第8回 同時テロとその影響
2005年7月は、英国において、グレン・イーグルズにおけるG8サミットの開催、2012年オリンピック開催地のロンドンへの決定など、国際的に注目を集める様々な出来事がありましたが、とりわけ大きな関心を引いたのは、やはり7月7日の朝に起きた同時テロでしょう。
ロンドンの中心部で、3両の地下鉄と1台のバスが爆破され、50名以上の死者が出ました。英国ではかつて、IRAのテロが繰り返されていた時代がありましたが、近年では最悪の惨事です。ことに、IRAのように明確な政治的メッセージをもったものではなく、自爆テロという方法を用いていることは英国ではかつて例のないことであり、こうした無差別的な攻撃へ対処することの難しさが痛感されています。
テロの当日は、地下鉄が全面的に運休したほか、交通網がほぼマヒしましたが、官庁や企業は意外に淡々と業務を続けており、翌日にはほぼ日常生活が回復していました。テロ以後、ポンドの価値が顕著に下落していますが、もともと利下げ期待が高まっていることもあり、テロの影響が決定的であるとはいえないように思われます。
経済への直接的な影響としては、観光客の減少の可能性などが挙げられます。観光旅行のキャンセルなどはテロの直後にある程度発生しましたが、実際の影響はより長期的に表れてくるのではないかとも言われています。こうした観点から無視しえないのは、丁度2週間後、7月21日に起きた第二次テロです。
この第二次テロも手口は酷似しており、ほぼ同時に3両の地下鉄と1台のバスが狙われました。今回は、犯人達が用意した爆発物がうまく起爆せず、被害は軽傷者1名に止まりました。これらの爆発物は、前回並みの惨事を引き起こす可能性もあっただけに、不発に終わったことはまったく幸いといってもよいことです。しかし、まだ多くの謎が解明されずに残っています。なぜ4件の犯行がことごとく失敗したのか。また、前回のテロはラッシュアワーに起き、対象にもKing’s CrossやLiverpool Streetといった交通の要衝が含まれていましたが、今回は4件の場所にあまり脈絡、必然性が感じられません。犯人は何を狙いとしているのかが判然としない点が不気味でもあります。
第二次テロは、実際の被害こそほとんどありませんでしたが、わずか二週間の間に繰り返しテロが発生したことにより、先の大規模テロが一回性のものでなく、いつでも、何度でも起こされうるという恐怖を生じさせずにはおきません。これは、経済にもより継続的な影響を及ぼす恐れがあります。
もっとも、こうしたテロは、ロンドンでなくても、東京を含めいかなる都市でも起こすことは可能であり、それを完全に未然に防ぐことはほぼ不可能であるともいえます。そうした意味では、ロンドンが特に危険であるということはいえないのかもしれません。ロンドンの人々の、有事に際しての冷静さは特筆すべきものがあり、”business as usual”のかけ声の下、日頃とほとんど変わることなく仕事を続けています。普段はいい加減に見える彼等も、このような時には頼もしく思えるのが面白いところです。
現在もまだ、直撃を受けた地下鉄のいくつかの路線が運休となっていますが、それを除けば、首都の機能はほぼ正常であり、観光、ビジネスとも、ロンドンを訪れることに特段の問題はありません。もっとも、官庁を含めたオフィスや、劇場、美術館といった多くの建物において、荷物検査等のセキュリティが普段より厳しくなっているため、注意が必要です。



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