英国の中小企業金融

第5回 日英の中小企業金融比較

日本と比較した場合、日本の中小企業問題で常に問題になるのは連帯保証人の制度、特に包括根保証です。これはジャーナリストの北 健一氏が指摘されておられるとおり、中小企業の活性化にとって大変大きな足枷となっています。 英国には企業の債務を個人に無限保証させるなどという前近代的な考えは存在しません。日本語の株式会社に相当する法人のことをLimited Company と言いますが、Limited Companyは有限責任だからLimitedです。しかし前章で述べましたように、英国では中小企業にとって銀行借入は4大銀行グループの寡占市場となっていますので、オーナー経営者が銀行から個人保証を要求されることはよくあります。ただし通常は債権・金額を特定した特定債務保証です。前述のように銀行が経営者個人の資産情報も把握している場合が多いので、個人の返済能力をはるかに超えた包括根保証を求めるよりも、返済能力を超えた融資要請には応じないのが普通です。

実質個人経営であるような零細企業の場合、オーナー経営者が経営を投げ出してしまわないように個人保証を銀行が要求することは英国でもよくみうけられます。しかし日本の銀行のように、経営者の家族・親戚、従業員や取引先経営者にまで個人保証を要求することは考えられません。これは資本主義社会でのLimited Companyの存在意味から逸脱しているだけでなく、中小企業の自由な活動や、起業家の新規開業の意欲を大きく損なうものです。

英国の銀行が寡占市場で圧倒的優位な立場にあるにも拘らず、包括根保証や親戚・従業員・取引先などの個人から保証を求めないのは、債権保全手段として効率的でないからです。

英国でも包括根保証はあります。ある企業が子会社を作って全く異なったベンチャー事業を行おうとするとき、子会社の取引銀行や信用保険会社などが親会社に包括根保証を求める場合がときどきあります。しかし個人に求めることは聞いたことがありません。

ある英国人の銀行役員に中小企業金融における日本の個人保証制度の話をしたことがありました。そのとき彼はしばらく考えてからDoesn’t make senseと一蹴しました。彼によると、「個人の弁済能力は億万長者でもないかぎり知れたものだし、それを数人集めてみても企業活動による負債リスクを全てカバーすることなど到底できない。それよりもその企業のビジネス・プランを詳しく検討し、当該中小企業の取引先にも自行に銀行口座を開設するよう働きかけたりしてキャッシュ・フローをできるだけ把握し、できればすべて自分の銀行内だけで資金が回る仕組みに近づけることを目指す方が、リスクの実態を正確に理解できるし収益性も上がり、現実的かつ効率的だ」という趣旨の話をしてくれました。

倒産によって自己破産するのはオーナー経営者だけで十分で、債権回収に大きな助けとなることなど最初から期待できない家族や親戚などを自己破産に追いやって何の得るところがあるのか理解できない。「あの銀行だけは大嫌い」という人達を増やす効果しかないのではないか、というコメントをしてくれました。

土地を所有している個人が相当な弁済能力を備えていたバブル経済下の日本と単純比較することはできないのですが、個人資産家の資産規模が日本よりはるかに大きい英国で、銀行経営者のリスクに対する基本姿勢の日本との違いには注目すべきものがあります。

一方、英国における中小企業問題は、寡占状態で対銀行交渉力に欠ける中小企業が如何に高金利借入れから脱却するかということです。英国の議員のなかには、高金利であるから、経営者はOverdraft(当座貸し越し)など銀行融資から早く脱却してエクイティ・ファイナンスを行えるように企業価値を高める努力をする、として4大銀行グループによる寡占状態を容認する人達もいます。

著者:戸田 洋正
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