TOP > 連載 > 『借金力』をつけるにはどうしたらよいか

第1回 序章|『借金力』をつけるにはどうしたらよいか

著者:リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役 澁谷 耕一

 これから10回にわたって、"借金力をつけるにはどうしたらよいのか"という命題に対して、私なりのアドバイスをさせていただきたいと思います。 私は、約7年前にこの会社を立ち上げましたが、当時はまさに長期化するデフレ経済の中、金融機関の不良債権を加速する動きが強まり、現在と同じく貸し渋り、貸し剥がしという状況が見られた時代です

 銀行の合併、統合が急速な勢いで進み、「企業育成、産業支援」という金融機関が担ってきた重要な機能が「収益最優先」の経営方針の下で失われていました。不良債権問題や公的資金導入による収益プレッシャーから、銀行は、従来、顧客企業に対して提供してきた「親身で適切な助言」を行う余裕がなくなってしまったのです。一方、銀行の顧客である大手、中堅中小、ベンチャー企業は、日本の厳しい経済環境や、産業の急速なグローバル化の中で苦境に立たされおり、厳しい経済環境に対応しながら雇用を維持し、企業を成長させるのは、すべての経営者にとって非常に難しい問題であったわけです。事業リスクも従来以上に増大し、緻密な分析と周到なリスクヘッジが重大な課題でありました。そこで、「親身で適切な助言とソシューション」を求める企業経営者の方々のご相談に乗り、企業を発展させるお手伝いをさせていただくために、また、銀行員に失われてきていたコンサルティング力やコミュニケーション力等を客観的立場からサポートするために、当社を立ち上げました。お蔭様で多くの金融機関の方々ならびに中堅中小企業のお客様からご支持をいただき、金融機関と企業の橋渡しのお手伝いをさせていただくとともに、銀行員向けのセミナーを多数開催させていただいております。

 それでは、まず、現在の銀行員がどういう状況におかれているのかという点について、ご説明をさせていただきたいと思います。

 昨今の金融機関の融資担当者の業務は多忙を極めている状況です。要因の一つには、企業環境の変化が益々激しくなってきていることです。この激変の時代、従来のビジネスに胡坐をかいていては企業存続もままならない状況です。常に新しいビジネスチャンスを求め新規事業を立ち上げたり、或いはビジネスチャンスの拡大を図るべく、国内或いは海外の販売戦略を常に見直していく必要に迫られています。

 そんな中、銀行員としても、この環境の変化、企業の動きを常にモニタリングし、企業の現状が今どういう状況におかれているのか認識しなければなりません。ただ、一部の部署を除いて、製造業やサービス業など多様な業種の企業を一人の担当者が担当しているのが現実で、なかなかすべての企業について把握できないのが実情です。

 二つ目としては、銀行でのデスクワークの増加です。コンプライナンスや内部管理などの研修、自己査定といった企業査定作業、本部への報告事項、商品知識習得のための研修など、組織、業務管理の強化、多様化する銀行業務により生じる諸々の作業が、毎日の業務の中に組み込まれています。それによって、企業を訪問したり、企業分析をしたりといった、融資をするために必要な業務時間がどんどん削られてしまっている状況です。

 これは、担当者に限った話でなく、組織が肥大化、複雑化する中で、マネジメントクラスになればなるほど内部調整に時間がかかってしまうという悪しき状態を招き、銀行全体として、企業との関係が希薄化するという事態に陥ってしまっています。また、バブル後の新規採用の縮小、ここ2,3年の大量採用といった歪な採用方針により、銀行内でのOJT(on the job training)が機能せず、その結果、銀行員としての基本動作、組織の考え方、業務ノウハウなどが不十分な銀行員が増えてきているのではないでしょうか。

 本来、銀行員は、人(経営者など)、物(本社や設備など)、金(財務状況、資金状況など)を見て、先輩たちのコミュニケーションノウハウや、企業を見る目を養っていきます。

 そして、企業の色々な情報を引き出しながら、何を企業が求めているのかを察知し、銀行として何を助言し、どういったソリューションを提供すべきなのか、ご提案をしていくのが役割であったはずです。しかしながら、本来銀行に求められてきた役割が果たしきれていないというのが現実です。特に、最近では、債権者という視点から、企業をどう評価するかということに力点がおかれてしまいっている気がいたします。格付というものが重要なキーワードとなって、企業評価をすべて画一的なモデルで数字化して判断し、機械的に企業を選別していくという考え方です。本来は、企業の潜在的能力など数値では捉えられことを、積極的に評価すべきだと思います。

 例えば経営者の事業への思い、経営理念、将来の夢、そして社員を含めた社の活気など、企業との血の通ったリレーションを構築する中から感じ取れるエレルギーというものをもっと評価するべきなんです。そして、足りないところがあれば指導、教育し、企業を育ててやるんだという気概、使命感をもって付き合っていくべきだと思うのですが、そうした人材がほとんど見られなくなったのは残念でなりません。本来は、企業は生き物であり、刻々と変化しています。過去の実績だけで企業を一方的に判断するべきではなくて、担当者が自分の目で見、自分の肌で感じ、そして、企業のポジティブな部分を積極的に捉えて、企業取引に生かしていくこと、これが本来あるべき姿ではないでしょうか。

 但し、こうした環境の中では、銀行の現状も理解し、その中で如何に銀行との信頼関係を構築していけるのか、その準備しておかなければなりません。まさに"この準備のためのアドバイス"こそがこのコラムの最大のテーマです。 経営者の方々は、銀行員が、いざという時には相談にのってくれるだろう、何らかのアドnバイスを与えてくれるだろう、といった受身な気持ちで構えていると大変なことになりますよ、ということを肝に銘じておいてください。 ただ、決してあきらめないでください。こういう実情を踏まえて、経営者としてどういう心構えが必要なのか、またどのように対応すれば意向に沿った借入ができるのか、といったノウハウを、これから10回にわたってポイントを整理しながらお話させていただきたいと思います。

 まずは、第2回以降で、金融危機はなぜ起きたのか、そしてその金融危機が銀行にどのような影響を与えたのか、更に銀行の企業格付の考え方をご理解いただこうと思います。後半では、そうした背景を踏まえて、どのように銀行との信頼関係の構築していくべきか、銀行に納得いただける事業計画をどうやって作っていくべきか、といった具体的なアドバイスを通じて、如何に借金力をつけていくのか結論に導いていきたいと思っています。

 是非、これからの銀行とのお付き合いの中で実践していただき、皆様の借入に際しての一助になればと願う次第です。

(2009/7/21 掲載)