事業承継対策と中小企業投資育成株式会社の活用
経営者に事業承継について相談されたら
「銀行員ドットコム」の読者の方々の多くは、金融機関に勤務され日頃、中小企業経営者とかかわりがある方が多いと思われますが、事業承継についての相談等にはどのように対応していらっしゃるでしょうか?
オーナー系の中小企業の多くは「オーナー=代表取締役」という企業が多いと思いますが、社内に何でも相談できる「ナンバー2」的な人材を有している経営者はどれほどいるでしょうか?自社株式の同族内での移動(例:オーナー自身のご息子への移動)等、「身内」の財産に関する信頼できる相談相手はなかなかみつからないものです。
このような環境の中で実際に経営者は、相談窓口として誰を選んでいるでしょうか? 私どもが日頃、中小企業の経営者にお会いしている中では、金融機関、顧問の税理士等が「信頼できる相談相手」として「事業承継」に関する相談を受けているように感じます。
同族企業の経営者にとって経営権に直結する保有株式を動かす事業承継の問題については大変重要なテーマです。 実質的な後継者を選ぶ作業は、日々の経営の中で適任者を探すということになりますが、株式の移動という形式的な事業承継は税制等のテクニック的な話となり、なかなか具体化しないものです。
中小企業経営を支援する「中小企業投資育成会社」
そんな中で中小企業経営を資本面から支援していく政策実施機関として中小企業投資育成会社*1があります。その設立趣旨は、資本金3億円以下の中小・中堅企業に対して増資を引き受けることで自己資本の充実を通じた、株主の安定化やその健全な成長を期待することにあります。 また、第三者割当増資を引き受けること(または自己株式の処分)で中小企業の事業承継対策の一助にもなっているケースが多々あることから、今回ご参考までにその機能をここでご紹介させていただきます。それには、投資育成会社の配当期待の投資という特徴的な投資スタイルを活用します。
*1 中小企業投資育成とは
中小企業投資育成株式会社は、中小企業の自己資本充実と健全な成長発展を図るため、中小企業投資育成法(昭和38年6月10日法律101号)に基づいて設立された政策実施機関です。東京・大阪・名古屋に3社設立され、ベンチャー・中堅中小企業の株主となり、企業の成長発展を支援することを目的としています。
投資種類は、キャピタルゲインを期待リターンとする公開期待の投資と期待リターンを安定配当による回収とする配当期待の投資との2本柱となっています。1984年には民間法人化されていますが、経済産業省の監督のもと業務を行う公的機関です。
一般的な事業承継対策
ゴーイングコンサーン(継続企業)を考えると経営者が必ず直面する問題に事業承継があります。事業承継といっても、次世代の経営を誰に委ねるかという実質的な問題と、特に優良なオーナー会社において重要かつ課題となりやすい自社株式の移動という形式的な問題があります。 また形式な株式の移動を考えた場合も、事業承継の対象を誰にするかで対策の方針は、ずいぶん違ったものになります。子供等親族に承継を行うのであれば相続税・贈与税・所得税等の関係者の納税負担が少ない方が助かりますし、逆に同業他社等外部にM&Aなどで株式を売却するのであれば少しでも株式の評価を高くして手元に残る資金を多くしたいと考えるのが普通でしょう。
投資育成制度を活用した事業承継対策事例
中小企業200万社の大多数は株式公開を目指すことのない企業群です。 以下は事業承継対策事例として公的機関である中小企業投資育成会社を利用したケースについてご紹介させていただきたいと思います。
同族内で事業承継する場合、企業価値が高いほど、相続税等の負担が増加し、被相続人たる創業者(もしくは現大株主)の財産状況によっては納税資金が確保できないということが発生します。 また、自社の株主構成については、支配権の問題が絡み頭を悩ませている経営者も多いと思われます。株価対策のために増資をしても外部に譲渡した後のリスクを考慮すると、結局は躊躇する、そんな悩みを経験した経営者も少なくないはずです。
投資育成を利用した典型的な事例
今回は、下記図表で投資育成を利用した典型的な事例をご紹介します。
この会社は会長一族が68.75%の株式を保有し、会長だけでも57.5%を保有しています。会長保有株式の評価額は純資産で1株当り28,571円、46,000株保有しているため、評価額は1,314百万円となり、旧額面500円の50倍を超えていることになります。相続税が最高税率(50%)であれば、概算で6億円程度の相続税が発生することとなります。毎年の利益はそれ程大きくなくとも、長年の会社業績が順調であったということになりますが、税負担によりその後の経営に支障をきたしたりするようでは本末転倒と言わざるを得ません。
投資育成が引受ける株価評価について
投資育成会社が中堅中小企業の増資新株を引き受ける際の株価評価方法は、一般的に使われる他の方法(純資産価格方式、類似業種比準方式、配当還元方式)によらない、法人税関係個別通達により認められた投資育成評価方式(収益還元方式の一種)によることになっています。
この事例では、会社の株式の投資育成評価額は1株当り800円と算定され、投資育成会社は新株30,000株を引き受け、24百万円の増資を引受けることを想定しています(別途自己株式1万株を8百万円で投資育成が取得)。 その結果、増資前1,314百万円であった会長の株式評価額は846百万円に下がることとなります。
●事例図
*本ケースにおける相続税法上の株価・相続税評価額は概算です。詳細については税理士にご確認ください。
株主安定化の効果
投資育成会社はそもそも経営支配を目的とする機関でありませんので、支配権の問題を危惧する必要はありません。投資育成会は投資先企業の経営に干渉しない安定株主のため、事業承継という問題を解決するために投資育成会社を有効に活用するケースもあります。ただし、あくまで社会的に意義のある会社で安定配当が可能な企業に対して行うものです。
投資育成会社の利用条件
投資育成会社は公的機関として、出資した会社から6%~10%(東京社)の配当利回りを期待します。投資を配当で回収するというめずらしいスタイルです。既に45年の実績を持っており、全国で4,000社を超える利用実績があります。
尚、投資育成業務の詳細な業務内容等お問い合わせについては下記までお願い致します。
<問い合わせ先>
東京中小企業投資育成株式会社 業務第一部 松本英邦(中小企業診断士)03-5469-5851
(2011/11/14 掲載)








