英国の中小企業金融

第4回 英国政府の中小企業金融支援策

英国のDTIは中小企業支援のためにBusiness Linkという窓口を作り、そこが中小企業支援を専門的に行い、DTI本体は大企業を担当することとしています。 現在、Business Linkを含めてDTIが行っている企業活動支援の制度は下記表のとおりです。

ご覧になってお判りのように、中小企業向けの金融(銀行借入)支援としてDTIが具体的に行っているのは、Succeeding through innovationというカテゴリーに挙がっている補助金等を除くと、Raising financeというカテゴリー欄のSmall Firms Loan Guarantee (SFLG)という制度がひとつあるだけです。他は全てエクイティ・ファイナンス支援とコンサルティングやネットワーク作りなどの側面支援です。


 Source: DTI 'Business Support Solutions'。

SFLGはDTIと民間金融機関のジョイント・ベンチャーで、保証事務はDTIのAgentであるSmall Business Service (SBS)が行っています。しかし融資審査と決定は全て民間金融機関が独自に行いSBSは一切関与しないことになっています。

SFLGは予め認定した民間金融機関から中小企業が資金を借り入れる際の信用保証制度で、最低5千ポンドから最高10万ポンドまでで、(但し2年以上事業実績のある企業は最高25万ポンドまで)、借入額の75%を保証。期間は2年から10年まで。保証料は年2%となっています。対象となる「中小企業」の基準は同制度では年商3百万ポンド以下(製造業は5百万ポンド以下)、従業員は200人以下の企業または自営業者とされています。 DTIのSFLG以外にも各地方公共団体が其々独自の支援策を行っていますが、中央政府として中小企業の銀行借入に関する支援策はSFLGのみで、しかも実際は民間銀行主導の制度です。

前掲の表にみられるように、英政府は銀行借入よりもエクイティ・ファイナンスに、既存中小企業よりも新規開業者に、支援の軸足を置いている様子がうかがえます。創業支援のためのインキュベーター施設は全国各地に設けられています。

英政府の行っている支援策はKnowledge Transfer Networkのように支援対象業種や支援内容を具体的に的を絞った支援策が中心で、「中小企業だから」という理由だけでの支援は前記SFLGのみのようです。

我が国と比べ英国政府の中小企業支援は創業支援が中心で、「出産から幼年期は支援するが、その後は大人として自己責任で」という姿勢です。またその具体的支援策もBusiness Linkにみられるように官民合同、若しくは民間活用をその基本としています。

しかし既存中小企業が公的支援を必要としていない訳ではありません。我が国と同様に英国の中小企業も、大企業に比べて比較不利な状況はいくつもあります。 一般的に大企業の中小企業に対する支払振りは悪く、支払遅延が慢性化しており、そのため中小企業の資金繰りに影響を与え、結果当座貸し越し等の金利負担となって中小企業の収益性を弱めています。銀行は多くの場合一行取引であるためその中小企業のキャッシュ・フローを良く把握しており、回収が遅延している取引先が具体的にどの大企業であるかも知っているため、中小企業からの当座貸し越し等のファイナンス要請には応じているようです。ただし競争原理が働かず金利は高めですので、SFLGなどの保証料もあわせると、中小企業の負担は大きなものとなっています。

こうした状況に対する中小企業の経営者の不満は大きく、英政府も対策に取組んできました。遅延利息を請求するための法整備が行われました(Late Payment of Commercial Debts-Interest, 1998)。しかし法に基づいて大企業に対し遅延利息を請求すると、他に理由をつけて取引を切られてしまうといった問題も発生しており、大企業対中小企業の力関係を均衡化させなければ解決しないといった根本的問題も指摘されています。

2000年5月には20名の民間の実業家や有識者で構成されるThe Small Business Councilが設置されました。このCouncilはSBSにアドバイスを行うほか、政府の中小企業政策に対して意見を行う非政府第三者機関です。

SBSは
(1) 既存中小企業とその可能性への支援
(2) 成長可能性のある中小企業の国際化への支援
(3) 社会的に弱い立場にある企業の不利是正
といった方針を打ち出しました。

しかしこれらの動きは、英国でも最近ようやく既存中小企業の比較不利の問題に目が向けられてきたということであって、基本的には、資金調達の手段として銀行借入のみに頼るのは信用力に乏しい中小企業の過渡的な状況であり、自助努力により投資対象としてより魅力ある企業に成長させてゆくのが経営者の責任であるという考えが一般的です。

したがって前掲のDTIの支援策一覧にみられるように、中心は依然として創業支援やエクイティ・ファイナンス支援、経営コンサルティング等です。

銀行は英国においても我が国においても民間営利企業ですので、起業家や中小企業を長期的視点にたって守り育ててゆくことより、低リスク高収益の取引形態へ持ってゆこうとするのはいたしかたの無いことです。

我が国と比べて英国の行政における中小企業問題に対する姿勢の特徴は、行政の発行する諸文書に頻繁にでてくる、平等・公正(Equal, Fair)というふたつの言葉に代表されていると思います。銀行借入に過度に依存するのは信用力の乏しい中小企業の特徴であるなら、その借り入れを支援するのではなく、大企業と同じように銀行借入依存度の低い企業体質に変えていくための支援を行う。それがEqualという考えであり、その実現のために障害となっている社会制度上の不平等を是正してゆく取り組みをFairと称しています。

中小企業だから何が何でも支援が必要なのではなく、大企業に比べて不平等・不公平な社会環境・制度があれば是正してゆき、公正に競争がなされるようにする。その競争の結果負ける企業は、大企業であっても中小企業であっても、救う必要はないという考え方です。社会的弱者の最たるものは新生児・幼児です。それが創業支援に注力する最大の理由といえます。

著者:戸田 洋正
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