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株式会社日本政策投資銀行 代表取締役社長 柳 正憲 氏インタビュー

聞き手:リッキービジネスソリューション(株) 代表取締役 澁谷 耕一

今回の巻頭インタビューでは日本政策投資銀行の柳社長に3 次中経の柱である融資・投資・アドバイザリーや評価型融資、危機対応について伺った他、これからの地方銀行のビジネスモデルやDMO 観光等についてお話を伺いました。

3 本柱は融資・投資・アドバイザリー

(澁谷)

3 次中期経営計画について、進捗状況を教えて下さい。

(柳社長)

我々は融資・投資・アドバイザリーを3 本柱としています。

融資の中でも近年注力しているのが航空機関連の取り組みです。最近では、欧州や南米、アジアの航空会社とも取引を拡大しています。また、航空機メーカー、サプライヤーの支援にも積極的に取り組んでいます。当行の目利き力を活かし、航空機から将来得られる収益をベースとしたファイナンスなど、航空機関連事業に対して、円滑な資金供給を果たすよう努めています。他に、通信やヘルスケア分野にも注目しており、若手行員の意見を積極的に採り入れる新たな取り組みを進めています。

また、最近大企業の間で活用が進んでいるハイブリッドファイナンスにも早くから取り組んで裾野の拡大に努めてきたほか、昨年6 月からは、「特定投資業務」として新たな投資の枠組みを設け、地域経済の自立的発展や企業の成長に資する案件に対して、民間金融機関の資金の呼び水となるよう取り組んでいます。

加えて、こうした投融資一体型の特色をさらに活かすべく、当行では地域を熟知している地方銀行を始めとした国内外金融機関、会計事務所等との独自かつ密接なネットワークによりコンサルティング/ アドバイザリーサービスも提供しています。

評価型融資が付加価値を創る

(澁谷)

貴行が取り組んでいる評価型の融資というのは、非常にユニークだと思います。簡単にご説明いただけますか。

(柳社長)

当行では、環境・BCM・健康・不動産(DBJGreen Building 認証)・ヘルスケアの5 種類の分野で評価型融資を行っています。

例えば、健康の分野では、産業医を置いているかなど、役職員の健康にどれだけ配慮しているかといった点に着目して企業を評価します。こうした融資+αの点に付加価値を感じてもらい取引につながる企業も多く、我々としても大変ありがたい限りです。

DBJ Green Building 認証というのは、そのビルが社会環境的に良いビルかどうかを評価するというものです。特に環境については、地方銀行等向けに簡易版を作り、これまで蓄積したノウハウの提供に努めています。

(澁谷)

新しい分野で大変興味深いです。いま金融庁で「事業性評価を」と言われています。事業性で成長の可能性があるかどうかを評価するのは現実的になかなか厳しいと思いますが、こうして環境やBCM、健康などで評価していくのは貴行の強みでしょう。

(柳社長)

我々は、単純に担保に頼らない審査および事業性評価を確立できるよう従前から取り組んできました。しっかり経営者と面談をして、その人の素質や会社の成り立ちを理解し、その後バランスシートや収益を見ます。そして最後の最後に担保なのです。我々は澁谷さんご出身の興銀(日本興業 銀行)などからもそのやり方を教えてもらいました。これからも愚直にやっていきたいと思います。

災害・金融危機への対応

(澁谷)

東北や熊本で震災がありました。このような自然災害への取り組みはいかがでしょうか。

(柳社長)

我々は収益性と公益性を両立しなければなりません。公益性においては、街づくりなどにも協力しますが、やはり本業は危機対応です。2008 年に我々と商工中金が政府の危機対応業務の指定金融機関になりました。国が危機認定をすることで我々が危機時対応の資金供給ができることになっており、東北・熊本の地震の際も、ファンド設立や融資、まちづくりへの協力を行っています。実は認定された当初は自然災害への対応を想定していました。しかし、図らずもこの制度ができた同年にリーマンショックが起こり、金融危機も対象になりました。あの時は規模問わず様々な企業からご相談を受け、本当に目の覚めるような思いでした。かなり長いスパンで考えれば金融危機がまた起きないとも限らないので、我々はいつでも出動する用意を怠らないようにしています。

(澁谷)

災害のみならず、金融危機を含めた危機対応の準備をされているのですね。

地方銀行と協調した投融資

(澁谷)

英国がEU を離脱するなど、どこも外部環境の変化が大きいと思います。民間だけでリスクを取るのではなく、貴行と連携を取ってメザニンを行うことで自己資本も厚くなるというメリットがあります。

(柳社長)

地方銀行からもエクイティやメザニンローンを出したいというお話を聞きますが、「全額はリスクが過大であり、協調して参加してほしい。」と言われるケースもあります。当行は、年間の資金調達の1/4を地方銀行等からの借入により実施しています。こうした資金を活かしながら投融資業務 に取り組んでいるわけですが、当行がエクイティを提供し、地方銀行等にシニアローンを提供してもらうなど、適切なリスク分担を行いながら皆さんに新たな運用機会を提供・創出できるよう頑張っています。

(澁谷)

ファイナンスの組成段階ではなくて、その後相対で債権譲渡等を行うこともあるわけですね。

(柳社長)

はい。これは国内に限らず、我々は2008年頃から海外へ広くファンド投資を行っており、その中から取得した投資口やローンをお分けすることもあります。

(澁谷)

これは1 件あたりいくらくらいですか?

(柳社長)

1 件あたり数十億円ほどと金額はそれほど大きくありません。我々はファンド投資を行う際、共同投資権を取得したり、情報開示の徹底を求める中でこうした投資口やローンの取得が可能となります。

(澁谷)

地域はどこになりますか?

(柳社長)

最初はアメリカ中心で、いまヨーロッパにも広がりつつあります。ファンドの投資先の対象は、不動産やインフラなど様々です。カリフォルニアの裁判所がPFI で建設された際は、そのローンを取得、一部地銀にも譲渡しています。

(澁谷)

投資を通じて得られた情報、融資機会を地銀に繋いでいくのですね。

(柳社長)

当行はなかなか審査部が厳しく、目一杯調べますから、その分地銀にとっては安心して取り組んでいただけるのではないかと思います。

DMOとインバウンド観光を盛り立てるために

(澁谷)

DMO とインバウンド観光客の誘致について、取組み状況を教えてください。

(柳社長)

日本の観光地は互いにライバルになりがちです。ですから瀬戸内を舞台に自治体と地銀が協力することとなった(注)のは画期的なことで、例えば、広島へ行った後に岡山へも回遊するという企画を立てることもできるようになったのです。こうした取り組みを全国展開できたらいいなと思っています。

:平成28 年4 月に、瀬戸内を共有する7 県(兵庫県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県)が瀬戸内ブランドを確立、交流人口拡大による地域経済活性化促進等のために一般社団法人せとうち観光推進機構を設立、また瀬戸内地域の金融機関、事業会社が同地域内の観光産業活性化を目的に株式会社瀬戸内ブランドコーポレーションを設立。

(澁谷)

日本は、なかなか自治体同士の連携が進みません。

(柳社長)

自治体の予算が個別になっているので、それを吸い上げて1 つのDMOに集め、マーケティングのプロをその社長にするというのが大事だ と思います。東北では、震災の復興から成長への段階にそろそろ入っていますが、これをなんとか盛り立てるために仕掛けができないかなと思っています。

(澁谷)

先日、広島銀行の役員に会ったのですが、広島には最近、オバマさんの訪問で欧米系の観光客は多いけれども、中国人や韓国人はあまり来ないのが悩みだとおっしゃっていました。原爆ドームが逆に戦争を思い出させるためだそうです。

(柳社長)

逆に長崎は中国、韓国に近いこともあって、客船が入れ替わり立代わり来ています。先程の瀬戸内海ではクルーズ船を作ろうという機運があります。瀬戸内海はやはり大変な財産ですから。

(澁谷)

その通りです。渦潮もありますし、そうしたら広島にも寄ってもらえるかもしれません。

地銀のこれからのビジネスモデルとDBJの役割

(澁谷)

貴社は地銀との関係が非常に深いと伺っております。いま「地銀は生き残るのがなかなか難しい」「捨てられる銀行」という言葉もでてきているようです。マイナス金利や地域の人口減少の中、持続可能なビジネスモデルをどう模索していけばよいかと金融庁はもちろん、地銀自体が考えているところです。柳社長は今後の地銀のビジネスモデルについてどのようにお考えでしょうか。

(柳社長)

地銀はメガバンクと比較して、地域の企業との結びつきがとても強いという点を活かしていくとよいでしょう。最近では、福岡FGのように広域化を図るケースや肥後銀行と鹿児島銀行のように2社でがっちり手を組んでいくなど様々なケースが出てきました。いずれにせよ、やはり地銀は必要不可欠な存在だと思います。

(澁谷)

必要ですよね。以前は東京で残高を稼ぎ、スプレッドが少なくともそれなりの利ザヤ収入がありました。それがマイナス金利等でもう期 待できないとなると。

(柳社長)

我々は資産運用を受託するとか、我々の保有する債権等をお譲りすることで後押ししていこうと思っています。例えば地銀が統合する際、開示債権を削減して財務健全化を図るケースがあります。そこで外部にファンドを作ってそこに債権を移転、集中的に貸出先の業況改善を図り、バリューアップするという案件を2つさせていただきました。

(澁谷)

再生ファンドのような役割もされているのですね。

(柳社長)

元々、再生は我々の得意分野です。ゴードンブラザーズという会社があり、100年を超えてアメリカボストンを中心に世界で活躍して いる会社ですが、この日本法人を彼等と合弁で作り、倒産した企業の在庫処分や換金セールを実施しており、新しい分野ですが、我が国での動産活用業務の定着に非常に寄与していると思います。

もう1 つはABL です。在庫の評価をしなければならず、我々がABL を行う場合にその評価などで同社に協力してもらっています。

(澁谷)

ABL、つまり動産担保融資ですね。

(柳社長)

金融庁もABL の積極活用を呼びかけています。ですから我々としても同社をこれからどんどん活用してほしいと思っています。我々としても、企業再生の分野はDIP ファイナンスを数多く手掛けるなど得意にしてきましたが、今はABL にも注力しています。

(澁谷)

色々な金融機関で必要とされるノウハウを持っていらっしゃいますからね。

(柳社長)

今後もこうした積み上げを続けていくことで必要とされる金融機関であり続けたいと思います。

「仕事に対する名誉心」「しつこさ」を持て!

(澁谷)

最後に社長の経営哲学や大切にしていることを教えてください。

(柳社長)

個人的によく言っているのは、「仕事に対する名誉心を持て」と。くれぐれも偉くなりたいと思うな。2年なり3年なりのローテーションの中で、自分はこの仕事をしたよ、ということを誇れる名誉心を持てと。あと、ピントがあった上ですが、「しつこさを持て」と言っています。後者はあま り感心してもらえないのですが(笑)。

(澁谷)

粘り強さのようなものですか。

(柳社長)

そう、一度始めたものはきっちり仕上げる。ここは我々ができているところだと思うのですが、個々が取り組みたいと思うことを比較的自由にやらせてくれる銀行です。例えば私の1年後輩に、随分昔から知的財産権の勉強をしている人がいました。「私がこんなもの仕事にならないからやめ ろ」と言ったんですよ。そうしたら知的財産権がとても重要になってきて、それがビジネスとしても実ることになったのです。後で謝りましたが、そういう取り組みを許してくれる土壌がこの銀行にはあるんですよ。

(澁谷)

貴重なお話しをいただき、ありがとうございました。

※本文中は敬称略とさせていただきました。

(2016/11/01 掲載)

柳 正憲(やなぎ まさのり)
1950年生まれ。東京都出身。1974年東京大学教養学部卒業後、同年日 本開発銀行(現・㈱日本政策投資銀行)入行。
1998年秘書役、1999年日本政策投資銀行秘書役、2000年交通・生活部長、2002年総合企画部長、 2004年関西支店長、2006年理事、2008年㈱日本政策投資銀行取締役 常務執行役員、2011年代表取締役副社長、2015年代表取締役社長。