社長に就任され、社長としていろいろな改革や中期経営計画の策定をされてきたと思いますが、計画にもあります「自主独立の資産運用型金融ソリューショングループ」とはどういうものか、貴社の強みと、お客様に対するPRポイントをお教えください。

<常陰社長>

まずはよく言っているんですが、やはり単一事業体で、銀行、信託、不動産という多様なサービスを、スピーディーに提供しているのは当社だけだと思っています。
今おっしゃっていただいたように、自主独立ということもポイントです。ほかの信託銀行さんでも、別の業態に区分されるところもありますし、持ち株会社方式を採っている組織体もあります。それに対し我々は、住友信託銀行としてすべてのサービスを一貫して提供するということにこだわってきました。そういう意味では、単品で商品・サービスを提供するというよりは、ワンストップでお客様のいろいろな悩みをソリューションする、そのソリューションも商品・サービスの一つと考えています。
あとは先ほど言いましたように、やはりスピードですね。いろいろな形で連携・分担することは企業として当然あるべき姿だと思うんですが、それを、組織を超えてやろうと思うとそれなりに時間もかかります。それを我々は一事業体でやっていますから、やはりレスポンスの速さはお客様へのサービスの利点の1つだと思うんですね。そういうことを肝に銘じてやろうと思っているので、これはお客様からご評価いただけるポイントではないかと思います。
加えましてここ何年間かで、資本提携や買収、子会社の設立等でいろいろな機能をそろえてきました。本体でいうと銀行、信託、不動産ですが、そういったアライアンスを通し、関連会社・グループ企業で、メガバンクさんにも、一般の銀行さんにも、またほかの信託銀行さんにもない多様な機能をそろえてきたということです。
例えばリテールについて言いますと、お客様の層を広げるために"住信SBIネット銀行(株)"を立ち上げましたし、それからウェルスマネジメント業務の取り組みとして、富裕層向けの"すみしんウェルスパートナーズ(株)"で、いろいろなコンサルティング業務をプロフェッショナルとして提供しています。これは当社の職員と、税理士、会計士、弁護士等、専門家の方とが一緒になってソリューションを行なっていくものです。
また不動産で言えば、"(株)住信基礎研究所"というものがあります。
これは今、地銀さんや場合によってはメガバンクさんからもたくさんご用命いただいているのですが、中立的な立場でかつ専門的に、不動産の投資適格性の評価等を行なっている機関です。 また、"トップリート投資法人"というREITを金融機関で唯一上場させています。不動産市況も今厳しい環境ではありますが、ビジネスチャンスでもあります。我々の不動産投資顧問会社、"住信不動産投資顧問(株)"というものもありますし、ほかにも不動産私募ファンドは今2,000億円弱の規模になっており、これからさらに大きくしていこうかとも考えています。
ほかの金融機関さんがあまりやっておられないファンクションで、受託事業と称しているビジネスも、信託のところについていうと、証券系の運用だけに止まらず、資産管理であるグローバルカストディーというビジネスを自らやっております。そのほか国内のファイナンス事業では、ファーストクレジット(株)やライフ住宅ローン(株)を展開しております。
ライフ住宅ローン(株)とは、一般の銀行のいわゆるスコアリング審査で融資が否決になる方がありますが、それは必ずしもその方の信用度が低いから否決になるというわけではないと思います。どうしても人間の属性にはスコアリングにフィットしない要素がたくさんあります。そういう方の、スコアリングに反映されない部分を対面で審査することによって融資をしていく形の住宅ローンをやっています。そういったほかの金融機関、信託銀行にない機能をそろえることで、本体だけでなく、グループを挙げて多様なサービスを提供しようと考えています。
いま申しましたようなサービスを、中立的な立場から幅広いファンクションを通して提供することができる、というのが我々の強みといえます。忌憚なく申しますと、我々は地銀さん等にいろいろなファンクションを提供することで、Win-Winの良好な補完関係をつくることができると思っています。

<澁谷>

先ほどの"住信基礎研"ですが、メガバンクさんや地銀さんから受託されるというのはすごいですよね。

<常陰社長>

やはり証券化やプロジェクトに関するリスク分析を第三者の目で検証するということが、リスクコントロール上必要なので、そういうときに住友信託に頼めば大丈夫というように感じていただきたいです。そういったことを通して、我々の不動産サービスのブランドにつながっていけばいいかなと思ってやっています。

<澁谷>

やはり金融機関同士で意見が割れたりする場面もありますよね。そういう意味では中立的なポジションでどの金融機関さんともお付き合いができるということは、本当に御社の強みですね。

<常陰社長>

場合によってはメガバンクさんからも相談をいただいたりするんですよ。やはりメガバンクさん同士で意見が割れることもありますから、そんな時に、我々がご相談に乗らせていただくことで、よりよいサービスが生まれることもあります。
そういう面で、自主独立ということは、我々がお客様に対してアピールできる1つのポイントではないかと思いますし、お客様にとって使い勝手がよくなることが一番だと思うんですね。

<澁谷>

メガバンクなんかでは金融各機能が分社されていますので、それが1つに集約されているということは、やはりスピーディーなソリューションの提供に相当役立っているといえますね。

<常陰社長>

ええ。
ではその源泉は何かとたどっていくと、やはり究極は住友信託銀行が1つの事業体であるということです。またさらにそれを原子レベルまで分解していくと、1人1人がそういう機能、能力を持っているということが住友信託銀行のパワーの源泉といえます。そういった個人単位である程度のソリューションを出すことができる人材を意識して育てているつもりですし、今後ともそれを続けようと思っています。


社長として最も注力したいこと


<澁谷>

2番目のご質問ですが、社長にご就任されてこれから注力していきたいことはなんですか。

<常陰社長>

我々は4月から新しい中期経営計画を始めましたが、その中でも「進化と融合」という言葉をキーワードに新しいビジネスをつくっていこうと考えています。
「進化」とは、営業体制を整えるとともにプロダクトの供給力を高めようと進めています。例えば役員の所管について、従来はリテール、ホール、不動産と言っていたんですが、それらをすべて、顧客グループとして壁をなくしました。その上でもう一度、格子模様というか、ミッション別に縦横の組織で活動できるようにしました。
「融合」ということについていうと、例えば信託業務の中の運用ビジネスにも融合はあります。日本の先端機関投資家からお預りしている27兆円にのぼる運用財産の中に我々のオリジナル商品をいろいろ組み込んでいるのですが、我々の商品ラインナップにない商品であれば、他社商品でもそれをご提供するということです。そこで我々はその商品をデューデリし、ゲートキーパーとしてチェックすることで、住友信託銀行としての業務を展開しています。
また、われわれが"オープンプラットフォームとモジュール戦略"と称している業務ですが、お客様にオープンな形で運用の基盤をどう作ったらいいかといったことをコンサルさせていただき、その上でいろいろな商品を提供する、というようなことをしています。
現在、日本の株式市況等は低迷していますが、その中でもやはり貯蓄から投資へという流れは不可逆の流れだと思っています。そういう市況下でも我々のノウハウは生きてきます。5月には運用部門の人間を投信販売の分野に異動させ、更なる体制の充実を図っています。
また「融合」の代表的な商品でいうと、新聞にも掲載された確定拠出年金制度があります。今、この制度を取り巻くプレイヤーは、だいたい5グループに集約されつつありますが、当社もそのうちの一つと言われております。当社のサービスとしては、"すみしんライフガイド"というものがあります。各企業の従業員が、インターネットを通して自分で資産運用についてシミュレーションをしたり、投資先のスイッチングができます。個人の資産形成のために、人と商品とシステムを融合し、新しいものを創っていきたいと思っています。

<澁谷>

自社プロダクトはもちろん、いいものであれば、他社プロダクトも持ってきて組み込んで、お客様のために総合的にコンサルティングをされるんですよね。

<常陰社長>

そうです。

<澁谷>

普通は自社プロダクト優先になりますよね。

<常陰社長>

そうです。
我々は以前から前面にこれを打ち出しています。そのことでお客様も相談しやすくなったんですね。相談すると、その相談した会社の商品ばかりを進められるのではないか、というある種恐怖心をお持ちだから、当社はもうそれはしません。お客様がいいと思うものを選んでください、と。 当社はそのための運用のポートフォリオを、どういうふうに作ったらいいのかをアドバイスします。住友信託にはこういう商品があるけれど、ご希望であれば別のこういうものを入れましょう、といった感じでサービスを提供しています。
今のオープンプラットフォームというものは、個人のお客様を対象にしたものに移っていく過渡期かと思いますので、我々はいま言ったようなコンセプトをベースに事業を展開していきたいと思っています。
銀行、信託、不動産それぞれが進化するとともに、その3つをうまく融合していきたいと思います。

<澁谷>

個人の預かり資産残高も10兆円を超えられていますよね。

<常陰社長>

取りあえず、我々は預かり資産を重視していまして、投信についても、一定程度お預かりしてポートフォリオを作っていただくことに注力しています。現在は、どちらかというと運用を少し静観しようという方が多いようですが、その分ご預金の方に置いていただいていますから、景気が上向くころにはまた自分のポートをどうするかと考えられる方がいますので、販売に注力していこうと思っています。

<澁谷>

そこは強いですよね。やっぱり預金をお預りできるのが銀行ですから、預かり資産に振り替えることは証券会社にはできないことですからね。

<常陰社長>

ええ。
ですから、最広義のラップ(Wrap)的な形で、さまざまなご提案ができるかなと思います。当然、小区分としてのラップ口座もあるんですが、広義でいうと預金から場合によっては相続とかいうものまで、すべてを受け止めさせていただくこともできます。
また、事業の前提に「信託らしさ」と「住信ならでは」ということに徹底的にこだわった事業展開をしていきたいと考えています。
この2つを縦糸にして、CSとCSRを横糸にして、住信の絵柄を編み上げたいと考えています。
「信託らしさ」というのは、いわゆる受託者精神というもので、さまざまな場面でその精神を大事にしていきたいと思います。 「住信ならでは」というのは、究極は多様性と創造性とスピードだと考えています。多様なニーズに多様なサービスでお応えし、その解を創造的に創り出すことでソリューションをスピーディーに提供する。それが住信ならではの独自のサービスと考えています。

新しい複合的な金融サービスについて


<澁谷>

新しい複合的な金融サービスについてお聞かせください。

<常陰社長>

我々が"情報プロセッシング"と称している機能があります。 運用にしても資産管理にしても、例えば証券代行などが典型ですが、従来は現物を預かることが1つの機能だったんですが、今後は、株券はなくなり電子化し、それ自体が情報になっています。そういった情報をどういうふうに加工して、サービスとして提供していくかということが"情報プロセッシング"の重要な役割になります。
証券管理と言っているものの、信託業務自体がいわば情報加工の世界に入っていまして、そういう意味で、もともと信託業務は事務のウエートが非常に高いので、そこにもっと付加価値を付けたサービスに転換していって、それを"情報プロセッシング"サービスというものに転換していこうとしています。

<澁谷>

やはりこういうふうに加工してほしいとか、リポートを出してほしいとか、分析をしてほしいといったご依頼が多いわけですか。

<常陰社長>

そうですね、これは非常に多いですね。
一番分かりやすいのは、従前よりあったサ-ビスでは、証券代行から始まって、株主を確定して総会のサポートをするといったサービスがありますが、我々はそういうサービスに止まらず、自らグローバル展開していますから、例えば外国人の機関投資家に直接連絡を取り、株主としての考えや、議決権をどうするか、投資家が今、何を考え、どういう方向に動こうとしているのか、というような情報を企業に提供しています。皆さん、本当は双方が対話を求めているのがほとんどのケースですから、我々はそういったサービスを海外のチャネルを使って提供したりしていますし、その情報を基点に新しいサービスがどんどん生まれてきている感じがします。

新中期経営計画【資産運用型金融仲介モデルの進化】について


<澁谷>

中期経営計画【資産運用型金融仲介モデルの進化】についてお聞かせください。

<常陰社長>

我々の営業スタイルとしては信託銀行ですので、商品を売り込むというよりは、お客様に活用していただく、いわゆる受託者精神というものを重要視してやっています。とはいえ我々も一定の利益化は図る必要があるのですが、あくまでお客様の側に立ってサービスを提供する、ということです。こちらから商品を持ち込むといったスタンスではないので、そういった部分を「住信は違うよね」ということでご評価いただいていたところもあるのかと思います。
業務を行なうにあたって、底流には受託者精神が流れていますので、その意味では従業員も、今のほかの金融機関にはない、住友信託銀行独自の方向性へ向かっていることについての違和感のようなものは無いのではないかと思います。そういう我々の底流に沿う形で、その上に咲かせる花の形は、ほかと違ってもいいじゃないかと思っています。
よく言うのですが、どこに行っても同じサービスが受けられるということも銀行の1つの在り方かもしれませんが、住友信託銀行はやはり独自のサービス機関なんだという違いを分かっていただいて、その違いを評価していただくことに、活路を開いていきたいという気持ちはあります。
マーケットインとプロダクトアウトとはよくいわれますが、我々の原点はあくまでマーケットインが先で、その後にプロダクトを提供するという順番です。
ほかの銀行さんのように決済を担うとか、個人の給与振込を担うことでお客様を増やし、汎用化された商品を提供するというよりは、例えばご預金を集めるにあたっても、どちらかというともともとは退職金等のまとまったストック性資金にターゲットを絞っていましたから、その意味で個別性が非常に強いと思います。個別性が強ければマーケットインの形で入るしかありませんからね。 また、そのマーケットインでやろうと思うと、創造性と多様性が絶対必要なものになってきますからね。

<澁谷>

お客様も個人法人を問わずニーズが多様化していますから、それに応えるためには多様であって、創造的なものにこそ付加価値が生まれるということですね。

<常陰社長>

そうです。
これで住友信託銀行のイメージカラーが鮮やかな色になってほしいと思います。 我々のグループの中で、住友信託銀行の色はいぶし銀です。住友グループではいろいろな色が各社ごとにあって、我々信託は設立されたときからいぶし銀です。これもなかなかいいかと思います。渋くいぶすことでいい味が出て、それでお客様に受け入れられるということですからね。 そしてこれからは、いぶしをベースにして少し華やかな色合いに織り上げられればと思います。

グローバル戦略について


<澁谷>

グローバル戦略についてですが、先ほどグローバルカストディーというお言葉もありましたが、これから新社長として、どういったグローバル戦略をお考えになっていらっしゃいますか。

<常陰社長>

我々はグローバル重視で、国内にいる人にもグローバル目線を持ちなさいと言っています。日本のサービスの中でも世界に冠たるサービスはたくさんあると思います。口座振替なんかは、なかなかここまでやっている国はないと思います。そういった世界に誇れる日本のサービスを、住友信託銀行は「信託らしさ」、「住信ならでは」の原則を生かしつつ提供していきます。
その意味で海外居住者の方向けの商業銀行的な業務は、我々のメインのミッションでもないだろうという判断があったと思います。むしろ、よく5事業と言っているんですが、いわゆるアセットマネージ、不動産、カストディ、投資事業、海外の日系の方へのサポート、この5つは当然、日本の金融機関として機能を備えています。
この5つがグローバル戦略を考える上でのポイントで、日系の方向けサービスやご融資といった面が中心となり、海外で現地企業に対し、リレーションシップを築いて展開していく、というようなことはやっていません。
我々のミッションから見ると、信託の延長にあるビジネスを日系の方等に提供していこうと考えています。

若い社員に望むことについて


<澁谷>

社長として、若い社員の方々にはどういったことを望んでいらっしゃいますか。

<常陰社長>

先ほど申しました「進化と融合」というのは、個々人のことに全部置き換えられるわけです。一人一人が進化し、その進化した人たちが融合するということが原点で、それがビジネスに直結するということです。多様で創造的でスピーディーな人間になってほしいと言っています。具体的には、要は人材そのものがハイブリッド型になってほしいということです。信託ですから、自分のコアとしての専門性とほかの事業へのシナジーを生む総合力、つまり「コア専門力+シナジーを生む総合力」を持ったハイブリッドな人間になってほしいとお願いしています。

<澁谷>

そうすると人材の育成については、まず専門性を深めていきながらほかのことも経験して総合力を高めていくということですね。

<常陰社長>

そうです。
一定期間いろいろな部門で経験してもらうがそこに人材を固定化はしません。当社は非常に自由な制度を設けています。部門戦力と言って、これは専門分野部門をこれと決めた人で、リテールならリテール、ホールセールならホールセール、不動産なら不動産という形で、そのままその分野で勤めていただくというものです。それから、我々はキャリア制と称していて、Pキャリア、Dキャリア、Eキャリアがあります。例えば、Dにはいろいろな5つの事業分野がありその中で業務をこなしてもらう、Pはいろいろな分野を回り、ある程度専門性を持ちつつローテーションします。Eは大きく転勤せずじっくり勤めていただくという形で、これは女性を中心とした方に活躍してほしいと考えています。

<常陰社長>

人事については、私がヘッドとなり"人材構築会議"を開いています。今はやはり人材育成競争になっていますから、誰かがヘッドにならないとローテーションなんかも、当然あつれきがあるわけですね。優秀な人には色々経験をさせたいと思うのですが、優秀な人がいるセクションの人間はその人をいつまでもそこに置いておきたいと考えるので、こういった会議で全体を眺めての判断が必要になるのです。

<澁谷>

お話を伺って、いわゆる総合金融グループというイメージがすごくわきました。グループの独自性というか、自主性というものがよく理解できました。

<常陰社長>

やっぱりそういうものがないと、規模だけではやっていけない時代だということを、我々は強く認識していますし、ほかと違った上質なサービスこそが住友信託銀行なんだと認識してもらう必要があると思っています。
これは若い人によく言うんですが、多様な価値観を持った人がそれぞれの個性を発揮してはつらつとした人材集団になれたらいい、ユニークな元気のある会社でありたいと思っています。

(2008/08/01 取材 | 2008/10/07 掲載)