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スルガ銀行 岡野光喜社長インタビュー

夢をかたちに、夢に日付を


▲ スルガ銀行 岡野光喜 社長

企業理念について

<澁谷>

御社の「Our Philosophy」(私たちの価値観)という企業理念と、「夢をかたちに、夢に日付を」というお客さまのより確かな未来を描き添えるミッションについてお聞かせ下さい。

<岡野社長>

背景には、1995年に創立100周年を迎え、21世紀に入り、あらためて企業思想や企業理念というものを整理し、今の言葉で表現した方がいいのではないかという考え方がありました。振り返りますと、歴代頭取がいろいろな言葉を遺していますが、その中で遺すべきものと、逆に現代とはニュアンスが違ったものが混在していること自体、社員にとっては分かりづらいだろうということで、2002年4月に「Our Philosophy」を制定しました。
この中で、お客さまに対して、スルガ銀行としての企業思想や企業理念を一口でわかりやすく言い表そうということで、ミッションをお客さまの<夢をかたちに>する、<夢に日付を>いれるお手伝いをさせていただくと表しました。
そして、この「Our Philosophy」の中には「挑戦者たちの隊列」というフレーズがあります。このフレーズで我々が言おうとしていることは、企業というのは社会があって、初めて存在するという原点をもう一回見つめ直そうということです。要するに、お互いさまという原理とおかげさまという感謝の言葉を我々はいつも心に秘めていましょうということです。人間というのは社会の一員でもあるし、また企業も社会を構成する一員であります。今から112年前の1895年に、資本金1万円と全国で一番小さい銀行としてスタートした当社がここまで成長できたことは、やはり地域社会の皆さま、あるいは株主の皆さまとのお互いさまという原理とおかげさまという感謝によるものだということを忘れてはならないと思うのです。
また企業としての3つの成長の形を「Our Philosophy」の中で示しています。1つ目はスルガ銀行はステークホルダーの皆さまと価値を交換する立場でありたいという価値交換型ということ。2つ目は使命型企業。要するに我々は「夢をかたちにする、夢に日付をいれる」というミッションを掲げたので、その実現性の向上は使命です。3つ目は、「Culture-oriented、People-based、Social-perspective」というC・P・Sを原点とした成長をいつもやっていきたいということです。
また、我々のDNAというものも3つに分けて整理しています。1つ目は「All-out Quality」、最良の質を探究する。2つ目は「All-out Uniqueness」、差より違いの創造をしましょう。3つ目は「All-out Openness」、自由闊達な開かれた会社でありたいということを我々のDNAとしようということです。
この「Our Philosophy」は新入社員はもちろんのこと、昇進や研修時などあらゆる機会に何度も読み、ときにはQ&Aなどもやったりします。これを常に原点に置いているということです。
当社はリテールに特化し、その中でも特に個人ローンを中心に営業していて、個人ローンで一番大きいウエートを占めるのは住宅ローンになります。住宅ローンのお客さまは、少なくとも15年か20年はお付き合いいただくことになるので、お客さまから「スルガ銀行は今後いったい何を目指して、成長あるいは経営をしていくのですか」といった質問に答えられないとお客さまも不安に思うのではないでしょうか。そこで「お客さまの夢をかたちに、夢に日付を入れるお手伝いをさせていただくということをモットーとして日々努力しています」と私共のミッションをお伝えすると、お客さまも安心されるのではないかと思います。
また、人間一人一人、それぞれのライフステージにおいて夢はお持ちだと思います。例えば大学を卒業して社会人になったときにまず車を持ちたいとか、結婚をして家を持ちたいとか、夢というのはその場その場のステージで変わっていくものだと思います。
黒子になって、夢を実現するお手伝いをさせていただくことが我々の仕事だと思っていますので、そういう意味では、あくまでもお客さまの夢をサポートできる立場であり続けたいというのが、この「Our Philosophy」の中で言わんとしていることです。

<澁谷>

2015年までの長期経営ビジョンとして、「Aim15」があり、この最初の段階として、コンシェルジュバンクを目指し、最終的にはライフ アンド ビジネスコンシェルジュに到達するということですが、15年という期間はどういうことでしょうか。

<岡野社長>

「Our Philosophy」は企業の普遍性、永続性を表すものです。一方「Aim15」というのは2001年から15年間という時限性のある中期計画ということになると思います。
15年というと非常に長いと思われるかもしれませんが、「大きな飛躍」「大きな変革」を実現するためには、それにふさわしい期間を設定する必要があると考え、その実現へ向けて15年を3年ずつ、5つのフェーズに区切っており、この2007年4月から第3フェーズに入っています。最初の第1フェーズが「Start for Aim15」、いわば助走のための3年間でした。第2フェーズが「Fly-high for Aim15」、高く飛躍した3年間です。そして今回の第3フェーズは「Quest for Aim15」という形で、もう一度あらゆるものを見つめ直し、探求する3年間になります。「Quest for Aim15」は、7年目でちょうど折り返しという意味で、第1フェーズの「Start for Aim15」と第2フェーズの「Fly-high for Aim15」で、できたこと、できなかったことを踏まえて、社員一人一人が自ら考え、行動し、探求していくという形になっています。
Aim15は3年ごとに違う山を1つずつ登っていって、5つの山を全部登り切れば、そこから更にステップアップすると言うことになります。
また、この中期計画の特徴は計数の目標というのがほとんど入ってないことです。毎年IRで年間目標を出して、半期ごとにIRのレビューをして成果報告をしていますので、そちらの方で計数というのは全部把握できますし、仮にこれから3年間の計数を作ったとしても、あまりにも不確定要素が多く、発表した計数を度々変更しなくてはならなくなると言う事態にもなりかねません。そうなるといったい発表した計数は何だったのかということになると思うので、中期計画の中には計数の目標というのがほとんど入っていないのです。
この第3フェーズの「Quest for Aim15」では、探求するという点においていろいろな仕掛けがしてあります。
例えば、1つがニーズとバリューです。お客さまの期待、要求への的確な対応がニーズですよね。バリューというのは、お客さまに対する価値提供の実現ということで、これが1つのセットになっています。
2つ目がビジネスモデルとアイデンティティーです。持続的成長に向けて「All-out Uniqueness」の中における、当社独自のビジネスモデルをつくりましょう。その結果として、当社独自のアイデンティティーが強化されるということになります。
3つ目がワークスタイルとグローアップ。ワークスタイルというのは何かというと、社員一人ひとりがミッションや価値観に合わせたワークスタイルをどう考えて行動するかということです。その結果、社員が元気であり、当社が元気になるグローアップということです。
この中には、いろいろ設問があるのですが、それをみんなで考えて発表しながら、成長していこうということです。企業が永続性を持って成長するという場合に、計数よりもむしろ会社としての企業思想に基づいて、社員がどう成長していくかということが一番重要だと思います。
例えて言えば、稲刈りばかりしていれば、結局稲はなくなってしまいます。種をまいて苗を植えるから稲刈りができるのです。森林だってヒノキやスギを植えて、木として伐採できるのは50年後ですよね。丹念に育てるからこそ回っていくわけで、それを止めてしまえば一定期間伐採はできるけれども、その後は結局はげ山になってしまうわけです。ですから、人材を育てながら成長し続けようというのが当社のコンセプトになっています。
よく新入社員に言うのですが、十人一色は望まないし、十人十色も望みません。一人十色になってほしい。それぞれ個性があるだろうし、例えば会社にいるときはスーツが似合うけれども、オフタイムになったらジーパンが似合うとか、チノパンをはいても様になるとか、ほかにボランティア活動をするとか、スポーツをするとか、得意なことや趣味それぞれみんなあるでしょう。だから10色ぐらいないと、今の社会の変化というものに対して敏感に感じ取れないのではないかと思います。
個性があった方がいろいろなアイデアが出てきて、ぶつかり合うし、ぶつかり合うことによって初めて議論ができるので、1つの形しかない「金太郎あめ的発想」はいりませんというのが当社の考え方ですね。

社長になられて最も注力してきたこと

<澁谷>

社長になられて最も注力してきたことについてお聞かせ下さい。

<岡野社長>

1985年に金融自由化が始まるまでは、すべて金融機関というのは規制で縛られ、前例、先例から抜け出すことが出来なかった業界ですよね。
そういう意味でいくと、一番注力したことは前例を破ろうとしたことです。「前例なきことへの挑戦」という言葉を今でもよく使う場面があるのですが、最初の5年間は特によく使いました。前と同じことをしていたら新しいものは何一つ生まれてこないのですから。
「前例のないことに挑戦する」といった場合に、まず自らが変わらなければいけませんから、「頭取」の呼称をやめて「社長」に、そして「行員」も「社員」に呼称を変えました。要するに、金融機関も株式会社ですから普通の会社と一緒だということです。ほかの株式会社と何が大きく違うのかといったら、決済機能を持っているというこの1点にすぎないと私は思います。
具体的な形となって表れれば、みんな気が付くし、そうすれば普通の会社と一緒だねということになり、自由な発想で仕事ができるようになる。法令遵守は当然のことですが、余計な殻を取ってあげることで、新しいビジネスへのヒントが生まれてくるというのが私の考え方です。
そして「新たな発想」と言った場合に何が一番足りなかったかと言いますと、スルガ銀行しか知らない社員ばかりだったと言うことです。ほかの業界では経験者入社というのが既に当たり前になっていますが、銀行では異業種、異文化を持っている社員が極めて少なかったのです。
それなら、当社も他業種の文化・風を入れてみようかと思いまして、いまやさまざまな部署で経験者入社の方に活躍してもらっています。金融自由化が進展し、取り扱う商品、サービスがますます増えてきているので、銀行業だけの知識と経験では対応出来ないことも出てきました。そこで他の会社で金融サービスに携わってきた人たちが入ってくることによって、銀行員では気が付かないようなことを自由に発想してくれます。三人寄れば文殊の知恵ではないですが、いろいろな価値観と経験を持った人が集まれば、必然的によりよいものが出てくるのだと思います。

革新的な戦略・営業展開について

<澁谷>

スピード感あふれる、先進的、革新的な戦略とか、営業展開がどんどん生み出される理由は、1つは今の経験者採用ということと、もう一つ社長ご自身の発想というのもあるのではないかと思いますがどうでしょうか。

<岡野社長>

それはないですね。より働きやすい舞台を作ることだけが僕の仕事だと思っているので、発想は社員の皆さんからのものです。営業店を回ってみると、皆さん一人一人に話を聞くといい意見を言ってくれます。ところがそれが組織になると、せっかくのいい意見が途中でみんなきれいに消えてなくなってしまいます。
何が原因かというと、縦の線が強すぎるのです。若い方々のいい意見は、経験のあるベテランの「そんなものはだめだ」の一言で消えてしまいます。これではいけないということで、20代、30代の社員だけを集めて、いろいろな提言を直接してもらおうということを始めました。昔は「ジュニアボード」と言っていましたが、今は「先端人会議キカク」という名前で行っています。
「先端人会議キカク」の仕組みは、最長1年間かけて新たな商品・サービス等を提言するという仕組みです。ただ商品・サービス内容の提案をするだけでなく、その商品・サービスを提供するためにどのくらいコストがかかり、成果としてどのくらい収益が期待できるのかまでを含めて提言をするという仕組みになっています。もう20年ぐらいやっていますので、そういう意味では「提言する」ということに社員の皆さんも慣れてきていると思います。
それともう1つ新たなアイデアを生む仕掛けに、イントラネット上に「探検21・21」というものがあります。ここにはだれでも自由に書き込みが出来、いろいろな提案が出来るようになっています。書き込まれた提案事項はすぐに担当部署別に割り振られます。これを受けた本部の担当部署は大変でしょうが48時間以内に何らかのアクションを起こさなければいけないという決まりになっています。
また投票箱というものもあって、「こういうものをやりたいけれど、どう思いますか」といった場合に、投票箱を開けて賛成または反対を表明できるようになっていて、非常に面白い仕掛けです。だからどちらかというと、この「探検21・21」は企画部門が主体となって考えていくのではなくて、お客さまと第一線で接している社員一人一人が気付いたこと、お客さまからヒントをいただいたことなどを基に提案をするという仕組みになっています。
ここから、「女性専用の住宅ローン」や「がん保険付き住宅ローン」、バイオメトリクス技術を世界で最初に使った金融商品である「バイオセキュリティ預金」のような非常に感度の高い商品が出てきています。全てお客さまの声から出てきて、社員が提言し、実際の商品として実現したものです。

<澁谷>

「先端人会議キカク」には社長も参加されているのですか?

<岡野社長>

全て任せています。最後に大発表会があるので、そこで議論しますが、途中は任せっきりです。最初の5年間ぐらいは本部の力につぶされないように、途中でもよく出ていき励ましたけれど、今はしっかり確立されていますからもう出て行く必要はありません。このような仕組みや仕掛け、舞台を作るのが私の役割で、あとは社員が自由にその上で踊り、活躍してくれれば一番いいわけです。
僕は学生時代サッカーをやっていましたが、サッカーというのは1人の優秀なプレーヤーがいても、絶対に勝てないスポーツです。11人が連携して動かなければ勝てないわけで、勝つためどういうふうにボールや選手が動くべきかという事を瞬時に推測し、実際に動かなくてはなりません。それには日常のコミュニケーションというものが非常に大事になります。
そういう意味でいくと、金融機関の反省点は上下の命令系統が強すぎて、社員同士がコミュニケーションをして、何か新しいものを作り出そうというチャンスの場すら与えていなかったということだと思います。それを与えてあげれば、結構みんな喜んでいろいろなものを企画したり、考えたりします。
営業店というのは本部部門のいろいろなところからさまざまな指示が飛んでくるので、それをこなすだけで精一杯でしょう。そういう営業の命令系統というのは当然必要なのかもしれないけれど、企画、商品開発、サービスの改善というものを考える場合、新たなアイデアは出にくいと思います。

<澁谷>

従来の銀行ですと、本店の企画部や、経営企画部とかが作っていますよね。

<岡野社長>

当社は「先端人会議キカク」と「探検21・21」が中心です。だから新しい商品の開発、案件書などは何もなくて、ここから上がってきて、それでやろうかと言って、みんなやっています。
実際、パソコンが90年代半ばから飛躍的に性能がよくなって、サーバーもよくなったから、いろいろなことができるようになりましたよね。そういう意味でいくと、社員全員に90年代の最初にPCを渡しておいてよかったと思います。
みんな自由に提言するし、イントラネットも十分活用しています。各部からの紙による通達はなくなり、電子掲示板への掲載になりました。まさに90年代から今にかけてIT技術が進歩したことによって、社内のコミュニケーションや会議というもののあり方が変わったと思います。ですから、私の机には書類がありません。パソコンの中に全部あって、パソコンを見ればいろいろなものが出てくるようになっています。

異業種との業務提携について

<澁谷>

異業種との積極的な業務提携が非常に成功されていると感じますが、この戦略についてお聞かせ下さい。

<岡野社長>

いろいろな業務提携を行っていますが、インターネットバンキングを始めたときが最初のきっかけです。邦銀初の非対面型店舗を始めたときに考えたことは、インターネットバンキングの場合には、付加価値がないとお客さまは利用してくれないだろうということでした。ですから、そのときの第1号商品は、当時20代後半の社員が考えた宝くじ付き定期預金でした。
定期預金を預けると、店頭ではノベルティーを渡しています。そのノベルティーはどこの金融機関も同じようなポケットティッシュやラップとかで、結構経費は掛かっているのに、もらったお客さまはあまりよろこんでいないのです。だったらインターネット支店ではそれをやめて、宝くじと当たれば3億円という夢を代わりにプレゼントしたらどうだろうという発想です。賛否両論ありましたが、預金残高200~300億円程度を目標に始めたのが、いまや2,000億円を上回る残高になっています。
また他に、女性のお客さまにもっとインターネットバンキングをご利用いただきたいと思い、女性に非常に人気のあるプロバイダーサイトの「So-net」と提携して、女性の方によろこんでいただけるような「ホテルペア宿泊券」や「レストラン食事券」が抽選で当たる定期預金などをご提供する邦銀初の女性向け支店「ソネット支店」を作りました。
このように付加価値を付けた商品をご提供することで、お客さまに喜んでインターネットバンキングをご利用いただけると思いましたので、それからいろいろな形の業務提携を始めていきました。例えば、我々は決済機能を持っている一方で、ANAさんには1,500万人以上といわれるマイレージ会員の方がいらっしゃるわけです。双方の商品・サービスをご利用いただくことで、お互いにメリットが生まれます。そのほかにもVISAデビットカードで、エイチ・アイ・エスさんや近畿日本ツーリストさんと提携させていただいております。
他の企業も競争が激しいから、他社との提携サービスで差別化、付加価値を高めたいというニーズがあります。ですから、多くの顧客接点を持つフロント型企業とイネーブラー型企業として差別化した金融機能を提供することのできる当社とのマッチングが成功するのだと思います。

<澁谷>

住宅ローンを借りて、マイレージが付いて、海外旅行に行ければお客さまも喜びますからね。

<岡野社長>

そうです。住宅ローンをご利用いただいているお客さまが、ANA支店をご利用することによって、ANAのマイレージが貯まることになります。お借り入れしているのに、プラスアルファでマイレージが付くとなると、お客さまは非常に付加価値が得られたと思いますよね。だから、業務提携というのは、お互いがウィン・ウィン、メリットがあるということが一番大事なことです。フロント型の企業にとってどういうメリットがあって、イネーブラー型企業として当社にはどういうメリットがあるかということです。そういうメリットがお互いに見出せれば、非常に成功すると思います。要するに、「業務提携」というよりも「業務協業」ではないかと私は思います。
話は少し変わりますが、IR等でよく当社はWeb2.0を真似て、Bank2.0という言葉を使います。Bank2.0の根本はたった2つしかありません。1つは「創る」金融、もう1つは「溶け込む」金融です。
「創る」金融というのは、いかによいコンテンツを押さえているかということです
「溶け込む」金融というのは、生活インフラに溶け込むということです。だからインターネット支店やモバイルバンキング、コンビニATMやデビットカードというのは、まさに生活インフラの中に溶け込んでいくという形です。どちらかというと、他の銀行の皆さんは「創る」金融には非常にご熱心で興味があるのに対して、この生活インフラに「溶け込む」金融には、それほどまだ関心を持っていないようです。

▲ d-laboは、東京ミッドタウンの七階にあり、
誰でも利用することができます

d-labo(夢研究所)について

<澁谷>

この3月に六本木の東京ミッドタウンにd-labo(夢研究所)がオープンしましたが、お取引がなくても自由に来て楽しんでくださいと言うのは新しい考え方だと思いますし、まさしく「夢をかたちに、夢に日付を」というコンセプトを持った施設だと思います。こちらについてお聞かせ下さい。
 

<岡野社長>

d-laboを作るときに、みんなでディスカッションした中で出た意見は、結局金融機関の窓口に来るということは「手段」でしかないということでした。「お金を預ける」、「ローンを借りる」、「投資信託を買う」、全部手段ですよね。「目的」は別にあるのです。必ず皆さまは、手段を使うことによって何か目的を達成したいと思っているわけですから。
例えば、どんな家を建てるとか、マンションを買うとか、あるいは結婚25周年で旅行に行きたいとかいろいろ目的がありますよね。そのようなものに対して、手段しか提供してこなかったのがいままでの金融機関ではなかったのかなと思ったのです。ですが、「お客さまの夢はいったい何でしょうか」と窓口で急に言われても考えてしまいますよね。
ですから、「ライブラリー」とか「アトラス」と言ういろいろなコンテンツを設けて、自由に、楽しく夢を語れるような場所をご提供し、お話させていただくうちに皆さまの夢がおぼろげに分かってくる場合があります。その積み重ねは商品開発をするときの大きなヒントになってきます。d-laboは夢のインデックスと言っていますが、お客さまに夢のインデックスをたくさん話していただいて、それを私たちが実現のためのお手伝いをしていこうということです。
当社のミッションは、「夢をかたちに」、「夢に日付をいれる」お手伝いをすることなので、お客さまの夢をもっとたくさん、具体的に知ることができれば、なお一層多様なサービスをご提供させていただけるのかなという気持ちもあります。まだ開店から7月末で4ヶ月ですが、d-laboのコンセプトに対し、多くの方から共感のお声をいただいております。

▲ 夢にまつわる本を集めたライブラリー
ところで、先日いろいろな金融機関の役員や企画担当の方々がd-laboにおみえになって、非常に面白かったのですが、開口一番、「これでどうやってもうけるのですか」とおっしゃいます。しかし、もうける、つまり利益をあげるということはあくまで結果です。その前にお客さまが夢を持って、夢を実現するために我々の金融機関を選んでいただくということが、最初のステップになるのであって、その結果が、例えば預金をお預かりすること、あるいはローンをご利用いただくことに繋がってくると思います。

キャンパスヘブンに代表される事務効率化について

<澁谷>

御社の本部機能である「キャンパスヘブン」についてお聞かせ下さい。もともとコンピューターセンター用の建物に本部機能を移し、本店(営業部)とは別の場所にあるというのが非常に象徴的だなと思うのですが、どうでしょうか。

<岡野社長>

キャンパスヘブン建設当時、本店の場所は容積率と建ぺい率の制限があって、それほど大きいスペースを確保することが出来ませんでした。これが理由の一つでした。キャンパスヘブンは別館と新館とがありますが、別館の方はワンフロア1,000坪で、5階建てですから計5,000坪です。こんな大きなスペースを使っているところあまりないと思います。
そして、ほとんどのフロアには壁がなく、オープンスペースになっているので、社員が行ったり来たりできます。いまや在宅勤務が始まる時代ですから、何も本店所在地に全ての本部機能がなければいけないということはないでしょうし、仕事の効率性とともに環境のいい施設の中にいた方が発想も豊かになると思います。
また銀行業務というのもいまや大規模なコンピューターシステムを抱える壮大な装置産業です。コンピューターシステムなしでは何も始まりません。そうなると、コンピューターセンターと直結していると言うことは、あらゆる業務にとってメリットがあると言うことです。
また沼津の本店にも、新幹線の三島駅にも車でほぼ30分以内で行けますし、第二東名高速道路や東駿河湾環状道路が完成すれば、さらに交通の便がよくなるでしょう。今までのように市内にあった方が便利かというとそうではなくて、この高速道路網によって、まさに時間軸が変わってきています。この時間軸を享受できる場所にあるということも非常に重要だと思います。

<澁谷>

契約書も全部集めてデータ化して、印鑑照合なんかもやられているということですが、やはり事務の効率化には非常に効果があるのでしょうか。

▲ キャンパスヘブン内

<岡野社長>

効果はあります。BPRをこの15年間に3回にわたってやってきて、今4回目をやっています。60年代後半にコンピューターが稼働して勘定系ができて、70年代から80年代にかけて情報系ができて、90年代はもうCRMが出来上がったのですが、15年前にBPRを始めるときに気がついたことは、銀行はコンピューター化は積極的に行なうものの、その反面、業務の見直しはあまり行なっていなかったということです。いわゆる営業店での完結主義という形だったのです。コンピューターがなかった時代には営業店完結型でなければいけなかったのでしょうが、コンピューターが発達することで、営業店完結型でなくてもよくなったのです。
営業店で行っていた事務処理を本部に集中して工場のように流れ作業にすれば、かなりの経費削減ができます。例えば、伝票綴りや、ローンの実行オペレーションも個々の営業店でやるより本部で業務に習熟した社員がまとめてやった方がはるかに効率良く、ミスオペレーションも少ないのです。契約書類も静岡は大きな地震の危険もありますから、各営業店の金庫に置いておくよりも、本部にまとめておいた方がはるかに安全なのです。その結果、営業店では、書類の保管スペース等が空くわけですから、その分営業のためのスペースを広く設けることが出来るようになります。
銀行業界でも時代の流れとともに業務フローが変わり、管理方法も変わってきたわけですが、業務の見直しは営業に比べ取り組みに温度差がありました。しかしながら、やはり営業と業務というのは両輪ですし、営業と同じように業務分野にもIT投資をすれば、それだけの効果は必ず出てくるのです。

当社を志望する方々に対して

<澁谷>

若手の銀行員の方、それから御社を志望される学生の方や経験者採用希望の方に期待することは何でしょうか。

<岡野社長>

チャレンジする方なら誰でも歓迎します。銀行と言っても幅広い分野の仕事があります、コンピューターも使うし、クレジットカード事業もやっている。ですから自分の興味のあるもの、何かこういうものをやってみたいなということがあれば非常にいいと思うし、逆にスルガ銀行に就職して仕事を学ぶのではなくて、自分の才能をスルガ銀行で存分に発揮したいと思う方はどんどん来ていただきたいなと思います。

<澁谷>

自分の才能をスルガ銀行で発揮する。そういう舞台なら、自分でいろいろできるので面白いでしょうね。

<岡野社長>

実際に入社してきて本当に何でもやらせてくれると経験者採用で入社した社員がよく言っていますよ。

<澁谷>

銀行は規制の中でできないことが多いように感じていましたが、本当はすごくやれる舞台があるということですよね。

<岡野社長>

私はそう思います。日本の水泳教室は、子供にスイミングスーツに着替えさせて泳ぎを教えます。ところが、オランダでは、まず最初にジーパンに運動靴を履いたままプールに入らせるのです。速く泳ぐのではなくて、万が一水路に落ちてしまった場合、いかにして水路から泳いで帰ってこられるかという、「生きる」ということが前提にあるのです。
他にも、今から15~16年前にユダヤ系のフランス人の家庭に行って話をして面白かったことがあります。父親はソファの上で手を広げてそこに向かって飛んでくるように子供たちに言います。そこに子供たちが飛んでくるとぱっと手を引っ込めるのです。当然子供たちは、ドーンと床に落ち、その痛さで泣くわけです。その時に父親は子供たちに向かって「Don't believe father」と言うのです。自分で危険を感知しなさいということですよね。
ただ日本の今の在り方は、特に母親が子供たちに「これをしてはいけない、あれをしてはいけない」と言うでしょう。外国の場合、ストーブなんかが熱ければ、その危険さを教えるためにあえてぱっと触らせて、すぐに離して、「熱いからだめよ」と言うでしょう。日本の場合は、実体験させることなく「熱いから触ったらいけないよ」ですよね。
当社では基本的には何でもやっていいよというスタンスです。最初から要件を与えてしまうと、人間はシュリンクするけれども、自分で企画したものをやってみて、壁に当たればその壁を乗り越えるためにどうするかということを自分で必死に考えるわけだから、そっちの方が時間はかかるかもしれないけれども、本人の力にもなるし、成果もしっかり出るものなんです。

<澁谷>

「先端人会議キカク」も、ある意味アイデアを出すというだけではなくて、収益とコストという経営責任みたいなものも負わせていますものね。

<岡野社長>

若い世代からそういうコストパフォーマンスを教えたかったのです。この「探検21・21」を始めたときに、一番怖かったことは、こうしてほしい、ああしてほしいということしか出てこないのではないかということでした。それでは「願望」ばかりで「提言」になっていないのです。「こういう商品を開発してくれれば、これだけ我々がセールスして成果が上がります。コストがこれだけ掛かって、売るべきプロフィットはこうなって、ビジネス上にこれだけ収益寄与できます」というふうになればいいわけです。この考え方、発想手順を若いうちからきちっと教え込めば、考えてやっていくようになります。やはり鉄は熱いうちにたたけということと同じで、若い世代からそういう基本的な在り方というものをしっかり教えることが一番大事なのかなと思います。

<澁谷>

本当に私も銀行というものに対して、期待感・希望が持てる感じになってきました。ありがとうございました。

(2007/06/26 取材 | 2007/09/03 掲載)