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与謝野 馨 財務・金融・経済財政担当大臣 インタビュー

<澁谷>

 金融危機後の不況における、銀行の果たす役割はどのようにお考えでしょうか。

<与謝野大臣>

 金融というのは、どの国の経済にとっても必要不可欠なものであって、実は金融を通じて資源配分が適正化されるという非常に重要な役割を担っています。
 もう一方では、金融を通じて、消費が高まるという側面もあるわけですが、やはり一番の大きな機能は、金融仲介機能、すなわち、資本を預金という形で集めて、それを企業などに貸すという仲介機能を通じて、国全体としての資源配分を適正化させるという機能です。

 金融派生商品などは、いわばサイドビジネスであって、やはり、本来は金融仲介機能という元々の銀行の持っている社会的使命を果たすことであり、通常時であれ、今のような経済的に難しい時期であっても、果たすべき機能は同じだと思います。

 但し、こういう危機の時代では、銀行の世界にいる方々は常識人ですから、萎縮的になることはままあることで、それを超えてリスクテイクをどうやっていくのか、とったリスクをどう管理していくのか、そういうことを目指していただきたいと思います。

 お金を回していると、お金が生まれるというような、そんなうまい話はないわけで、やはり、どの分野に資金を投ずるかといった判断をし、それから、実際に資金を貸してリスクを取り、その後のリスクを最小限にするために、その後の経過を良く見ていかなければいけません。それが経営管理の役割ではないかと思います。 機械的にお金を貸すというのは、金融とは言えません。昔、最も機械的なお金の貸し方というのは、土地という担保さえあれば、何をやっていても関係なく貸すというやり方でした。

 機械的なものではなく、どういう企業であるか、どういう仕事をやろうとしているのか、といったところまで考えながら融資するのが、銀行本来の使命だと思います。

<澁谷>

 今後の銀行経営に求められる重要課題は、どのようなことでしょうか。

<与謝野大臣>

 多くの銀行が、昨年度赤字決算になったわけですが、これは保有していた株式や債券において評価損を出し、また貸し付けている企業が不振に陥って、どうしても債権分類からいうと不良化の方向に動いているということから、やむを得ないことだと思います。
 但し、以前と違って、評価損は発生したその期にきっちりと計上し、償却したり引当をつんだりすることにより処理しているということで、その結果、瞬間風速的には赤字が生じていますが、銀行経営自体に問題が生じているわけではありません。

 それは、自己資本比率で見れば、個別の銀行を見ても、主要行では8%をはるかに超えていますし、地方銀行においても4%を超えているということで、今回の日本における経済危機は、世界の経済危機が、実体経済と金融の両面が傷むという一方的な危機であったのに対して、輸出が落ち込んだという単純な理由によるものです。主要金融機関の内容は少し傷んだけれども、致命的な傷は負っていません。証券化商品にもどっぷり浸かっているわけではありません。

 確かに、銀行全体合わせれば1兆円以上の損失を計上しているけれども、銀行全体が持っている自己資本から見ると、たかだか数%の話なので、そういう意味では、日本の銀行の健全性は維持できていると言えるでしょう。但し、今後、どういう方面に貸出が向かうのかということは非常に難しいと思われます。

 期待収益率の高い分野というのは国内では段々少なくなってきています。つまり、銀行もよほど工夫をしないと生き残るのは大変な時代であるということです。 それから、主要行は、積極的に株式による資金調達を目指していますが、仄聞すれば、以前に比べると株式の募集も比較的スムーズに応じていただいている模様であり、喜ばしい現象だと思っています。

 一方で、政府としては12兆円の公的資金注入枠を設けました。まだ銀行は誤解をしているのではないかと思われますが、非常にフレンドリーな資本注入であって、以前のように銀行が不良債権を抱えていた時代の資本注入と、今回の資本注入は全く考え方が違います。

但し、資本注入が必要ないということは、それはそれでいいことであって、資本注入を受け入れないことで、金融界はけしからん等ということは少しも思っていません。

 

<澁谷>

 以金融危機後、政策金融機関がクローズアップされてきていますが、今後の役割についてどのようにお考えでしょうか。

<与謝野大臣>

政策金融機関については、官から民へというスローガンのもと、民業圧迫を避けようとする、いわゆる経済に対する政府の干渉、関与が必要ないという学論と、やはり経済政策というのは、民間では十分ではないという学論との対立があったわけです。 当時は、経済に対する関与は必要ないという意見が勝っていたわけですが、大不況とか、世界的金融危機が、こんなスケールで来ることは前提にしていなかったんですね。 実際に、こうした危機的状況がやってくると、日本の金融機関は、必要に迫られて萎縮しますし、経済社会全体としての資金繰りというのは、大、中、小、それぞれの規模の企業いずれにおいても困難に直面したわけです。 そういうことで、やはり中小企業は中小企業金融公庫、大企業は政策投資銀行、中堅企業は、商工中金という政策金融というものが、今一度見直されているわけです。 これは、危機を脱するための政府としての道具なわけです。 民間銀行に危機対応業務をやれといっても、危機対応業務というのは民間銀行が政府に申請してはじめて行えるわけで、やはり、いざという時にいろんな道具立てを持っているというのは必要です。規模感は別にして、機能はやはり持っていないといけないというのは、今回の経済危機を通じての実感です。

<澁谷>

米国は、銀行の健全性について独自のストレステストを実施しましたが、邦銀の自己資本についてどのように見ておられますか。 また、ストレステストと同様の将来予測に基づく健全性審査を実施するお考えはあるのでしょうか。

<与謝野大臣>

米国のストレステストは、大手19行に対して行ったわけですが、実はストレスをかけてテストするということではなくて、不良債権の査定みたいなことをやったのではないかと思うんですね。 しかし、アメリカでも概ね7-8兆円の資本注入をすれば、健全性が確保されることがわかったということですので、大変良かったと思います。 金融庁は、各銀行に検査に入っていますし、日本銀行もそれぞれ銀行の健全性を見ています。常に、金融機関に対しては、健全性が維持できているかどうかチェックをしていますので、所謂、アメリカ的なストレステストを行う必要性は、現時点ではないと思っています。

(2009/6/03 取材 | 2009/6/16 掲載)