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SBI ホールディングス  代表取締役執行役員社長 北尾 吉孝氏インタビュー

 

 
 
   SBI ホールディングスは1999 年にソフトバンクの中間持株会社として独立して以降、インターネットを最大限活用した金融商品やサービスを提供することで成長してきました。今号では同社の創業者である北尾社長 吉孝社長にお話を伺いました。

聞き手:リッキービジネスソリューション(株) 代表取締役 澁谷 耕一

主要事業(金融・投資・バイオ)とコーポレートミッション

(澁谷)

SBI グループの主要事業について教えてください。

(北尾社長)

 私どもはコーポレートミッションとして、「金融イノベーターたれ:金融分野で革新的な事業を行う」「新産業クリエーターを目指す:新しい産業を興す」ことを掲げています。創業当初の2000年、ちょうどアメリカでインターネットバブルが起こったとき、日本でも5年後にインターネット時代を迎えるだろうと確信しました。そこでバブルの絶頂期だったアメリカのネット企業の株を全て売り、国内のインターネット関連のベンチャー企業にだけ投資する出資約束金総額1,500億円のファンドを立ち上げたのです。
 ベンチャー投資においては、目利き力がとても重要となります。目利き力を養い、投資する業界を良く知るために、我々自身もその業界にどっぷり浸からなければいけません。そこで、ITファンドを組成する一方でインターネット企業を傘下に作っていこうと思い、インターネット金融の会社を立ち上げました。世の中の情報は、インターネットが普及する前にはベンダー(売り手)側あるいは金融機関側に偏在していました。それがインターネットによって消費者や投資家に情報が簡単に伝達されるようになりましたが、かえって情報洪水が起こり、判断ができない状況が出てくる可能性もあると考えていました。そういう時こそ比較が大事になるので、保険商品・金融商品の一覧比較サービスや、投資信託を星の数で比較検討できるサービスを、アメリカの会社と提携して次々に作りました。インターネットの世界というのがどういうものかを肌感覚で分かるように、BtoBの投資の世界・BtoCの金融の世界を両方絡めながら、新しいサービスを創造することで事業を展開してきたのです。
 現在、投資分野では、成長著しいアジア地域の国々を中心に、各国の有力パートナーと共同ファンドを設立しています。例えば、韓国では同国のベンチャーキャピタルを買収し、「SBIインベストメントコリア」を設立しましたが、現在では政府系の金融機関や年金基金などからの資金受託が拡大しており、同社において計5本のファンドの運用を受託しています。アベノミクスの重要な柱の一つに、起業を促進させることがありますが、この分野は韓国も力を入れています。韓国では、銀行が主体となってベンチャー企業に融資をするというよりも、いわゆるベンチャーキャピタルに政府系の年金基金等が出資し、起業に結び付けるというやり方なのです。
 我々は、ITに並ぶ21世紀の中核的な産業の一つとして、バイオテクノロジーを位置付けています。そこで、バイオテクノロジーの分野へ集中投資するとともに、自ら直接的に参入し、SBIバイオテック、SBIアラプロモ、そしてSBIファーマを作りました。SBIファーマでは、医薬品第1号として2013年9月から、ALA(注)を用いた脳腫瘍の術中診断薬「アラグリオ®」を販売しており、90に及ぶ国内外の有力な大学や研究機関などのパートナーと連携し、グローバル・リサーチ・ネットワークを構築することで様々な分野での研究を進めています。
注: 5-アミノレブリン酸(ALA)とは体内のミトコンドリアで作られるアミノ酸。ヘムやシトクロムと呼ばれるエネルギー生産に関与するタンパク質の原料となる重要な物質ですが、加齢に伴い生産性が低下することが知られています。

インターネットと金融の親和性を利用した戦略が急成長のカギ

(澁谷)

 SBI証券はオンライン証券1位となりましたが、これほどまでにグループ企業が成長してきた秘訣は何でしょうか。

(北尾社長)

 私は、金融業というのはもともと、情報産業であると思っています。お金のやり取りは言わば情報データのやり取りです。そうであれば、金融業は情報を身近に得られるデジタルの世界と融合して、どんどん伸びるはずだと確信したのです。そして遅かれ早かれ、小さい頃からインターネットに慣れ親しんできた世代がこれから消費の中心になる。だから今後もインターネット金融の事業は放っておいても伸びていく。これが一番の成功ファクターです。

 SBI証券は口座数や預り資産でオンライン証券No.1となっていますし、住信SBIネット銀行も創業後数年であっという間に3兆4千億円の預金残高を獲得しました。保険もSBI損保を中心に伸びています。インターネット金融というのは、まさにインターネットの世界、そしてスマートフォンの世界がどんどん進化・深化していくことで今後も自ずと伸びていくのです。
 そもそも考えてみるに、金融商品というのはリスクとリターンでどういったポートフォリオを組むかを判断していくわけです。だからこのくらいは貯蓄にして、リスクを取れるものはこれだけにしようとか、できるだけ高パフォーマンスを狙いたいから株式投資にしようというように金融商品の垣根を越えて決められるべきなのです。ところが日本の法制度上は、銀行・証券・保険と分けられており、銀行は銀行の窓口に行って、保険は保険会社の窓口に行って…と、非常に面倒くさい。しかし、この問題すらインターネットは解決してしまったのです。今ではスマートフォンなどで、Web画面上の操作でA銀行にあるお金でB証券で即日に株を買ったり、余剰資金は保険に入れておこうかと選ぶことが簡単にできる時代になりました。

イノベーションの構造

(北尾社長)

 ヘーゲルは、文明は螺旋階段状に発展していくという理論を唱えました。例えば人力が馬力に替われば、移動するという行為に変更はありませんが、その速度が増します。さらに蒸気などの動力が開発されると、速度は今までの世界からさらに一つ飛躍する。これがイノベーションです。これこそがまさに、インターネットの世界にも当てはまるのです。
 最初、大型のコンピューターからパソコンへと変遷した際、マイクロソフトのWindowsとIntelのチップが技術革新を支える(ウィンテルと呼ばれる)時代がありました。その後すぐにYahoo・eBay・Amazonの御三家が登場しました。Yahooはインターネット上でのトラフィックを集めるポータルサイトをつくり、eBayはオークションをインターネット上に持ち込みました。Yahooは人の行き来の多い駅前をインターネットの世界で実現させたようなもの。eBayのオークションも、遡れば昔の物々交換です。ただし、AmazonやeBayなどが金融の世界と違うのは、「モノを届ける」という行為があることです。物販の世界というのは、必ず金の動きの後ろにモノの動きがないと成立しない。対して金融業は、全部デジタルで完了するのです。帳簿上こっちから引き落としてこっち側にいれたという世界です。つまり、絶対的にインターネットと親和性が高く、インターネットと融合することで優位性を持つのは金融業なのです。また、さきほど申し上げたように、金融業はリスクとリターンですべて判断されるべきで、銀行・証券・保険などの垣根は本来必要のないものなのです。
 したがって、インターネットで金融分野のあらゆるサービスを提供するような生態系を作りたいのです。生態系内では相互進化があり、相互のシナジーが働く。例えば銀行と証券、証券と保険、銀行と保険。そこにどんどんシナジーが働いていきます。この企業生態系の構築というのは、顧客ニーズに合う新しいサービスの創造であり、顧客満足度を向上させる斬新な提案に繋がります。つまり、インターネット時代の差別化要素、あるいは戦略上極めて優位な状況をもたらす原動力になるものだという風に思います。

インターネット活用が地域創生につながるか

(澁谷)

 地域金融機関の役割は何でしょうか。また、地域経済活性化のために何をするべきでしょうか。

(北尾社長)

 日本には数多くの銀行があり、国債を多く保有しているわけです。もし金利が反転して上昇した場合、金融のシステミックリスクにつながると金融庁も懸念しています。また、昔から東京一極集中・大都市集中と言われており、地方創生をせずにこのままでいくと地方が置き去りになって、大変な状況になることが容易に予想されます。
 そうした中、私は5年も経たないうちに、銀行や証券の支店が提供する預金の受入機能や決済機能としての役割はさらに小さくなるかもしれないと思っています。対面型の金融機関は、リアルの店舗を目抜き通りに構えて膨大な不動産費を払い、多くの人を雇っているからその投資に見合ったビジネスにシフトしていくでしょう。我々はインターネットをメインチャネルにしているため、証券の委託手数料を安く、銀行預金金利を高く、保険料を安くできることでコストに敏感なお客様が選択されていくわけです。インターネットの爆発的な価格破壊力、これが非常に重要なのです。さきほど申し上げた話と関連しますが、インターネットの活用が地方創生につながる可能性があるのです。
 対面型ビジネスが主流の時代には、東京に本社があった方が人口・産業の集積度が大きい。だから都会に本社がある方が有利でした。交通手段も便利だった。しかしインターネットの世界になると、立地条件は全く関係なくなるのです。日本中ほとんどの場所でインターネットは使えるようになってきています。そういう意味では地方に本社があってもいいのです。ただ、IT業界の場合、雇用者数は対面型の企業よりも減るので、地方にとって新しい業種・業態をどう生み出していくかということは、非常に重要な課題になると思います。ですから、地方における新しい業種・業態の発展は、例えば地方金融機関とベンチャーキャピタルが連携し、それぞれの強みを生かすことでもたらされるのではないかと思います。

インターネット活用が地域創生につながるか

(澁谷)

 地域金融機関の役割は何でしょうか。また、地域経済活性化のために何をするべきでしょうか。

(北尾社長)

 日本には数多くの銀行があり、国債を多く保有しているわけです。もし金利が反転して上昇した場合、金融のシステミックリスクにつながると金融庁も懸念しています。また、昔から東京一極集中・大都市集中と言われており、地方創生をせずにこのままでいくと地方が置き去りになって、大変な状況になることが容易に予想されます。
 そうした中、私は5年も経たないうちに、銀行や証券の支店が提供する預金の受入機能や決済機能としての役割はさらに小さくなるかもしれないと思っています。対面型の金融機関は、リアルの店舗を目抜き通りに構えて膨大な不動産費を払い、多くの人を雇っているからその投資に見合ったビジネスにシフトしていくでしょう。我々はインターネットをメインチャネルにしているため、証券の委託手数料を安く、銀行預金金利を高く、保険料を安くできることでコストに敏感なお客様が選択されていくわけです。インターネットの爆発的な価格破壊力、これが非常に重要なのです。さきほど申し上げた話と関連しますが、インターネットの活用が地方創生につながる可能性があるのです。
 対面型ビジネスが主流の時代には、東京に本社があった方が人口・産業の集積度が大きい。だから都会に本社がある方が有利でした。交通手段も便利だった。しかしインターネットの世界になると、立地条件は全く関係なくなるのです。日本中ほとんどの場所でインターネットは使えるようになってきています。そういう意味では地方に本社があってもいいのです。ただ、IT 業界の場合、雇用者数は対面型の企業よりも減るので、地方にとって新しい業種・業態をどう生み出していくかということは、非常に重要な課題になると思います。ですから、地方における新しい業種・業態の発展は、例えば地方金融機関とベンチャーキャピタルが連携し、それぞれの強みを生かすことでもたらされるのではないかと思います。

戦略思考を持ち、自ら判断する

(澁谷)

 北尾社長の経営哲学を教えてください。

(北尾社長)

 私の戦略思考の基本というのは、中国古典や西洋の哲学を含めたさまざまな哲学と歴史、それから長年にわたる読書遍歴から来ています。『孫子』や『戦国策』などの兵法や『論語』等の中国古典は全般的に何度も読んできましたし、人材の活用方法など企業経営につながることもそこから学ぼうと思い主体的に読書してきました。例えば孟子は戦略を実行に移す時に「天の時」「地の利」「人の和」を重視するべきであると説いていますが、さらに『孫子』の戦略思考の中では大事なコンセプトとして「勢い」が挙げられており、いかにタイミングよく動き、勝敗を決めるかが説かれています。

(澁谷)

 過去に1,500億円のITファンドを設立したほか、バイオテクノロジーに集中的に投資して、且つその業界にどっぷり浸かるというお話しいただきました。日本の金融系ベンチャーキャピタルなどには、少しずつ投資すれば、どこかが当たるはずだ、みたいな考え方がありますね。

(北尾社長)

 実はファンドの設立当時、野村證券やジャフコのOBの方に「分散しないと無茶だ」と言われたのですが、集中投資を貫きました。投資は自分の相場観や勝負運を信じるか信じないかに関わってきます。長期投資でも「必ず上がってくるはずだ、バブル経済はこうなっていくはずだ、そうすれば設備投資は増えていく、経済成長率が上がる、じゃあ工作機械は儲かるだろうから今のうちに買っておこう。」こういう判断を自分で組み立てることができるかどうか。これは仕事をする上で全てに通ずるものです。

(澁谷)

 それにしても住信SBIネット銀行で3兆円を超える預金を集めたという事実は本当にすごいですね。

(北尾社長)

 インターネットの力はすごいものがあります。インターネットの力を地方にどう利用するかということが非常に大切です。さきほど「金融は全てリスクとリターンである」と話しましたが、これを事業として見た場合は、自社の経営資源をリスクとリターンの観点からどう活用していくかということです。銀行業で見た場合は、お客さんから預かったお金をどこへ投資・融資するかですが、これは銀行員が判断していかないといけません。だから証券業のように仲介型で成り立つフローのビジネスと銀行業のような預かった資金を運用するストックのビジネスには、決定的な違いがあるのです。銀行業には、この点をきちっと理解して参入しないといけないと覚悟していました。金融に対する十分な知識と金融の近未来像に対する洞察こそ、日本の金融の発展には欠かせないでしょう。

会社概要

事業内容 株式等の保有を通じた企業グループの統括・運営等
設  立 平成11 年7 月8 日
資 本 金 81,681 百万円
発行済株式数 24,561,761 株( 自己株式を含む)
決 算 期 3月
従業員数 連結:5,352 名 / 単体 172 名

2014 年3 月31 日現在

◆北尾 吉孝(きたお よしたか)
1974 年 慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券株式会社に入社。1978 年 英国ケンブリッジ大学経済学部卒、野村證券株式会社海外投資顧問室、ニューヨーク拠点(NSI)、第二事業法人部次長。
その後、ワッサースタイン・ペレラ社常務取締役(ロンドン)、野村企業情報株式会社取締役、野村證券株式会社 事業法人三部長を務める。
1995 年 ソフトバンクの株式公開を担当したことが縁で孫正義にスカウトされる。
ソフトバンク株式会社常務取締役。その後、1999年 ソフトバンク・インベストメント株式会社(現・SBIホールディングス株式会社)代表取締役執行役員社長に就任( 現職)。公益財団法人SBI 子ども希望財団 理事、SBI 大学院大学学長も務める。

(2014/11/04掲載)