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プラスワン・マーケティング株式会社 代表取締役 増田 薫氏インタビュー

異色のMVNO「FREETEL」
目指すは10年で海外No.1

聞き手:リッキービジネスソリューション(株) 代表取締役 澁谷 耕一

オープン化に向かう日本の携帯市場

(澁谷)

まずは、日本の携帯電話市場の動向についてお聞きします。安倍首相が「携帯料金が高すぎる」と引き下げを要請したことが話題になりましたね。

(増田社長)

日本において、自前で基地局や通信設備を所有し“モバイル通信キャリア”を運営できる免許を持っているのは、NTT ドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社しかありません。大手3社による寡占状態が市場の健全な競争を停滞させてしまい、割高な通信料金をユーザーに強いているのではないかとの指摘は以前からされていました。

(澁谷)

通信キャリアの免許は、総務省の管轄ですよね。

(増田社長)

はい。総務省は以前から、「多種多様な通信サービスの選択肢を増やす」ため、大手キャリア3社に「通信インフラ等の設備を他社にオープン化すること」を要求し、通信設備を持たずにモバイル通信サービスを提供できる事業者(MVNO)を推進してきました。

(澁谷)

日本の携帯電話料金は、やはり高いのでしょうか?

(増田社長)

平成26 年度に総務省が携帯料金の内外価格差を公表しているのですが、東京の平均通信料は7,022 円。ニューヨークが1万601 円、ロンドンが7,282円、ソウルが5,173円ですから、実は世界の中で日本が著しく高いというわけではありません。とはいえ、日本特有の販売方法である「2年しばり」や「端末価格実質0円」「パケット定額制」等が、携帯料金の透明性を失わせていることは指摘できると思います。

(澁谷)

2015年5月には携帯電話のSIM ロック解除も義務化され、貴社をはじめとするMVNO の参入が続いていますね。

(増田社長)

そうですね。総務省は「2016年までに契約者全体の10%、1,500万回線までMVNO を拡大させる」との指針を出しています。現在MVNO は400万回線弱ですから、残り1,100万回線の争奪戦が繰り広げられている状況です。これまで通信キャリアが独占してきた市場がオープン化されたことで、消費者にとっては選択肢が広がり、かつ競争により料金も安くなりました。2015年はまさに「SIMフリー元年」だったと言えます。

(澁谷)

そもそもMVNO とは、どのようなビジネスモデルなのでしょうか。

(増田社長)

MVNOは「Mobile Virtual Network Operator」の略で、日本語では「仮想移動体通信事業者」と訳されています。大手の通信事業者から携帯電話回線などの無線通信基盤を借り受け、独自のサービスを展開する事業者のことです。弊社は、NTTドコモから回線をお借りして「FREETEL」の名称でサービスを行っています。実は現在、ドコモ回線の純増分の約半分をMVNO が占めているほどで、急速に拡大が進んでいます。欧米では既に一般的になっていて、MVNOのシェアが2〜 3割を占めている場合が多いですね。政府が規制を緩和すれば、数年でどの国でもそれくらいのシェアになっています。日本は今まさにその転換期であり急成長期となっているのです。

(澁谷)

競合他社と比べて「FREETEL」の強みはなんでしょうか。

(増田社長)

SIM カードのみを販売している他のMVNO 事業者とは異なり、私どもは端末メーカーでもあり、「通信」「携帯端末」「店舗」「サポート」を一体で提供する、SIM フリーキャリアという立ち位置です。SIM フリーキャリアであることのメリットは計り知れないと思っていまして、例えばSIMを知らない一般的なユーザーの方にも、いつも利用されているお店で今まで通り端末とSIM をセットで買って頂き、サポートをご提供できます。SIM カードだけを購入した場合、トラブルが起きても、原因が通信側にあるのか端末側にあるかがはっきりしない場合が多く、ユーザーはMVNO と端末メーカーの間をたらい回しにされてしまいます。弊社であれば、SIM と端末の両方が一緒にサポートされるので、ユーザーは安心してご利用いただけます。

日本メーカーとしての誇り

(澁谷)

SIM フリーの携帯端末は、自社で開発されているのですか?

(増田社長)

そうです。弊社は2012年に創業した際、まずはSIMフリー端末メーカーとして参入いたしました。私たちがハードウェア開発をスタートした頃には、海外からの並行輸入などを除き、SIM フリーのスマートフォン自体が日本市場には存在していませんでした。SIM フリー市場そのものを拡大するためにも、絶対にオリジナルブランドのSIM フリー端末は必要だと考えました。現時点では、商品開発は弊社、製造は中国の提携工場で行っています。ただし、品質管理は弊社の基準で厳密に運用し、ソニーでプロダクト開発を35年やっていた方にその執行役をお願いして管理しています。品質レベルについては、日本メーカーに引けをとりません。

(澁谷)

2015年度を振り返っても、たくさんの製品をリリースされていますね。

(増田社長)

実は2015年のFREETEL 秋冬モデルでは、弊社は8種類の端末を発売いたしました。これはドコモの10種類に匹敵し、au、ソフトバンクよりも多い数になります。価格帯も5,000円台から、最も高いモデルで39,800円と幅広くご用意しております。いずれも同スペックの他社端末価格の4割相当で、世界の標準的な価格設定です。日本品質でありながら世界標準価格でご提供した結果、この秋から発売した当社の端末はいずれも予約開始日に完売し、FREETELコーナーを置いていただいているヨドバシカメラ様でも在庫切れの状況を作ってしまいました。新しいモデルの発売を期待されていたエンドユーザー様には大変申し訳ないことをしました。

(澁谷)

海外にも積極的に展開されているとお聞きしましたが。

(増田社長)

はい。2015年11月にカンボジア、メキシコの2か国で販売を開始しました。カンボジアでは通信キャリアであるSeatel社、メキシコでは大手販売店と提携し、それぞれ順調なスタートを切っております。特にSeatel社とは今後1年間で50万台を販売する契約を締結いたしましたので、そのための端末の製造を急ピッチで行っていく必要があります。なお、今後はアジアや北米・中南米、中東へも順次展開していく予定です。また、グローバル戦略を推進するため、元モトローラ副社長の イアン・チャップマン・バンクスを弊社に招き入れました。彼が持つ知名度や人脈により世界各国で引き合いを多数受けており、その事業機会に確実に対応すべく、今後も継続的に資金調達が必要と考えています。

(澁谷)

確かにMVNO 事業者である上に端末メーカーでもあるという珍しいビジネスモデルであることを考えると、資金調達は重要ですね。現在の資金調達は順調なのでしょうか。

(増田社長)

おかげさまで、2015年の1年間で21.3億円の第三者割当増資を実施いたしました。この結果、資本金と資本準備金はそれぞれ11億7,575万円、11億6,575万円となっています。先ほど申し上げた国内・海外の需要と、MVNO事業者としてエンドユーザー様に快適な通信サービスを提供していくためには、今後も積極的に調達を行ってまいります。

(澁谷)

海外ではFREETEL 端末のどこが評価されているのでしょう。

(増田社長)

日本品質で、世界標準価格であることです。先人たちの努力の結果、ものづくりにおいて日本は本当に評価されているのです。弊社は「Made by Japan」をコンセプトに、日本のものづくりをしっかり継承していくことを掲げています。そのフラッグシップとなる端末に「SAMURAI」シリーズがあるのですが、これが特に評判がよいですね。「SAMURAI」の紹介コピーは「研ぎ澄まされたフォルム。手の延長のようになじむボディ。単なる道具を越えて、極限まで磨き上げるデザイン。このスマートフォンは、武士の魂である日本刀を彷彿とさせる。日本の技術者たちが、Madeby Japan の誇りを賭けた“作品”だ」です。大袈裟かもしれませんが、この製品に込めた日本メーカーとしての誇りが海外の人たちにも伝わっているのだ、と感じています。将来的には日本国内でも生産拠点を持ち、日本のものづくり再興の一翼を担いたいと考えています。

通信品質はMVNO 最速の評価

(澁谷)

今度は「通信」についてお聞きしたいと思います。通信品質はどのように維持されているのでしょうか。

(増田社長)

弊社はNTT ドコモから回線をお借りしてサービスを提供しています。多少専門的になりますが、回線の仕入れには「L2接続」と「SIM卸し」の2 種類があります。FREETEL は「L2接続」で、大手キャリアの通信網に直接、自社のネットワーク設備を接続する借り受け方をしています。対して「SIM 卸し」は、自社でネットワーク設備を用意せず、L2接続で回線を借り受けたMVNO から回線を再分配してもらっています。「L2接続」は独自に通信品質のコントロールが可能ですが、「SIM 卸し」はできません。

(澁谷)

そうすると「L2接続」の事業者の方が、通信品質が高いということですか。

(増田社長)

「L2接続」であればコントロールはできますが、結局は用意した回線の帯域(太さ)に対する利用者の数(回線密度)が回線の品質を左右するため、「L2接続だから早い」とは言い切れません。以前からL2接続してきた事業者は短期利益を優先するあまりユーザーをたくさん詰め込んで遅くなっている場合が多いですね。ちなみに弊社は、最新のネットワーク設備を持ち、「速さ」にこだわって投資しています。

(澁谷)

通信速度に関して、ユーザーの評価はいかがですか。

(増田社長)

おかげさまで業界専門メディアから、ドコモ回線系列のMVNO業者の中で「最速」との評価をいただいています。また2015年7月のサービス開始以来、社内で「回線増速マ ラソン」と呼ぶ回線の設備投資を行っています。その投資効果が、お客様からの「爆速」という評価につながっているのではないでしょうか。通信回線への設備投資は今後も継続していく予定ですし、他のMVNO を通信品質でも圧倒したいと考えています。そのための資金も必要となってきます。

(澁谷)

通信品質以外の特徴にはどんなものがあるのでしょうか。

(増田社長)

弊社では「使った分だけ安心プラン」といって、月額299円(100MB)から上限2,470円(10GB) までのプランを提供しています。大手キャリアの通信プランは、データ使用量に関わらず一定額の支払いになるケースが多いのです、FREETEL SIMでは使用量によって後から最適なプランでご請求するので無駄がありません。音声通話付きのプランも業界最安値の月額999円からサービスを提供しています。また、アプリの種類や時間帯によってユーザーごとにパケット代を無料にしたり、通信速度を優先的に高めたりすることができる最新のネットワーク設備を持っています。そのメリットを活かして、iPhoneユーザー専用にApp Store の通信料を無料にするSIM カードも販売しています。お客様からもご評価いただいており、ヨドバシカメラでは2015年7月の発売以来、SIMカード販売シェアNo.1となっております。

(澁谷)

大手キャリアの場合は2年契約が通例で、途中で解約すると違約金が発生するようですが、貴社はどうですか。

(増田社長)

弊社にはそういった縛りは一切ございません。解約金も一切ありません。

社長自ら、ユーザーの声を聞く

(澁谷)

サポートの体制はどうされているのですか?

(増田社長)

自社内にサポートセンターを設置しています。お客様からいただいた問い合わせ内容は、私を含め役員全員に情報共有するようにしています。不具合があったときには、できるだけ早く対応してお客様の不満を取り除くとともに、お客 様のニーズを製品に素早く反映するためです。社内では「初めて使った人でも簡単に使えるようにしよう」と言っています。我々もお客様と一緒に勉強していくんだ、と。サポートをコストだと言う方が多いのですが、私は売ってからがお客様との関係の始まりだと考えており、きめ細やかなサポートこそが競争優位の源泉であると信じています。

(澁谷)

FREETEL の店舗展開についてお聞かせください。

(増田社長)

コンシューマー向けでは、ヨドバシカメラを筆頭に大手量販店さんにお取り扱い頂いております。中でもヨドバシカメラでは全店で、即日MNP(ナンバーポータビリティ)対応もしておりまして、その場で他社からの乗り換えが可能 です。最近ではビックカメラの有楽町店でもMNP 対応が可能になりました。また、徐々に大手キャリア並のスペースのFREETEL コーナーを展開し始めています。ヨドバシカメラでは秋葉原、名古屋、大宮、梅田、京都に設置済みで、近々に全店舗でコーナーを設置する予定です。やはりお客様にとっては、困ったことを解決してくれる店舗があることはサポートの観点からも大きいと思います。法人向けではダイワボウ情報システムとの販売提携を行っております。

日本メーカーとして海外No.1を

(澁谷)

今後の展開についてはいかがでしょうか。

(増田社長)

日本のメーカーとして日本をよくしたいと思っています。ITの世界は変化が激しく、例えば10年前のアップルはパソコンの会社としては負け組で、マイクロソフトに買収されそうになりましたが、iPhoneの発売で大逆転しました。一方、ノキアは10年前には圧倒的なシェアを誇っていましたが、今ではほぼ消えてしまった。IT はたったの10年でリセットできるのです。

私は今後10 年で、FREETEL が世界で一位になることを目指したいと思っています。携帯事業を通じて日本の地位を世界で上げていきたい。実は私、あまりインタビューが得意ではないのです。本当は製品で語りたいと思っています。真 剣に、心を込めて。使命に近い感覚で、このビジネスをやっています。これからも、正しいものを、武士道のように追いかけていきたいと思っています。

(澁谷)

世界一への道筋は見えていますか?

(増田社長)

私がスマートフォンに出会うきっかけを作ってくれたのが、デル創業者のマイケル・デルでした。6年ほど前に彼がポケットから取り出したのが、世界初の5インチスマートフォンだったのです。すぐに「これは凄いな。世界を変える な」と感じました。その日は商談がうまくいってご機嫌だったので、試しに「Give Me」と言ってみたら、くれたんですよ。その端末は、今でも私のデスクに大切にとってあります。実は、やろうと思えば誰でも世界一になれます。サムソンが1億台の端末を売ったというなら、その端末を1円で売ってしまえば、勝つことができる。それで一瞬は世界一になれるけど、私はそれでは意味がないと思っています。ユーザーがこの製品いいなと評価し、好きになり、誰かに勧めてくれるような、ユーザーとの信頼関係のサイクルを築くことが大切ではないかと。それを最大化することが、私にとっての世界一なんです。そのための答えはおのずと出ていて、良いものを正しい価格で売る。そこは歪みたくはありませんし、これからもこだわっていきます。

◆増田 薫(ますだ かおる)
1972 年東京都生まれ。ソースネクスト、Lenovo Japan、Dell Japanで営業部隊の責任者を歴任。Dell 時代にスマートフォン事業を経験し、その大きな可能性に惹かれ2012年に自らプラスワン・マーケティング株式会社を起業。 創業から3 年余りで「FREETEL」をSIM フリー勢のトップブランドに押し上げた。座右の銘は「憂き事の尚この上に積もれかし限りある身の力試さん」。

(金融機関.YOM22号より)