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山口銀行 福田浩一頭取インタビュー

地域を超えて未来のために


▲ 山口銀行 福田浩一頭取

山口県を地盤とし、下関市に本店を置く山口銀行は、現在はもみじ銀行と共に山口フィナンシャルグループとして発展しています。
「これからの地方銀行は健全な危機感を持って新たな挑戦をしなければならない」と訴える福田頭取にリッキービジネスソリューション澁谷耕一がお話を伺いました。

<澁谷>

2006年10月に山口フィナンシャルグループ(YMFG)が発足しましたが、グループビジョンということで「地域を超えて未来のために」というスローガンの下、総資産で10兆円、アジアに強い銀行として、中国・四国地方で最高の金融グループとなることを目指されていますが、YMFG設立後の取り組みについて、ご説明ください。

<福田頭取>

もみじ銀行とは県境を超えた、なおかつ合併をしないで各々の強みを生かして規模の拡大を目指す新しい取り組みを行っています。言うまでもなく、激変する企業環境の中で、的確な地域密着型のあらゆるサービスを提供出来るように模索している最中です。

▲「地域を超えて未来のために」と題した
ポリシーをまとめたミニカード

<澁谷>

クレディセゾンと設立されたワイエムセゾンや東海東京証券と設立したワイエム証券など、グループ戦略についてご説明ください。

<福田頭取>

クレディセゾンとのワイエムカードはきわめて順調に進んでいます。「ゆうちょ銀行」がクレディセゾンとの提携を解消し、この地域については当行と提携したこともあり、極めてうまくいっています。
ワイエム証券はこれからの段階ですが、海峡メッセ(高さ153m海峡ゆめタワーを中心にした下関市の複合施設)に本店を開設し、広島支店も開設しました。また当行の山口支店で銀行内支店もスタートします。今後、山口銀行の主要店舗に銀行内店舗を出店し、その後、もみじ銀行でも銀行内店舗をスタートしたいと思っています。

<澁谷>

証券会社設立の目的はやはり、違った顧客層を狙うということでしょうか。

<福田頭取>

ワイエム証券の設立は富裕層対策もありますが、いわゆる金商法対応でもあります。
リスクの大きい金融商品を銀行本体で片手間にやっていくのはやはり難しく、リスクの大きいものは将来的にワイエム証券が販売し、その他のリスクの低い商品は銀行が販売することを考えています。ワイエム証券は陣容も拡大しており、東海東京証券からも人材協力を頂いていますが、内部管理者の養成が予想以上に難しいです。将来的には東海東京証券からの人員ではなく、自前の人材を養成していき、必ず成功させたいと考えています。東海東京証券としても最初の銀行との提携でもあるので、毎月、東海東京証券の社長さんとも会って、成功を誓い合って頑張っています。

<澁谷>

ロンバー・オディエ・ヘンチ・ジャパン(以下ロンバー社)との提携についてはどのようなお考えから提携をされたのでしょうか。

<福田頭取>

ロンバー社とは、若手行員の育成と新しい風を組織の中に吹き込みたいと思い提携をしました。以前は当行でも長期のトレイニーを海外に派遣していたが今は無くなったので、ぜひ、ロンバー社にトレイニーの受け入れをお願いしようと思って提携を結びました。もちろん、海外の金融知識も学んでもらいたいと思っていますが、PBの本場であるスイス、ヨーロッパでプライベートバンクとはこういうものだということを若手行員に実体験してもらおうと考えていました。しかし、スイスのワーキングビザ取得が難しいということで現在は、スイスに短期留学し、その後は東京で研修するような形で当面は対応しようと考えています。もちろん、ロンバー社とは顧客紹介等のビジネス面でも深耕していくつもりです。

<澁谷>

山口銀行ともみじ銀行のお客様へのPRとそれぞれの強みについて、ご説明下さい。

<福田頭取>

これまで、山口銀行はいわゆる健全性は誇っていました。しかし、将来の収益力については問題がありました。一方、もみじ銀行については、過去にいろいろな問題がありましたが、広島では22%のシェアを有しています。そこで、もみじ銀行に両翼作戦の一翼を担っていただきたいと思っています。
以前、もみじ銀行の株主総会に参加したことがありますが、ある株主から「当社は、もみじ銀行に育ててもらった。これからも頑張ってもらいたい」との発言がありました。ふと、山口銀行を振り返り、山口銀行のお客様で何人の人がこのようなことを言ってくれるのかと考えました。もちろん、多くの人に敬意も持っていただいているし、評価はしていただいていると思いますが、中堅中小企業の人に「育ててもらった」と言ってくれるような人がいるもみじ銀行の行員は誇りに思ってほしいし、山口銀行も多くの方々にそう言っていただけるような銀行になりたいです。もみじ銀行の営業基盤の強みと山口銀行の健全性でしっかりやっていきたいです。
広島ではリーテルはもみじ銀行、ホールセールについては山口銀行が中心に現在はやっていますが、将来は、もみじ銀行は双葉会として広島の復興を支えてきた伝統のある銀行なので大手企業の取引についても独自に伸ばしていくことを考えています。

<澁谷>

釜山、青島(チンタオ)、大連に支店をお持ちで、アジアに強い銀行を標榜されていますが。

<福田頭取>

支店の業務だけでなく、人材交流にも力を入れています。例えば、トルコから長年に渡り、留学生を受け入れています。その他、タイ、中国、韓国等の留学生も支援していて、当行の宿舎に泊まって大学に通っています。
青島では山口銀行杯と言う「日本語弁論大会」を2年に一度開催しています。青島市長、副市長も参加し、1000人近い聴衆が会場を埋め尽くします。

▲「YMFGファーストプラン」の解説本

<澁谷>

平成19年度から始まったグループ中期経営計画「YMFGファーストプラン」、そして「やまぎんファーストプラン」「新生もみじファーストプラン」についてご説明下さい。

<福田頭取>

ファーストプランを全行員に浸透させることを一生懸命やっています。どうせやるなら、若い人が主体でやるということで若手の意見を聞いて行っています。
もみじ銀行には「新生もみじをどうするか」という課題を与えていますし、山口銀行には「グループのリーダーとしてふさわしい数字の達成」に取り組んでもらっています。

<澁谷>

この本(ファーストプランの解説)は大変わかりやすくていいですね。このようなもので一体化が進んでいくのでしょうね。

<福田頭取>

この本は本当に良く出来ています。これも若手が作りました。また、グループ資産10兆円目標も若い行員からの意見です。閉塞感を打破し、挑戦のウエイトを増やしていきたいですが、そのためには若い人がいろいろなことを実行していくことが必要なのです。
もみじ銀行の行員は素直ですが、もっと、挑戦的になってもらいたいです。一方、山口銀行の行員も今の評価に甘んじでいるところもあるので、閉塞感を打ち破り新しいものに挑戦してほしいと考えています。

<澁谷>

2004年6月に頭取になられて4年間でもっとも注力されてきたものはどのようなことでしょうか。

<福田頭取>

今のままではいけません。新しい挑戦をしなければいけません。地域も銀行も健全な危機感を持って挑戦していきたいと考えています。それが出来るのも過去の先輩方の遺産があるからで、先輩方に感謝しながら、新たな挑戦をして、それを次世代にバトンタッチをしていきたいです。
私は「地域のために」「お客様のために」「株主のために」「従業員のために」という4つの視点が大切だと言っています。この意識付けを今後もやっていき、現状に甘んじるのではなく、楽をしないで新たな挑戦をしていきたいです。

<澁谷>

新しくカスタマーコミュニケーション部を作られましたが、銀行に「コミュニケーション部」はめずらしいと思うのですが。

<福田頭取>

山口銀行ともみじ銀行は地球温暖化防止国民運動「チーム・マイナス6%」に、参加していますが、これも行員からの意見でやっています。ただ、こういう活動でも安易な妥協というか、折衷案を出そうとする動きも出てくるので、強いリーダーシップが必要です。例えば、温暖化防止とかクールビズとか言っても、「クールビズもいいけどお客様にはネクタイ姿の方が」とか、「店頭の温度設定が28度ではお客様から苦情が出るのでは」とか、現状追認案を出す支店長もいます。強いリーダーシップを持って、店頭の温度設定についてもお客様がひんやりした店舗に入って気持ちがいいと感じるのか、環境に良くないと感じるかはそれぞれで、時代が変わっているから、「暑いかもしれませんが申し訳ありません、環境問題に正面から取り組んでいるのです」と説明すればいいと行員に言っています。

<澁谷>

今後の地方銀行のあり方についてはどういうことが求められているとお考えでしょうか。

<福田頭取>

これまでは、メガバンク等が大変苦労されましたが、これからは地方銀行間での競争が激化していくと思っています。ゆうちょ銀行に加え、イオン銀行等異業種からの参入もあり、地方銀行がこのまま安穏というわけにはいきません。
まずはお客様の信頼がベースにないと立ち行かないので、そこが生命線だと思います。
そのために長期的なビジョンでお付き合いが出来る銀行にならないといけませんし、また、地域の存在意義のある銀行として、地域活性化にも取り組み、更に経済情勢や世界の情報についても対応していく必要があります。地方銀行にとってこれから難しい時期に入ると思いますが、挑戦して勝ち取っていくことが地域のためになります。メガバンクやゆうちょ銀行に席巻されるのではなく、地域の特性を知っている地方銀行が「黒子役」としてしっかりしないといけないのです。

<澁谷>

若手行員の方、入行される方にこうあってほしいという頭取からのメッセージをお願いします。

<福田頭取>

安定性を求めて来られる地元の学生さんが多い。そういう方には残念ながら違うと言っています。YMFGは挑戦する場所はいくらでもある。証券業務、営業部門、企画管理部門いくらでも人材がほしい、挑戦する気概がある人は是非一緒に働いてほしいと言っています。
若い行員にもじっとして年功序列で出世するというものではなく、「挑戦」してもらいたいと願っています。若い力で風を吹き込んで欲しいです。
山口県で山口銀行で働いていると、耳障りのいい話を若い行員も聞くと思いますが、本当にナンバーワンバンクなのか?山口、宇部、萩地域では50%超のシェアを有しているが、その地域でも地方公共団体、大病院、大企業を除いたときに本当にシェアNo.1なのか?一番親しい銀行が山口銀行なのか?生き残っていくためには、お客様にとって真にNo.1バンクだと評価される銀行になりたいと思っています。

【山口銀行旧本店】

その後、山口銀行の旧本店を拝見しました。現在は山口県指定有形文化財となり一般公開となっている貴重な建物です。

この建物は、大正9年(1920)に三井銀行下関支店として、東京駅等の設計で有名な辰野金吾の弟子で建築設計家長野宇平治の設計監督により建築され、昭和9年(1933)に山口銀行の前身である百十銀行の本店となり、昭和19年には、県下の6つの本店銀行を統合して山口銀行が創立されその本店となりました。

昭和40年に新本店が新築されて移転した後は観音崎支店となり、同44年、観音崎支店が入江支店として移転した後は山口銀行別館として行内の会議や集会に使われていた建物だそうです。 建物の内・外部を山口銀行創立当時の姿に戻す復原工事と、建物の耐震補強工事が平成16年4月から平成17年3月にかけて行われた後、平成17年10月に棟札とともに山口県指定有形文化財となり一般公開しているそうです。

復原された建物は、大正時代の建築様式の特徴を色濃く残しており、当時の銀行の様子を今に伝える貴重な文化財です。

(2008/03/25 取材 | 2008/04/21 掲載)