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SMBC日興証券株式会社 代表取締役社長 清水 喜彦 氏インタビュー

聞き手:リッキービジネスソリューション(株) 代表取締役 澁谷 耕一

SMBC日興証券の事業戦略、証券会社としての地域金融機関との関わり方についてお聞きしました。

「わかりやすい」証券会社を目指して

(澁谷)

三井住友フィナンシャルグループの一員として、SMBC日興証券は今後どのような事業戦略をお考えでしょうか。

(清水社長)

弊社は、三井住友銀行(SMBC)の子会社でしたが、昨年10月に行われたグループ再編で、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)の100%出資会社となりました。そもそも、銀行は間接金融であり、証券は直接金融であるため、性格が異なります。つまり、バイサイドのみを相手方とする銀行の下に、バイサイドとセルサイドの双方を相手方とする証券会社が存在することは、利益相反の観点から、無理が生じてしまうのです。

我々は、お客さまのために何ができて、何をしなければならないのかを考えなければなりません。来年1月には、SMBC フレンド証券との統合も控えています。お客さまのために、SMFGの子会社となることで『利益相反は起こさない』、統合して一つの証券会社になることで『お客さまから見てわかりやすい』証券会社を目指します。

そして、我々の強みは旧四大証券でありながら、グループ内にメガバンク(SMBC)を持ち合わせていることです。メガバンクのメリットを生かしたホールセールに注力しながら、多くの個人投資家を顧客に持つ旧四大証券としてリテールにも注力することで、その強みを最大限に生かしていきたいです。

(澁谷)

重点分野としては、どのようなことに取り組んでいくのでしょうか。

(清水社長)

重点分野は3つあります。1つ目は『リテール』です。最新の計画では、2015年9月末時点で約2000名いた個人営業の担当者数を、2019年4月までに約3900名にする予定です。個人投資家は、ネット証券などの利便性を求める投資家と、対面式で丁寧な説明を求める投資家に二極化しています。近年は、比較的ネット証券が注目される傾向にありますが、日本の個人投資家は高齢者が多いことから、対面式の窓口は必要だと感じています。

ただし、我々の弱点は、他の大手証券会社より担当者の数が半分くらいと圧倒的に少ないことです。我々は社員一人当たりの生産効率が高いので、担当者数を100対50から、100対80まで持っていくことができれば、他社に負けない実績を上げることができるはずです。

2つ目は『ホールセール』です。これは先程申し上げた通り、お客さまから情報共有の同意書をいただくことが前提となりますが、メガバンクとの連携メリットを生かすことです。

そして、3つ目が『S&T(セールス・アンド・トレーディング)』です。証券会社であるからには、ディーラーとしてマー ケットで実力を発揮しなければなりません。以上の3つの重点分野に、人材やシステム面を強化しながら、注力していきます。

地方創生なくして日本の成長はない

(澁谷)

地域金融機関との連携は、具体的にどのように取り組んでいくのでしょうか。

(清水社長)

SMBCは、他のメガバンクに比べて、地域金融機関との関係はあまり強くありません。また、銀行在籍時は同業者という立場からやりにくさを感じる部分がありましたが、証券会社であれば『仲介者』という立場で地域金融機関と関わることができるので、非常にやりやすいと感じています。

近年は、地方銀行などの地域金融機関もグループ内に証券会社を新たに設立していますが、戦略などのノウハウは我々の方が経験上保有していますので、戦略立案などの面で地域金融機関をお手伝いさせていただいております。

我々から地域金融機関に対して有益な情報提供を行っていますが、地域の情報を多く保有しているのは、我々やメガバンクではなく、その地域にある金融機関です。お互いが自分たちの役割をしっかりと認識して手を組めば、共存は十分可能であり、それこそが地方創生に繋がっていくと思っています。「地方創生なくして日本の成長はない」と言っても過言ではありませんので、地域金融機関と連携を密にして上手に共存していきたいですね。

(澁谷)

SMBC 日興証券のベンチャー企業に対する支援、IPOに対する取り組みについてお聞かせください。

(清水社長)

ベンチャー企業などの成長支援を行うにあたって、我々は3つの座標軸で考えることを強調しています。3つの座標軸とは『エリア』『時間』『業種』です。1つ目の『エリア』というのは、まさに地方創生です。私は銀行員時代に中堅・中小企業を40年間見てきましたので、地方企業の強さというものも身に染みて理解しています。日本の成長を考えた場合、東京一極ではなく、地方も一緒に考えていかなければなりません。

2つ目の『時間』は、成長過程のことです。つまり、IPOが企業のゴールであってはなりません。IPOは、あくまでも 第二のステップアップのスタート台であって、そのように更なる成長を目指す企業をアーリーステージの段階から支援していきたいと考えています。そして、3つ目の『業種』は、将来性が期待できる業種であるかということです。IPOの事務主幹事を何件行ったという数も大切かもしれませんが、我々としては数より『質』に拘りたいと思っています。それらの3つの座標軸を意識して、IPOを始めとしたベンチャー企業の支援に取り組んでいきたいと思っています。

インフラファンド市場での初の事務主幹事

(澁谷)

今後、成長が期待される市場や業界には、どのようなものがあるのでしょうか。

(清水社長)

アグリビジネスやエネルギー、医療・介護、IT などです。さらに言えば、機械化・AIの技術が進歩する現代社会において は、コンテンツを含めたサービス業も含まれるかもしれません。

また、弊社では『不動産投資信託(REIT)』について市場黎明期より本格的に取り組み、『J-REIT』『私募REIT』とも に、事務主幹事実績(件数・金額ともに)で本邦NO.1の実績を誇っています。仕組みがREIT と似ているインフラファンドの育成にも注力しておりますが、インフラ関連の資産は、投資対象として成長が期待できます。

2015年に日本取引所が『J-REIT 市場』に次ぐ新市場として『インフラファンド市場』を創設し、1 兆円超への成長期待 を有する市場と位置付けています。初期段階においては、投資対象として太陽光発電施設が核となると思いますが、中長期的には、風力、バイオマス等の太陽光以外の再生可能エネルギー発電設備や、公共施設等の運営権、その他のインフラと、広範なアセットクラスまで投資対象を拡大し、J-REIT 市場と同様に大きく発展していく市場であると考えています。

今年の3月に『リニューアブル・ジャパン』社をスポンサーとし、インフラファンドとして3例目となる上場を達成した『日 本再生可能エネルギーインフラ投資法人』において、弊社は初の事務主幹事を務めさせていただきましたが、同市場を盛り上げる一助となるべく、引き続き、積極的に取り組んでいきたいと思っています。

清水 喜彦(しみず よしひこ)
1955 年生まれ、山梨県出身。1978 年早稲田大学商学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)へ入行。
常務執行役員 法人企業統括部長、副頭取(取締役兼 副頭取執行役員 法人部門統括責任役員)、
取締役副会長などを経て、2015年6月SMBC日興証券顧問、9月代表取締役副社長。2016年4月より代表取締役社長。