アメリカ通信−シリコンバレーの風−

シリコンバレーの風 Vol.2

シリコンバレー(以下 SV)の春の空は青く、丸くて広い。樹木や周りの山々にたっぷりと湿り気を与えた雨季が終わると、太陽の季節。秋まで一切雨の心配をせず、スポーツやピクニックを楽しむ事になる。
今や、サンフランシスコ市の人口(2000年78万人)を抜いたSVの最大都市サンノセ市(2000年92万人)。そのダウンタウンや点在するホテル等の一部のビルを除けば、SVにビルの谷間はありません。空が広く感じるのもそのせいなのでしょう。

筆者が住むSV第二の市、サニーベイル(直訳すると“太陽の谷間の街”でしょうか。2004年15万人、昼間は23万人)はヤフー本社やAMD,ロッキードマーティンの本拠地。

所々に残る果樹園。多くの住宅の裏庭にレモンやオレンジの木々が見えます。どこが“へそ”かわからないほど分散された起業群。銀行や警察、消防、病院まで平屋か二階建て程度の高さ。慣れないと住宅との見分けさえつきません。夜になるとネオンもなく、まるですべてが住宅地のような静けさ。満天に星がキラキラときれいです。
人々は生活環境を大切に緑の中に生活しています。スペイン語系25%,アジア系25%,白人系48%,その他数%で人種のるつぼ。過半数を超える人種がなく、住民の40%が米国外生まれ。筆者の娘(9歳、4年生)が通う公立の現地校での調査では、両親いずれかの最終学歴が修士以上の家庭が85%。10人いれば8人は技術者の街ですから。
小学校の教室にはアップル社が無料で寄付するりんご印のコンピューターがどこにもずらり。PCは“りんご印”と子供達の頭にプリントされるのです。

物価は食費、衣類含めて日本より割安ですが、住宅は最大の問題です。築後40年以上で3−4部屋の庭付き中規模の平屋住宅が、1億円以上。住宅の価格が数千万円クラスの米国平均に比べると, 異常な高さです。
気候と学校区の良さが高値の理由です。学校の運営費用が固定資産税に大きく依存していることから、それなりの理解はできますが、低所得者層には厳しい現実です。不動産バブルとみて良いのかもしれません。(切れ目のないSVへの流入者を根拠に、バブルでないと不動産業界は叫び続けていますが)

 

シリコンバレーVCの昨今

この異常な不動産高の当地で、良い人材を確保するには、かなりの報酬が必要です。良い腕のVCのファンドマネジャー(FM)はその代表格でしょう。年俸二千万円程度は通常です。それに成功報酬が加算されます。
バイオ、ソフト、通信、半導体等、当地でのコアとなる起業分野をカバーするにはやはり最低5名程度の腕利きFMが必要です。従い給与等、だけで一億円。間接費用、事務所経費などを加えると年間二億円は最低です。最近のVCが手数料として経費処理できるのは2%程度。従い、ファンドサイズは最低100億円という事になります。
これらのVCとは別に、かなり早い段階でスタートアップ会社に数千万円単位で、種まき投資、シードを行うエンジェル的なVCが数多く存在しますが、これらは、ここでは別の分類とします。

 

VCは元気か?

バブル崩壊の2000年にも多くのファンドがスタートしました。当然ですが、ほとんどのそれらファンドの成績は良くありません。清算が相次ぎ、多くの中小VCが退場しました。そして2004年、試練から多くを学んだVCが再度、投資家よりの信任を取り付け挑戦に臨んだのが、今年だと思います。
投資対象の重点は、バイオ、生命科学やナノ分野にかなりシフトされていますが、IT関連も画期的な次世代製品を狙って多くの起業家ががんばっています。市場性の精査を最優先しながら、VC各社は、事業計画を厳選してのチャレンジです。生き残ったVC各社は起業家達と同様元気です。
バブル崩壊の2000年にスタートし、未だ償却が済んでいないポートフォリオのロスを、次回のファンドの成功益で早く埋め合わせしたいという大手VCのトップの裏話を、仲間内の飲み会で聞くことがあります。
これもまた、真実なのでしょう。

 

VCの役割

多くの有望な起業群は人脈によりエンジェル投資家などからシードマネーの出資を受けます。製品化やサービスの形が具体的なスケジュールとなるとVCの出番です。彼らは将来の主導権確保のために、出資だけではなくさまざまな経営面での支援や関与を行います。単に、ボードに役員を派遣するだけでなく、有力顧客の紹介や仕入先の紹介、オペレーションにまで実に積極的に関与します。起業家達のメンターとしての役割も大切です。この辺りはかなり日本での状況と違うのかもしれません。

 

VCの投資基準

スタートアップの経営者には、過去に失敗と成功を何度か経験した起業家が多いので、VC好みの事業計画書作成もお手のもの。VCへの説明会には、見栄えのよい資料が次から次と提出され、起業家からまるで宣教師のように自信に満ち溢れたトーンで、事業計画の説明を受けることになります。“こんな素晴らしい技術や、システムが市場で受け入れられない筈はない”と言ったような主張が出てくれば要注意です。“素晴らしいアイデアだったが少し早すぎたね”との言い訳を何度聞いたことでしょうか。起業家は夢を、VCは確実なリターンを求めてのレースのスタートです。市場は何を求めているのか、市場は今あるのか、これから出てくるのか?バブル期の経験をもとに、市場予測をすべての基盤にしながら、成功確率の精査を続けます。

 

VCの出口事情

2005年度1月〜3月の最初の4半期は、昨年度の同4半期に比較すると、VCの投入した資金は少ないようです。でも、昨年度より通年で落ち込むことはないでしょう。
従来は投資回収の出口までの時間が長いため、敬遠がちであったバイオや生命科学の分野にまでVCが参入しています。
回収まで10年はかかるといわれてきたこれらバイオなどの分野にVCが目を向けたのは特筆すべきです。ともかく一日も早い回収を至上命令にしてきたVCの考え方も、少し変化しました。また、VCの基本であった “最短の上場(IPO)による投資リターン回収(出口)”の考え方も変わりました。

T分野で言えば、大御所のシスコや対抗馬のルーター会社、ジュニパー社などが、業績拡大やリストラで貯めたお金を梃子として、大掛かりなM&A作戦を開始しました。VCとしては彼らに高値で買ってもらえれば出口としては、大成功です。良い投資リターンが見込まれるようであれば、夢を追いつづけたい起業家達を説得してでも、会社売却に走る例が増えてきました。

本年は多くの起業家やVCにとって高値での会社売却がIPO以上に出口として脚光を浴びる年になりそうです。

世界中から武者修行を兼ねた技術腕自慢が集まるSV.夢を追い続ける彼らに国境の意識はありません。時空を飛ぶように、インド、イスラエル、台湾、中国と仕事の分担に従って、軽々と国境を越える彼ら。その成果を何十倍にしようと注目する資本家たち。
成功の結果は起業家、VCなどの投資家に平等に割り振られるとしても、世界中からの夢見る技術者が真の主役であることはまず間違いありません。

さて、このようなVCが起業を支えるSVにあって、通常の銀行はどのように活動しているのでしょうか?

著者 : 道高幸彦(みちたかさちひこ)−Sachihiko (Mike)Michitaka

シリコンバレー在、Ocean Seven Consulting, LLC ファウンダー & CEO.
日商エレクトロニクス(株)顧問役、(日商エレクトロニクス米国会社ボードチェアマン)。在米19年、2000年夏よりシリコンバレー在住。

米国IT会社マネジメント兼、コーポレートベ ンチャーキャピタリス ト(CVC)。 IT分野で数々の投資及び,日本市場での米国先端IT製品の販売を成功させている。 数多くの日米会社経営を経験、また地元シリコンバレー地区青少年更正センター理 事 などのボランテイア活動の他、CVCや経営指導者として日系起業家支援を続けている。

2005年6月末、日商エレクトロニクス常務執行役員及び米国法人社長を退任。
同年、7月シリコンバレーでマネジメントコンサル会社Ocean Seven Consulting, LLCをファウンダー・CEOとして設立。

1992年: 日商岩井米国法人 副社長
1996年: 日商岩井 情報産業本部副本部長
関係会社担当。ニフティ、インフォコム,フュージョン等の役員を歴任。
同志社大学卒、ハーバード ビジネススクール PMD コース修了
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