TOP > インタビュー > 金融庁 検査局長 遠藤 俊英氏インタビュー

金融庁 検査局長 遠藤 俊英氏 インタビュー

金融機関の経営を共に考える

聞き手:リッキービジネスソリューション(株)代表取締役 澁谷 耕一

“ 指摘型” 検査から脱却し、オフサイトモニタリング充実を

金融庁 検査局長 遠藤 俊英氏 ▲ 金融庁 検査局長 遠藤 俊英氏

<澁谷>

 新体制の金融庁が最も重視していることは何でしょうか。

(遠藤局長)

 今事務年度は「金融モニタリング」という新しい検査監督の枠組みを開始してから2年目となります。昨年度はトライアル的なところもあり、金融機関の方々にも戸惑いがあったかと思いますが、今年はこれを完成した形で実施していきたいと思っています。

 金融モニタリングの新しい方法とは、一言でいうと「オフサイトのモニタリングをリアルタイムで充実させた上で、オンサイトモニタリングはターゲットを絞って行う」です。検査局と監督局が一体となり、従来のような指摘型の「検査」ではなく、金融機関の抱えている問題の優先順位を捉えて、どのような形 で解決していくのかを共に考えようじゃないかという方向のモニタリングを行っていきたいのです。いくつかのリスクカテゴリに関して、同じような規模・特性を持つ金融機関に同一チームが訪ねて議論することによって、ベストプラティスは何なのか、何を目指すべきなのかということが明らかになるような、経営に役に立つモニタリングに取り組んでいきたいと思っています。

<澁谷>

モニタリングの2年目ということで金融機関の経営を一緒に考えながら解決していきましょうという方向に変わっていく感じですね。

(遠藤局長)

金融機関の経営というのは、経営トップを始めとして経営幹部の方々が責任をもって決めていかれるものだと思います。金融庁としてもどういう方向性がその地域に望ましいのか、よりよい判断が出来るような形で、議論出来ればと思っています。そのためには、私を含む検査局幹部の者が検査チームと共に、金融機関経営陣と率直に議論する形を整えていかなければならないと思っています。

モニタリングでは率直に議論をしたい

<澁谷>

検査局として金融機関に望むことを教えてください。

(遠藤局長)

先程申し上げた趣旨でモニタリングを行っていきますので、「あまり構えないでください」ということでしょうか。我々は粗探しのため、細かなことをあえて指摘するために検査に入る訳ではありません。金融機関、特に経営トップが何を考えられているのかをよくお聞きし、その上で我々の思うところをお示しする。「地域の現状に鑑みれば、金融庁の言っていることはやっぱり違いますよ」と大いに反論してもらっていいんです。率直に議論しましょうということなんです。はあくまで金融機関の経営をよりよくするためのものです。「これまでの検査は非常に厳しかったから、結局今回も同じだろう」とか「出来るだけ指摘されないように余計なことは言わないでおこう」などの先入観を持たずに議論していただきたいと思っています。また、我々は経営トップとだけお話するのではなく、現場の方々がどのように考えて何に苦労されているかという生の声をお聞きしたいと思っています。金融機関の職員の皆様が、今後のモニタリングで検査チームと議論する機会があれば、日頃の仕事の中で感ずるところを積極的に発言していただければ、ありがたいと思っています。

注※)
オンサイトモニタリング:個別の金融機関に対して、経営管理態勢・金融円滑化・法令等遵守態勢等の各種リスク管理態勢等の適切性や金融機関の経営実態を検査官が立入りを伴って検証する行為。オフサイトモニタリング:金融機関から任意の協力を得て行う情報収集(資料の提出、ヒアリング等)。

中長期的に持続可能なビジネスモデルの確立が大切

<澁谷>

これからの日本の金融機関、特に地域金融機関にこうあって欲しいと思うことは何でしょうか。

(遠藤局長)

地域金融機関においてはぜひ、引き続き地域の経済を支える中心的存在であっていただきたい。また、企業の事業性というものを評価し、担保や保証に依存せず、融資等の判断をしていただきたいと思います。

 特に昨年から注目しているのは、地域において人口減少などの構造的変化が進む中、各金融機関はどういった形で中長期的に持続可能なビジネスモデルを確立しているかということです。持続可能なビジネスモデルの柱になるのは、「その地域の企業を常に支える」という、まさにリレーションシップバンキングではないでしょうか。リレバンは足元の大きな収益をただちにもたらすものではありません。しかし、地域の企業と太いパイプを持ち、彼らを支えることによって地域経済を下支えし、活性化し、それによって持続的な収益を確保する。そういう好循環を作っていくのが、我々のイメージする持続可能なビジネスモデルです。

 今の地域の現状、自分達の顧客企業の現状を、地域金融機関のトップはどのように認識されているのか、またどのように関わり合い、持続可能なビジネスモデルを構築しようとしているのか、踏み込んだ議論をさせていただければと思っています。

健全な金融機能の発揮

<澁谷>

預貸ミスマッチングの中で、リスクマネーや資金運用をどうしたらよいでしょうか。

(遠藤局長)

リスクマネーは融資というより投資にかかるものですし、特にベンチャー企業に対する投資は、その性格からすると預金取扱金融機関が扱うのに適した分野ではないのかもしれません。しかし、日本においては機関投資家あるいは個人投資家から起業家にリスクマネーがまわる仕組みが欧米に比べると発展しているとは言い難い状況です。特に地域におけるリスクマネーの供給については、金融機関が種銭というか誘い水的な幾ばくかの投資を行っていただくことが、地域のリスクマネーを大きく育てるために必要ではないかと思っています。

 資金運用については、金融庁は従来からリレバンの推進を強調していますが、何が何でも地域の貸し出しを増やせばそれで良いと言っている訳ではありません。金融機関が有価証券運用も含めポートフォリオ全体のバランスを図ろうとされることはある意味当然だと思います。重要なのは全体のポートフォリオに対するリスク管理が適切に行われているかです。万が一、危機的状況が起こったとしても、十分にリスクを吸収できるだけのバッファーを有するポートフォリオを構築しているのかが大切です。

 不良債権問題を克服するために資産査定を重視して検査する時代は終わりました。今や金融機関が、そのポートフォリオにおいてどういった形でリスクを取りつつリターンを得ようとしているか、つまり健全な金融機関がいかに円滑な金融仲介機能を発揮しているかを検証すべき時代です。統合的なリスク管理体制が出来ていれば、個別の貸出一本一本を当局が査定する必要はないと思います。統合的なリスク管理体制の適切性を検証する具体的な方法論についてはなんとか今事務年度中に確立して、実施に移していきたいと考えています。

金融機関に勤めている方への期待

<澁谷>

金融機関に勤めている方へ一言お願いします。

(遠藤局長)

日本中どこに行ってもそうだと思うのですが、その地域で最も優秀な方々は、地域金融機関にお勤めだと感じます。ヒトのみならず、情報もカネも金融機関にはあります。とすれば、その地域の様々な企業ひいては地域経済を支えるのは金融機関しかないと思うんですね。そういう意味で、金融機関で働くということは、金融業だけではなく様々な業態に通暁する事が望まれます。浅く広くではなく、「広く深く」専門性を獲得していかないと、本当の意味でお客様を支えきることはできません。極めてチャレンジングな職業です。ぜひ日々の仕事をしっかりこなしつつ、学びかつ経験を深めていっていただきたいと思います。

遠藤 俊英(えんどう としひで)
昭和57 年東京大学法学部卒、57 年大蔵省入省。59 年英国ロンドン大学(LSE) 経済学修士。
国税庁や大蔵省の各部署で課長補佐、平成10 年に国際通貨基金(IMF) アジア太平洋局審議役を務める。
23 年金融庁監督局審議官としてバーゼル基準などに携わる。26 年7 月より金融庁検査局長( 現職)。

(2014/10/21取材 | 2015/1/15掲載)