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第3回 金融危機の銀行への影響|『借金力』をつけるにはどうしたらよいか

著者:リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役 澁谷 耕一

今回は、前回お話させていただきました金融危機の根本的原因を踏まえ、今後、これが金融機関にどのような影響を及ぼし、その結果、企業の調達にどのように影響するのか、といった観点からお話をしたいと思います。
まず、今回の金融危機は外部調達ができなくなるというリスクである、ということです。

日本の銀行は、ほとんどが資金余剰、つまり貸出を預金が上回っている状態です。 しかし、米国のインベストメントバンクとよばれる、破綻をしたリーマンブラザーズ、ベアスターンや、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー、メリルリンチなどは、銀行ではありません。つまり、預金を集めることができませんので、投資を行う場合、すべて市場からの調達をしなければなりません。しかし、彼らは収益力を高めるために、積極的に借入を活用し、レバレッジを効かせた投資を積極的におこなってきました。

これは、非常に高いリスクを内在しており、外部調達ができなくなった時点で、行き詰る、倒産するということを意味します。これが、「流動性危機」といわれるものです。
そんな状況の中、この金融危機により、銀行間の市場であるインターバンクマーケットが混乱をきたし、借入が全くできなくなったことから、彼らの資金調達が閉ざされてしまい、2社は破綻、残り3社についても銀行からの出資を仰ぐこととなり、結局インベストメントバンクの看板を下ろすことになってしまったのです。 次に、自己資本規制の問題です。自己資本規制というのは、銀行の健全経営を維持させるために、BIS(国際決済銀行)が定めたもので、国際業務を行う銀行は、8%を維持する必要があります。また、国内業務に特化している銀行においても、4%の維持が求められています。尚、分母である資産の計算には、単純な資産の積み上げではなく、貸出等のリスクの度合いによって、細かくリスクウエイト(掛け目)を決めており、これらを掛け合わせた上で、計算がなされます。 例えば、住宅ローンであれば、小口分散がされているので安全性が高いことから50%なんですが、一方リスクの高いファンド向け投資の場合には400%となっています。つまり、リスクの高い資産を持てば持つほど資産が大きく膨らみ、いざ、これらリスクの高い資産が毀損してくると自己資本維持に大きな問題が生じるということになるわけです。

また昨今、マンションデベロッパーをはじめとした不動産業界において、多くの企業が倒産する、或いは倒産の危機にさらされているわけですが、これに伴い、銀行の信用コストは大きく膨れ上がってきています。また、これからも実体経済の落ち込みから、メーカーなど一般業種にまで波及してくる恐れがあり、更に膨れ上がる可能性があります。加えて、CDO(債務担保証券)をはじめとする投資金融商品の減損、評価損、円高による為替差損など、3月に向けて、更に問題が深刻化してくる可能性が高いと思われます。

また、銀行の収益は貸出資産の目減りや、個人向けの投資商品の低迷などから、収益環境は厳しさを増しており、自己資本比率の分子となる自己資本を充実させるのは困難です。そうすると、銀行はどうやって自己資本比率を維持するか。分母であるリスクアセット(資産)を減らさなければならなくなるわけです。例えば、自己資本が8%から7%に1%が落ちた場合、どれだけリスクアセットを減らさなければならないかといいうと、8%/100=7%/87.5、ということになり、100-87.5ですから、12.5%ということになります。

つまり、極力資産を膨らませない経営を維持していく、場合によっては資産を圧縮していかなければならないということになるわけです。3月に向けては、この投資有価証券についてどう評価するか、会計士と随分議論していることと思いますが、貸し渋り、貸し剥がしといった事態が起こる可能性は否定できません。 大企業においては、社債やCPが発行できない状況から、銀行に借入をどんどん申し込んできています。日銀は、この異常事態を受けて、銀行に対するCPの買取期限を延長する他、社債の買取を新たに実施するなどの施策を打ち出しています。これにより、多少は優良大企業の資金繰りについては、改善の兆しが見え始めると思われます。しかし、その他の企業に対して銀行の資金が還流していくのかは、疑問の残るところです。

最近、エコノミストが、よく金融のプロシクリカリティということを言っていますが、何かというと、経済の状態がいい時には、どんどん貸出を行う、ところが経済が不況になってくると貸出を行わない。このブレが大きくなる状態をこういう風に言うわけですが、銀行は、経済状態が悪くなっていくと、たとえ色々な対策が取られたとしても、なかなか貸出には消極的になってしまうのです。そこで、中小企業に対して、政府も、こうした事態を食い止めるべく、中小企業金融の円滑化を目的とした金融機能強化法の改正を昨年12月に実施し、銀行に対し公的資金の受入注入を促しています。しかし、公的資金を借りたとして、それを返せなくなるんではないかとか、2、3年後に政府や金融庁の規制が厳しくなるんじゃないないか、という心配もあってか、北洋銀行、南日本銀行、福邦銀行の3行にとどまっており、その効果は限定的かもしれません。 一方で、金融庁は、これまで、金利の減免や、返済期間の延長などに応じる貸出条件緩和については、原則不良債権というスタンスでしたが、中小企業に関しては、そうした場合においても不良債権としない取扱いを拡充しました。これについては、条件緩和に否定的であった銀行に対して、今後、柔軟な対応が期待できるものと考えられます。

企業は、条件緩和に応じてもらえることにより、大幅に足元の資金繰りが改善されることになります。

また、地銀においては、私が頭取の方々からお話を伺ってきたところでは、ここ数年、地域と密着した地域企業指向を打ち出し、また健全経営を重視した経営戦略を明確にしてきており、これらの対策をフルに活用して、資金を企業に提供してくれるものと信じています。

そういう意味では、経営者は改めて取引金融機関の目指す企業理念、経営方針というものを確認して、じっくりと銀行と向き合い、企業の実態や事業戦略に理解を求めることで、現状を改善できるアドバイスや対応をしていただけるのではないかと思います。

(2009/7/31 掲載)