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日本アジア投資株式会社 代表取締役社長 松本 守祥 氏 インタビュー

日本とアジア 事業投資を通じて産業の活性化を支援、企業価値の向上へ

<澁谷>

 日本アジア投資の業務内容、設立経緯および沿革についてお聞かせください。

<松本 社長>

 当社はプライベートエクイティ投資及びファンドマネジメントを業とする投資会社です。具体的には、事業法人や機関投資家等からお預かりした運用資金によりファンドを組成し、その資金を成長力を秘めたベンチャー企業や、事業承継や事業再編を必要とする企業、事業の再生を目指す企業など、さまざまなステージの企業へ提供します。
 投資後は顧客紹介、業務提携の斡旋、その他様々な経営支援を行うことによって投資先企業の成長および企業価値の向上を支援し、ファンドでお預かりした運用資金の拡大に務めています。運用対象の性格上、運用機関は5年から10年程度と比較的長期間になることと、利益の実現が後半に集中(所謂Jカーブ効果)する点が特徴的です。

 当社はそもそも1981年旧経済同友会を母体として、主に「ASEAN諸国の着実な発展を促す」民間による直接投資促進を図るための投資会社として日本アセアン投資という社名で設立されました。その設立経緯から当初は「官」の性質が高く、実際に1985年から1989年までは海外経済協力基金が資本の半分を保有し、半官半民の体制で活動していました。

 純民間会社となった後1991年に現社名に変更し、独立系ベンチャーキャピタル(VC)として国内での未上場企業への投資を積極化、1996年に株式をJASDAQへ株式公開いたしました。その後、国内外のネットワークを拡充し、またVC投資以外にも中小・中堅企業をはじめとする企業の様々なニーズに応えるべく事業領域を拡大し、2008年に東京証券取引所一部に上場を果たしております。

 未曾有の経済環境悪化がいわれる現在だからこそ、革新性を持ったベンチャーの発掘と育成、事業再編を通じた新たな企業価値創出、さらには成長性の高い新産業分野の創出に寄せる社会の期待は高いと、私たちは考えており、日々起業や事業再構築をお手伝いしております。

<澁谷>

投資対象国の特色についてご説明下さい。設立からの経緯から、やはりアジア地域に強みをお持ちなのでしょうか。

<松本 社長>

 営業活動の範囲は広範で、エリアは北東アジア・東南アジア・北米となっています。特に近年マーケットが拡大している中華圏やベトナム、シンガポールを始めとする地域では、現地に日本人社員を駐在させ、日本に根ざしたベンチャーキャピタルとしての特質を活かし、投資を通じた現地の成長産業の発掘と育成や日本企業への業務橋渡しを中心に業務を展開しています。

 当社の最大の強みは、東アジア、東南アジアを中心に11の拠点(シンガポール、タイ、ベトナム、香港、台湾、上海、北京、韓国、米国、ならびに東京、大阪)を展開し豊富な海外情報を持っていることや、投資対象としている現地の未上場の会社に関する情報ストック(市場・技術等)があることです。又、ファンド運営を通じて培ったバンコック銀行、United Overseas Bank(シンガポール)銀行始めとする現地大手金融パートナー等との緊密な関係も大きな強みとなっています。

 更に、加えて申し上げれば、そのように現地に根付いた活動を行なっていながらも、日本という優良な市場や多数の日系企業へ広範なアクセスがあることが、当社の一番の強みです。多くの投資会社やVCの中から、当社を株主として、パートナーとして選んでいただけるのは、以上の様な背景と強みがあるからと考えています。

<澁谷>

JAICでの事業レパートリーをご説明願います。投資先数や投資残高はどの程度ですか?どのような企業、業種に投資をしておられるのですか?

<松本 社長>

おおよその数字ですが、投資残高は680億円で、内外で合計約700社にファンドや直接の投資をしています。今注目されている電気自動車や水処理等の環境関連の企業にも多数投資していますし、子会社では農業関連のファンドを運営し、農業、食品関連の企業等も支援しています。

 当社事業の一つは国内、海外でのVC投資、先に述べたように成長力のあるベンチャーへの投資を行なうものですが、それ以外にも次のような投資を行なっています。まずは子会社でバイアウト投資を手がけています。上場企業などの事業再編に伴い分離独立する事業部門や子会社、後継者問題を抱える中堅・中小規模のオーナー企業に対し、MBOやMBIなどの手法による投資を行っています。
 また、中堅・中小規模の、私的・法的整理により事業再生を図る企業、および事業再構築の実施が必要な企業に対しても多様なファイナンススキームを提案し、支援しています。

 そういった未公開の企業に向けたファイナンス以外に、プライベートエクイティ投資家、すなわち金融機関や事業会社が保有する未公開株式やファンドの出資持分の流動化をサポートするセカンダリー投資事業も行なっています。欧米と比較して未成熟な日本のセカンダリーマーケット(未上場株式の流通市場)において、JAICは、特定の金融グループに属さない独立・中立的立場という強みを活かし、セカンダリー投資のパイオニアとして貢献しています。

<澁谷>

私は仕事柄、銀行の方と仕事をさせて頂く事が多いのですが、銀行業務と貴社の業務の接点はどの様な点が有りますか?

<松本 社長>

 投資現場では既に多くの接点があります。安定的に収益を上げられるようになった投資先に対しては、更なる事業拡大に向けて融資等のご支援をいただいていますし、銀行のご担当者の方との情報交換によって、有力な投資候補先を紹介いただくことも少なくありません。

 また、当社はスタートアップへの投資を多く経験しており、事業立ち上げに必要な資金をエクイティで手当てする資本政策を策定することは得意ですが、投資先が次のステップを目指すときに、銀行からの借入も含めた長期的な視点をもったアセットコントロールや、資金繰りを指南するノウハウは不足しています。銀行の方との協業によって、そういった資金指南のノウハウを共有させていただくことができれば、我々は投資先を一層強く安定した会社に変えていくことができると考えます。

<澁谷>

 具体的なお話で、貴社の運営しているファンドで銀行業務面でのシナジーの例を幾つかお聞き出来ますか?

<松本 社長>

 弊社の運用するグローバルファンド(JAIC-中小企業グローバル支援投資事業有限責任組合)は、日本の中小企業の海外進出を支援するための資金を提供しています。1案件あたり、5千万円~2億円のロットで出資していますが、ある程度規模が大きな製造業ともなると、海外進出に必要な資金の全ては、当然ながら当ファンドからの出資金だけではカバーできません。銀行との協業によって投資先の事業展開を促進できると考えております。逆に、我々にとってアクセスの限られている、地方の有力企業が海外展開を考えている場合には、当社のアジアを中心とする海外情報のご提供を含め、是非グローバルファンドを活用いただければと思っています。

 また、先に申し上げましたような中堅・中小企業の後継者問題などは銀行さんにとっても重要な案件となっていると思いますが、そこで事業継承や再生等を手がける私共のバイアウトのファンドを活用していただくこともできると思います。

<澁谷>

昨年社長に就任されてから特に注力してきたことについてお聞かせ下さい。

<松本 社長>

 私が社長に就任してまず行なったのは、当社のビジネスを理念に立ち戻って定義しなおすことでした。昨年はVC業界にとって非常に厳しい状況が続きました。国内のIPO(新規上場)社数は年間で19社と、1970年代以来の低水準となりました。「IPOか否か」というビジネスをしているのであれば、ゆゆしき事態です。幸い当社グループには多様なEXITを提案できる人材と経験がありました。

 当社で掲げる経営理念に、「日本とアジアを中心とする事業投資を通じて、新しい産業を育成し、また産業の活性化を支援する」、そして、「起業家、事業者を支援しソリューションを提供することで長期の信頼関係に基づくパートナーとなり、もって新しい価値を社会に提供する」ということがあります。これは、日本だけでもアジアだけでもないクロスボーダーなパートナーシップを持っているという当社の強みをもって、「投資先企業のIPO実績」ではなく、「個別のディールごとに最適なソリューションを提案できること」を競争力の源泉とするという考えです。

 以前、海外業務管掌役員としてアメリカ・シリコンバレーに駐在した経験から感じていたのは、マーケットとしてまだまだ日本に魅力があるということでした。日本でのビジネスパートナーを求めるアメリカや中国の事業者は数多い。社長としては、そういった方々と日本の企業を結びつけるエージェンシーとなることを当社の目標として掲げ、そのための基盤づくりをして参りました。

 伸び悩む日本経済を活性化できるのは、やはり中小・ベンチャー企業をおいてはありえません。我々の投資先でも、クリーンテックなど次世代を担う技術やビジネスモデルを持つ会社が、ようやく芽を出し始めましたし、着実に業容を拡大している老舗の会社が次のステップとして海外に目を向け始めました。投資家や我々のパートナーと共に、こうした会社を支えていきたいと思います。

●会社概要

社名 日本アジア投資株式会社
本社 東京都千代田区神田錦町三丁目11番地
精興竹橋共同ビル
設立 1981年7月10日
資本金 27,166百万円
事業内容 投資業務
コンサルティング業務
投資事業組合等の管理業務
金融事務
代表者 代表取締役社長 松本 守祥
URL http://www.jaic-vc.co.jp/jp/index.html

(2010/2/17 掲載)

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