銀行リテール戦略
第1回 東邦銀行 営業本部法人営業部 部長 竹内誠司氏
聞き手:リッキービジネスソリューション(株) 後藤 浩伸

▲ 東邦銀行 営業本部法人営業部
部長 竹内誠司氏
(後藤)
御行の事業承継についてのお取り組みをご説明ください。
(竹内部長)
当行関連のシンクタンク、財団法人福島経済研究所がありまして、この研究所が去年、福島県内の事業承継とM&Aのニーズ調査をしました。この調査によりますと、資本金が1億円未満の企業の95%が同族企業で、そのうち中小企業の社長さんの平均年齢が60歳なんですね。そこでアンケートを取りましたところ、いつ事業を譲りますか、といった平均年齢のイメージが67歳と出ました。そうしますと、あと10年のうちに、今の経営者がいるうちに、ある程度、事業承継、相続を含めて対策を取っておかないと、今後、福島県においても企業数が減っていって、当行の基盤もなくなってしまう。土台固めをしなくてはいけないということが前提にあります。
以前、あるコンサルティング会社にセミナーをやっていただきましたが、その先生のお話ですと、2006年の『中小企業白書』によれば、年間29万社が廃業しているとのです。うち7万社、約25%程度が、後継者がいない廃業だということです。このままですと中小企業の数が減少して、地方は特に中小企業基盤が弱くなりますよ、という話もありました。それに危機感を感じたことが、以前にも増して事業承継に力を入れてやっていこうとなった一つのきっかけです。
従来から事業承継対策はやってきていたのですが、従前は基本的には対処療法的に、相談があったときに伺うという形でやっていました。
しかし当地にはメガバンクが4カ店あり、事業承継を切り口に、当行の顧客基盤が大きく切り崩されていくということも実際に起きております。
また、中小企業経営承継円滑化法が昨年5月に成立、10月に施行され、今年の3月には事業承継税制の法律改正があります。それをにらんでいるということもあります。 これは今後ニーズの高まりが予想される中で、他行に先駆けて動こうということで始まった背景がございます。
(後藤)
初めは受け身的にやっていたものを、今後はこちらから能動的にやっていこうということですね。
(竹内部長)
そうですね、仕掛けると言いますか。
お客様も、事前に事業承継対策をやりたいとは思っているんですが、現実的にはなかなかできないケースが多いんですね。
実際にあった話ですが、ある取引先の社長が亡くなってから相続対策の相談に来られ、そこで自社株を評価したところかなりの額の評価になりました。そうすると、結果的に納税資金などの融資が発生します。営業店現場では融資実績額が増え、プラス面がありますが、ある役員から、「そうなる前に対策をやらなかったうちの銀行が悪い。融資が発生して喜べる事例ではない。」と指摘されました。確かにおっしゃる通りなんです。そういうことにならない前段でもっと押さえておかないといけないですね。お客様にとってはお金がキャッシュアウトしますから。
(後藤)
そうですね。
取り組みの体制はどのようなものでしょうか。
(竹内部長)
今までは一般営業業務の一つとして事業承継対策をやっていました。それを、経営コンサルという形で、相談業務から入っていき、徐々にステップを踏んでやっていこうと思ってます。現在は、本部が3名で営業店をサポートする体制を取っています。
他行でも同じことをやっていると思うんですが、やはりある程度経営コンサル的な形で入っていかないといけないと思います。取引先の方はまずどこへ相談に行くかというと、その約4割が税理士へ相談されるんですね。残りの2割が金融機関、あとは同業者ということで、最初の切り口を税理士さんに依頼すると、節税対策に力点が入ってしまい、事業承継の面からみれば別の手段もあるのでは、というケースも多々ありました。そこで、やはりまず相談を受ける体制をつくりましょう、ということになりました。
営業店の現場では、事業承継と税務面の知識が不足しがちなので、どうしても先送りになるケースが多いんです。ですから、そうならないために、最初から切り口を決めて日常のルーティンワークの中に組み込んでやりましょうという形にしています。
(後藤)
こちらからニーズを掘り起こしていくということですか。
(竹内部長)
ええ。
今までの後継者問題は、基本的には身内でつないできたんです。しかし、この時代、中小企業自身も先が見えてこないのです。地方ですと、ご子息を一般企業等のサラリーマンにしたりするケースが多くて、後継者にならないという例がよくあるんですよ。
廃業の問題がありますが、実際、技術力があるところも多いのです。そういう企業が、子息に後継者がいなければ、従業員の誰かに継承するのか、あとはM&Aで会社を売るのか、そういった悩みの相談が実際に増えています。これはやはり切実な問題で、経営環境が今のような状況になってくると、経営者もある程度割り切っているところがあります。
(後藤)
営業店の方の役割と本部の方の役割は、どういった仕切りがあるのでしょうか。
(竹内部長)
基本的に営業店の方は事業承継のニーズを聞き出すということ。それから先、専門的な話になると、本部がお邪魔して、具体的な話に入っていくという形です。
正直言って営業店だけに任せてしまうと、どうしても融資中心になりがちで、ソリューション営業がなかなかできないので、ある程度義務付けする中で、本部がサポートするから一緒にやっていきましょう、いう形をとっています。
案件が放置されないように管理を一緒にやっていくことが大切だと思います。やはり対象先になる資産家や事業家は、大体他行も入っていきますので、事業承継の相談したところに深い関係が出来てしまいますよね。
(後藤)
そうするとほかの付随する取引までいってしまうということですね。
(竹内部長)
そういうことですね。やはり地元の東邦銀行に相談してよかったという事例をつくっていかないといけません。
(後藤)
お客様の反応はどういうものなんでしょうか。
(竹内部長)
会社オーナーは基本的に、事業承継・相続対策は税理士さんに相談するものと思っていらっしゃいました。そういう面では資金の調達もそうですけれども、銀行と一緒にやっていけるということ、銀行のパイプを利用できるということに関して、ものすごく反応はいいですね。
実際の試みとしては、去年の6月に事業承継セミナーを郡山で開催、約200名の方においで頂きました。また経営承継の円滑化法が施行されるのを踏まえて、秋にも、今度は各地区別、6地区で事業承継セミナーを開催しまして、やはり約200名の方がいらっしゃいました。
そういったセミナーで情報発信しまして、それを今度営業店の現場から拾い上げていくという形で推進しています。
やはりこれだけ事業の展開が見えてこなくなるとそういったニーズに応えていかなければいけないと思います。M&Aで大きくなろうとするところと、売りたいというところと、2つ出てきますので、そのマッチングなんかもニーズとしてありますね。それは基本的に銀行内でやりたい面もあるんですが、当行のチャンネルに限界がある場合は、そこは大手と提携して一緒にやったりしています。ある程度大きな案件は経営コンサルの先生と連携して対応しています。
(後藤)
そういった専門家も入れることで、より厚みのあるサービスが提供できるということですね。
(竹内部長)
そうです。
(後藤)
事業承継に絡む融資など、実際のお取引はどうですか。
(竹内部長)
案件数的には、ボリュームがありますね。融資実行額として結果が出てきているものもあります。企業の買取り資金等、結構大きな金額が実行出来たりしています。しかし、すぐにビジネスには結び付かないケースも多いと思うんです。ただ、これは中長期で考えています。
(後藤)
また次の世代に広がっていく話ですよね。
(竹内部長)
そうですね。やっぱり次の世代の基盤をつくって、東邦銀行と取引をやっていれば何かいいことがあるという形の流れをつくるということで考えています。ですから、目先の利益にはこだわっていません。すぐ融資に結び付いた、付かないではなくて、中長期的に相談を受けて、それで東邦銀行に情報が何でも集まってくるシステム作りをしていきたいと思っています。
(後藤)
まずは相談を受ける体制を整えて、情報を集めてからというのが、一番の武器になるということですね。地域の金融機関として、こういったことを進めることに、当然メガバンク等競合他行も力を入れてやってみえると思うんですけれども、そのあたりをどうお考えですか。
(竹内部長)
地元企業の存続、発展のために、結果として当行に囲い込みができて、銀行としての取引先数を、ある程度維持していきたいということがありますね。
おそらく、どこの銀行もそうだと思うんですが、廃業等が続いてきて、取引先数が減ってきているはずなんですね。これはある面で仕方のないことですが、それをカバーするためには、それを減らすスピードを遅くするか、新しく創り出すということをしていかないと、間違いなく基盤数は減ってきます。そうすると外に出ざるを得ないわけです。
ここにきて金融機関との競争が相当厳しくなってきています。厳しくなっている中でも、事業承継についてのソリューションを提供することは基本的には企業とのお付き合いが永続的につながっていくものだと思います。そういう意味では、事業承継は中長期の視点で推進していくべきものだと思います。
2009/02/10 取材)|(2009/03/10 掲載)
前の章へ
次の章へ
文字サイズ  文字サイズを大きくする  文字サイズを標準に戻す
会員(登録無料)になると、全てのコンテンツをご覧になれます。
会員登録 ログイン