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信金信組・組織の活性化に向けて

著者:東北財務局 総務部長 川瀬 透 氏

弁護士 中村健三 川瀬 透氏
現職:東北財務局総務部長

昭和59 年明治大学政治経済学部卒業、同年東北財務局入局、
その後大蔵省(国際金融局・主計局・理財局・財政金融研究所) 経済企画庁等を経て

平成11 年より関東財務局の金融監督部門・預金保険機構、金融庁で金融行政等に従事。

最近では平成21年金融庁監督局協同組織金融室長、平成22 年関東財務局管財第二 部長、平成23 年関東財務局東京事務所長を経て現在に至る。

はじめに ~"人が活きる"組織~

 小職は1999 年から10 年余、関東財務局及び金融庁で信金信組を中心に多くの地域金融機関の栄枯盛衰に接し、その初期の頃の破綻処理も含め、苦境に陥る機関の対応をすることも少なくはありませんでした。そのような苦境の要因は、不良債権問題、有価証券運用の失敗などが公式的 には語られるのですが、私なりに(別の次元で)気づいたことは、それらの機関では"人が活きていない""活かされていない"ということでした。それらの大方の機関は、決してあこぎで劣悪な経営・業務運営をしていたわけではなく、役職員は至極真面目に業務に取り組んでいながらも、 たこ壺的な組織空間において自由な発想が出づらく、時代の流れや顧客のニーズも捉えられない中、役職員の能力が前向きに活かされずに、諸々の業務に齟齬が生じていくベースを見てとりました。そしてその再建には業務体制の強化はもとより、組織文化の変革が必要であることを、身をもって感じてきました。

 さて信金信組はもともと地域に最も密着したコミュニティバンクとして、戦後の地域経済興隆の礎を築いてきました。小職も長年多くの信金信組の営業現場を拝見し、職員の方々の真摯・誠実・ひたむきな「縁の下の力持ち」的取組みに感銘を受けてきました。しかし、時代は大きく変貌し、ボーダーレス・グローバルな競争経済へと突入、フレンドリーな "親近感"だけでは顧客のニーズは満たされなくなっています。また大方の機関の健全性は高まっているものの、疲弊していく地域経済の中、従前からの定常的な業務体系・運営のもと、信金信組の営業基盤は浸食されています。

 このような現状を踏まえると、地域経済及び自らの組織の維持を図るには、信金信組は今後、地域の経済ステーションとして機能していくことが必要不可欠です。そのためには、"人を活かす""人が活きる"仕組み・仕掛けをつくり組織を活性化する、大胆な戦略・施策が求められていると感じています。そのような考えから、この誌面にて組織を活性化させるために必要と思われることを3点提言申し上げます。

人材育成について 人事交流(=他人の飯を食うこと)のススメ

 スポーツではスキル(技術)以上にフィットネス(基礎体力)が重要であるように、ビジネスでも専門知識・ノウハウを身につけることはもとより、それ以上に洞察力・調整力・コミュニケーション能力などのビジネスの感性・地力を高めることが大事です。とりわけこのボーダーレスのビジネス環境のもとでは、縦横無尽に発想を巡らす・人をつなぐなどの格段のフィットネスが必要です。これは座学 や自らのOJTだけでは容易に養成できません。組織の外の(エリアの内外を問わず)有識者や志ある方々と交流し啓発する体系を構築する必要があります。

 更に進んで有効な方策は、「他人の飯を食うこと」、つまり長期出向(2 ~ 3 年)で自らの組織を離れることです。その出向先で責任の一端を担う立場で仕事をすることで、それまでとは異なるものの考え方・人との接し方などが大いに啓発されるはずです。その形態は「異業種への出向」に加え、「異地域における交流」(例えば遠隔地の信金信組間の人事交流)が有効です。引っ越しを伴う見ず知らずの 異郷での境遇は、家族の生活も含め、大変な苦労が伴いますが、それが格段の適応力・調整力を養成し成長の糧になるはずです。

情報リテラシーの向上 情報をつなげる仕組み・仕掛け

 信金信組は地域の産業・流通・暮らしなどに密着している情報の宝庫です。(守秘義務に留意したうえで)上手に活用していけば、相当のビジネスの展開をもたらすはずです。信金信組のコンサルタント機能の発揮とは、専門的知識を究め、それを駆使しながら事業者を高みから指導するというよりも、事業者に寄り添い、真に困っている事を丹念に聴取するなど活きた情報を受信し、解決のための有益な情 報を発信するということです。このカジュアルな情報の受発信こそが顧客サポートの核心といえます。そのために組織としていかに情報を収集・整理・共有化していくか、必要な方に必要な情報がスピーディー且つタイムリーに伝播する仕組み・仕掛けを構築していくかが重要です。近時、この面で銀行などではタブレット端末の導入などIT化が進展しています。このような動向にも留意しつつ、信金信組らしい格段の情報戦略の構築が望まれます。

職場内コミュニケーションの増進 今時のコミュニケーションのあり方

 信金信組では近年職員が減少する一方で、業務は増加・複雑化し、職員の余裕がなくなっています。また、世間一般がドライ化している風潮もあり、職場内のコミュニケーションが希薄化していることは否めません。顧客との親密なコミュニケーションを標榜する信金信組が、職員間のコミュニケーションに詰まっていたのでは、真のリレーションシップバンキングの実現は望めません。かといって昔流のベタな関係・つきあい(アフター5 も含む)に戻るということでは決してなく(戻る べきものでもない)、職場のダイバーシティ(多様性)を前提に、今時の若い職員・非常勤の方々にも通用し得るサクッとしたさわやかなコミュニケーションを模索・構築することが肝要です。ひとりひとりの存在感を高め、かつ、一体感の醸成が図られる組織文化の改革に意を用いていくべきと考えます。

最後に ~顧客支援に「身の丈」を超えて~

 信金信組の経営陣からよく「身の丈に合った経営」という言葉をお聞きします。資産運用のリスクテイクで背伸びをしないことなど、そのお考えには同感です。ただ、顧客を支援することについても、この「身の丈」ができない言い訳に使われていないでしょうか。顧客の課題は多種多様で、信金信組の「身の丈」には関わりません。それらの課題に応えるのに自らの資源が足りなければ、外部の様々な関係者・関係組織と連帯・連携していくことが必要です。 その連帯・連携の活力を生みだすためにも、それぞれの組織の活性化を一層図られることを切に期待します。

※本稿は筆者の個人的見解で当局の見解ではありません。