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静岡銀行 中西勝則頭取インタビュー

スピードある行動力で挑戦する銀行に


▲ 静岡銀行 中西勝則頭取

<澁谷>

頭取を始め若い経営陣が多いですが、その中でいま頭取に期待されていることは何でしょうか。

<中西頭取>

スピードある行動力です。たとえ行動を起こしたとしても、そこにスピードがなければ、行動とは呼べない。就任して間もなく一年が経とうとしますが、これまでスピード感をもって、かなりの種まきをしてきましたし、それについてはディスクローズも十分に行ってきました。その中で様々な批評を受けながら自分の立場を見極めつつ、有言実行で将来につながる布石を確実に打ってきたつもりです。
たとえば、就任時に全営業店約160店舗を回ると公言し、それを実行しました。支店では、食堂や会議室をはじめすべてを見てきます。3時までに訪問した時は、外側の視点、つまり顧客の視点から行員の動きなどを確認するために、営業室から入っていきます。そうしなければ本当の課題は見えてこないと思います。
また、IRは投資家向けのみではなく、地域社会や従業員に対しても行います。地域に対しては、静岡経済研究所と共催で経済講演会を行い、その冒頭30分で当行の現状や課題などを話します。従業員に対しては、地区の支店長会議において必ず双方向で行います。各支店にお取引先との親交を深める「静友会」というものがあるのですが、そこでも中期経営計画について話をしたりします。
経営者としては、従業員、もしくは投資家の一方に片寄るのではなく、バランスをしっかり取らなくてはなりません。たとえば、従業員からの要望に応えながらも我々経営陣としての戦略を実現することで、経営が成就するのです。投資家や取引先の方々についても同様で、『お互いの要望を聞きながら』ということを徹底しています。投資家の方々の声に耳を傾け、それに則った形でやっていれば、株価はある程度伸びます。しかし、地域やマーケットからの要望とは違う場合があります。そこでバランスを取らなくては、やがては株価の下落にも繋がります。 株価については、これまで種まきをしてきたことを基礎として、着実に段階を踏んでやっていかなくてはならないと考えています。
お取引先に対しても、しっかりものが言える経営でありたいと思います。かつて、こんなことがありました。数十億円の投資をしたいというあるお客様に対し私は反対しました。しかしメインバンクであった他行はどんどんやれと背中を押しました。結局その投資は成功したのですが、その後そのお客様にお会いしたときに、「反対してくれたうちにやったから成功したんですよ。御行も賛成した頃にやっていたのではそのビジネスは遅すぎたということですね。」と冗談めかして言われたことがありました。
銀行は全てにGOではなく、ある意味、保守的に、また総体的に物事を見ています。そのような文化の中で、さらにお客様をサポートしていかなくてはなりません。やりたいこと全てに対しお金を出すのではありませんし、時にはブレーキを踏み、時にはアクセルを踏むよう、明確にアドバイスをすることが必要です。それを見極めることは、お客様の立場に立ち懐に深く入っていかなければできることではありません。
お客様のことを理解するために必要なことは、売上ではなく、まず資金繰りです。これが最もベーシックな段階で、次は資本です。どの会社にも会社概要がありますが、その中の株主構成を私は非常に重視します。株主は重要なポイントです。収益が大切であるのと同じように株主が誰であるかも大切なことであり、その上で財務全体、P/L全体の話をしなくてはなりません。
私がとても残念に思っているのは、粗利や利益、売上について社長から話してもらっているのに、P/Lを全部聞かないと数字を作れないという行員が増えていることです。決算書がしっかり出ているような上場会社ならいいのですが、そうでない場合でも経営者との会話から、重要な数字については推測出来る行員であって欲しいと思います。
私が若い頃、衝撃を受けた上司がいました。新規開拓を目指すある企業に一緒に訪問したのですが、訪問後「売上はこれぐらいだから仕事もこれぐらいあるだろうし・・・」と、社長との会話の中から断片的な情報を組み合わせて、その会社の資金繰りなどを話し始め、大変驚きました。いつのまにかそのようなスキルのある行員が少なくなってしまったように感じます。

<澁谷>

私も、自分自身が経営してみて始めて資金繰りがとても大切だと分かりました。

<中西頭取>

やはりそこが一番気になるところですよね。売上については社長だけでなく誰でも気になることです。しかし資金繰りについては下の人間になるほど関心が薄くなってしまうのが現実です。
企業が融資を受ける際、当行とA行という選択肢があるなかで当行が選ばれたとします。この場合、当行が勝ったと思いますか? これは勝ち負けではありません。資金ニーズがある場合、社長にとっては当行から借りてもA行から借りてもそのニーズが満たされ目的が達成されることに変わりはありません。 ところが、条件について銀行側から能動的に投げかけ、手数料や金利を上げたり担保を取る場合に勝敗が出てくるわけです。交渉してもなかなか金利が上がらないとよく言いますが、それは上がらないのではありません。「上げてください」と言えないからです。言えば当然ながらダメだと言う返事が返ってきますが、なぜダメなのかと話し合うことはできます。このとき銀行側は攻め、取引先側は守りに入ります。金利交渉をしないということは、残念ながら、相手に守らせたことがないということです。結局は先方が守り通すこともありますが、それはそれで良い。攻めたこともないようでは話になりません。
 

<澁谷>

金利を上げてくれと言われると、それはコスト増につながるわけですから当然Noと返答します。しかし、例えば「格付や利益が上がればいずれ金利は下りますから」などと具体的に説明をしてもらえれば検討するでしょう。

<中西頭取>

その通りです。そのとき初めて攻められたと感じるわけです。しかし「お金を借りてください」と言われただけでは攻められたとは感じません。一般企業であればどこへ行っても攻めています。ところが、銀行員は「借りてくれ」と言うことが攻めであると錯覚しているのです。借りてくれと言って借りてもらったときは、相手に対して何のインパクトも与えられていません。しかも、競争に勝つため金利を下げて取るなどもってのほかです。有難いとも思われないわけですから。このような営業の機微を理解できていない行員も、残念ながらいるわけです。私の座右の銘のひとつに「利他の心」があります。相手にとっての利益とは何だろうか、どのようにすれば良いのかを能動的に考えていないために、相手の考えていることが分からないのです。相手のことを一生懸命考えているからこそ、攻めも守りもできるわけです。
-コンサルフィーについて-
手数料を取ることに罪悪感を感じる必要はなく、高くても価値のあるものを提供し、相手がその価値を認めてくれれば良いわけです。いくら安くても価値のないものを提供したのでは相手は納得しません。すでに相手が喜んでいるにもかかわらず、それ以上に安くしてしまう、これではサークル活動になってしまいます。金融というものは、その点を明確にしなくてはならないのです。社会情勢や我々の説明責任などの要素も加わりつつ、常に相手のことを考えながら常に攻めなくてはいけないわけです。
-座右の銘-
座右の銘が3つあるのですが、まず一つ目は、「利他の心」です。これは商売における真髄だと思っています。例えば、お布施によって誰が一番救われるのでしょうか? お坊さんではありません。あげた人自身が救われるのです。そのような気持ちにならなければ商売はできません。この言葉は本来は仏教の真髄を現したものですが、金融機関として、相手に利がなければこちらにも全く利が生じないということを肝に銘ずるべきでしょう。
二つ目は「足るを知る」つまり、やりすぎてはいけないということです。
そして三つ目は、私自身の行動を律するための「動機善なりや私心なかりしか」という言葉です。私心がなければ動機は善だ、あるいは動機が善であれば私心はない、このどちらでも構いません。たとえば、どこかと提携したい、お金を捨ててでもこの会社を救いたいなどと思ったとき、私心がないかどうかをしっかり自分に問い掛けるのです。私が人事部長であったとき、昔部下だった人たちを上げることにはすごく気を遣いました。同じ能力があるなら、第三者の推薦で選びます。これを冷たいと言う人もいますが、ここに私心があってはならないのです。
この3つの座右の銘は、頭取就任時に社内報に掲載しました。このようなことを伝えていくことはとても大切だと思っています。先ほど世間を騒がしたデリバティブにしても、もともとは実利があったからできたわけです。しかし足るを知らない人間が手数料を取るためだけにやるからおかしくなってしまったのです。 銀行批判が再び強くなっていますが、銀行業界全体への批判と個別銀行への批判とを分けてもらいたいぐらいです。そのあたりを見極める目を、金融機関を論じるアナリストには持ってもらいたいと思います。

<澁谷>

私も、これからは地銀の皆さんに頑張ってもらわなくてはと感じています。メガバンクは収益やボリュームなどに走りすぎてしまっていますが、それを続けると歪んでしまいますからね。
御行の強みは何でしょうか。

<中西頭取>

お客様第一であることはもちろんですが、良い意味でも悪い意味でもリスクに対して敏感であり配慮する力を持っている、また、ただ儲けるだけではなく、コンプライアンスも含めて自浄作用を持てるような文化があることが大きな強みです。稟議書に"拒絶"とありますが、当行では"謝絶"にしようと決めました。とは言ってもこれまで拒絶したことはありませんでした。と言うのも、審査部が"不同意"にするのを嫌い"依頼返却"、つまり営業店が自主的に取り下げるというニュアンスをもった言葉を使っていたためです。審査部としてはしっかりと審査を行い、誠意と明確な意志をもって「謝絶」とするようにしました。

<澁谷>

3Cプランとして「クリエイト・チェンジ・チャレンジ」とありますが、具体的にお聞かせください。

<中西頭取>

挑戦し攻める気持ちを創造していくためには、意識改革が最も重要であるということです。しかし、意識が変わってきているという実感はなかなかもてません。数字が伸びていることで理解することはできますが、私自身が現場と離れた場所にいることもあって実感が薄く、意識的なものがどのように変化しているかは主観的には分かっても客観的には分からないわけです。支店長会などで支店長や役員から客観的に変わってきたと言われたときは、とても嬉しく思います。その意味では、やはり現場に近い人と話すことがとても大切ですね。
 

<澁谷>

御行グループには証券会社やリース、キャピタル、経営コンサルティングがあり、グループ全体としての力がありますが、法人営業に対する取組みはいかがでしょうか。

<中西頭取>

「自立」ということを明確に打ち出しています。自立し、独自性を出すのです。自立のひとつの形として、株式市場への上場があります。同じグループだからと言って、いつまでも銀行に頼っていてはいけないのです。
最近では、独自に採用を始めました。その会社にふさわしい人材を自分たちで採用するのです。本当に自立しなければシナジー効果はありません。余剰人員を押し付けるために会社を作るような時代はもう終わりました。

<澁谷>

現場の行員からすると、総研などに紹介しても忙しいことを理由になかなか動いてくれず、やがて紹介する気がなくなるのです。

<中西頭取>

自主・独立・独自性の他に、標準化ということもあります。独立し自立し独自性を持ち、そこからシナジーを生み、そして標準化していく。例えば、コンプライアンスに関して銀行と同じ高いレベルに持っていかなくてはならないし、また経営に対するガバナンスも同じレベルで行うのです。

<澁谷>

最後に、若手銀行員に対して一言お願いします。

<中西頭取>

自己研鑽は当然のことで、私自身も社会人になって一番勉強しました。「興味を持て」とよく言いますが、興味に加え自分自身が「リスク」を取らなくてはなりません。例えば、目的を持ってある勉強をするために夜間学校に通うことは、サラリーマンとしてはある意味リスクテイクです。ですから、明確なビジョンをもって、個人のリスクについてもしっかりコントロールできる人間になってもらいたいと思います。

2006/04/25 掲載)