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第10回 税効果会計 3 税務上の繰越欠損金にかかる繰延税金資産 | 銀行員が知っておきたい会計話

著者:公認会計士 井口 秀昭

税務上の欠損金の繰越控除

繰延税金資産を計上できる代表的なものは第8回で述べたように、会計上は費用となるが税務上は損金算入が否認されるものです。そして、繰延税金資産を計上できるもう一つのケースとして忘れてはならないのが、税務上の欠損金がある場合です。

税務上の繰越欠損金がある場合の、法人税等がどうなるか簡単な設例で見てみます。

【表1】 欠損金の繰越控除がある場合の法人税等の計算
  *1年 *2年 *3年 *4年
税引前当期純利益 △200 50 100 150
欠損金の繰越控除 △50 △100 △50
税務上の所得 △200 0 0 100
法人税等 0 0 0 40
税務上の繰越欠損金 200 150 50 0

 (注1)
会計上の税引前当期純利益と税務上の所得は必ずしも一致しませんが、ここでは欠損金の繰越控除以外に両者の差異はないものとします。
 (注2)
法人税等の実効税率は40%とします。

*1年は業績不振で200の赤字となってしまいました。この赤字がここではそのまま税務上の欠損金となります。税務では赤字が出たからといって、その分の税金をその年に返してはくれません。ただ、翌年度以降税務上の所得が発生すれば、そこからこの欠損金を控除することは認めています。そして、*2年は業績が好転し、50の黒字になりました。しかし、この50の黒字に対し、そのまま税金を納付する必要はありません。それは前年度の欠損金を所得から控除できるからです。前年度の欠損金は200ありますから、そのうち50を繰越控除として使うと、*2年の所得は0となり、納付すべき法人税等もなくなります。*3年も同様に控除して法人税等を納める必要はありません。*4年において、*1年に発生した繰越欠損金を使い切ってしまいますから、税務上の所得は100となり、40の法人税等が発生することになります。

以上を前提に今度は税効果会計を適用しないとどういう決算書になるか見てみます。

【表2】 税効果会計を適用しない場合の決算書
  *1年 *2年 *3年 *4年
税引前当期純利益 △200 50 100 150
法人税等 0 0 0 40
税引後当期純利益 △200 50 100 110

欠損金の繰越控除がなければ、税引前当期純利益(=税務上の所得)に実効税率(40%)を掛けたものが法人税等になり、残りの60%が税引後当期純利益として表示されるはずです。しかし、ここでは欠損金の繰越控除があるため*2年と*3年は利益があるにもかかわらず、法人税等は0ですし、04年は利益額の割には法人税等は少なくなっています。利益と税金のアンバランスを是正するために税効果会計が導入されたわけですから、税務上の繰越欠損金がある場合も税効果会計が適用されます。

税効果会計の適用

それでは次に税効果会計を適用した場合の決算書を見てみます。

【表3】 税効果会計を適用する場合の決算書
  *1年 *2年 *3年 *4年
税引前当期純利益 △200 50 100 150
法人税等 0 0 0 40
法人税等調整額 △80 20 40 20
税引後当期純利益 △120 30 60 90

*1年に発生した欠損金は将来所得が発生すればその所得から控除でき、将来の税額軽減効果がありますから繰延税金資産を計上できます。軽減される税額は欠損金200に実効税率40%を掛けた80であり、その分を法人税等調整額として損益計算書に利益計上するとともに、貸借対照表に繰延税金資産として計上します。*2年から*4年は*1年に発生した欠損金を所得から控除していますから、今度は控除した欠損金に見合う繰延税金資産を徐々に取り崩していきます。*2年は50×40%=20、*3年は100×40%=40、*4年は50×40%=40の取り崩しを行った結果、法人税等調整額は費用として計上されます。

【表3】を見ていただくと分かるとおり、税効果会計を完璧に適用すると、税引後当期純利益は税引前当期純利益に60%(=100%-実効税率)を掛けたものに等しくなります。税効果会計はこのように利益と税金の関係をクリアにするものなのです。

繰延税金資産計上の判断

税務上の繰越欠損金の控除期間は7年間です。したがって、税務上の繰越欠損金がある場合は、その控除有効期間である7年間繰延税金資産が計上できます。

しかし、この繰越欠損金に対する繰延税金資産計上も、無条件に認められるわけではありません。繰越欠損金は翌期以降所得が存在して、初めて税額減少効果を持ちます。所得のないところで欠損金の控除などできないからです。したがって、この場合も将来の収益力の判断が必要になります。特に繰越欠損金の場合は、過去の実績として所得計算は赤字だったのですから、過去の収益実績は将来の収益力判断にはマイナスに作用せざるをえません。過去の赤字から将来は黒字に転化するという予想ができなければいけませんから、他の繰延税金資産より相当慎重な判断が必要とされます。

将来収益の検討を行い、税額減少効果を確認できれば、昔から「赤字も資産だ」という言い方がありましたが、税効果会計では文字通り赤字が繰延税金資産という資産に転化したことになります。