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第1回 決算書と税務申告書の関係|銀行員が知っておきたい会計話

著者:公認会計士 井口 秀昭

決算書と税務申告書の関係・・・決算書の正確性は誰が担保しているのか

決算書は取引先と銀行の架け橋

融資を行う銀行員は決算書を見るのが商売です。決算書は会社の成績表です。銀行は成績表である決算書を見て、その会社の内容を見極め、融資の可否を判断します。決算書は重要です。決算書が取引先と銀行をつなぐ最も大切な架け橋なのですから。

決算書は自分で作成した成績表

先程決算書は会社の成績表だと述べました。しかし、決算書は学校の成績表とまったく同じではありません。決算書と学校の成績表の最も違う点はそれを作成する人間です。学校の成績表は第三者である先生が生徒を評価して作ります。一方、決算書を作るのは評価される会社すなわち会社の経営者が作ります。決算書は自分の成績表を自ら作るのです。ではそうして作成された決算書の正確性は誰が担保しているのでしょうか。ここから、決算書は二つに分かれます。一つは決算書の正確性を第三者の専門家である会計監査人が保証している主として公開会社において義務付けられる有価証券報告書であり、もう一つはそうした保証のない普通の決算書です。

会計監査人の保証のついた有価証券報告書も決して万全とはいえないことはいうまでもありません。エンロン等に見られるように有価証券報告書の不正な例は決して少なくありません。ただ、銀行員として専門家の保証のついた有価証券報告書をもらってそれに基づいて会社の判断をしたとき、もしそこに粉飾があったとしても、完全に免責はされないまでも、少なくとも責任転嫁は可能でしょう。

税務申告書が必須

しかし、非公開会社の提出する普通の決算書の正確性は第三者の誰も担保していません。決算書は会社自身が作成したものであり、その経営者がどんなに善良でも、それを全面的に信じることは危険です。「粉飾があるに違いないからそれを見破れ」といっているわけではありません。粉飾を外部の人間が見抜くのは簡単なことではありません。銀行員にそこまで期待するのは酷だと思います。ただ、銀行員はこの決算書をもらったときは有価証券報告書とは違い、相応の注意義務を要請されていると考えるべきです。決算書だけをもらい、それだけを見て融資を行い、粉飾であったことが明らかになったら、それは注意義務を十分果たしていないといわれてもやむをえないでしょう。

決算書の目的には二つあります。一つは経営成績の開示であり、もう一つは法人税法上の所得計算の基礎の作成です。経営成績の開示だけであるなら、経営者はできるだけ利益を多く出そうとするでしょう。しかし、決算書は必ず税務上の所得計算に結びつきます。所得計算を考えたら、利益は少ないに越したことはありません。この両者のバランスが決算書を正しく作らなければならないという経営者の誘引になります。その意味で非公開会社の決算書には必ず正規の税務申告書を添付する必要があります。そして、決算書と税務申告書の関連数値の整合性を確認しておかなければなりません。

決算書と税務申告書の関係

税務申告書はフルに添付してくれればそれに越したことはありませんが、それが無理なら最低限、別表四と別表一だけは提出してもらうべきです。別表四というのは税務上の所得を計算するものです。そして、その出発点は確定した決算書の利益にしなければならないと法定されています。
 決算書で計算した利益をベースにして、会計と税務の相違点を修正して税務上の所得を計算します。別表一では別表四で計算した所得に税率を掛けて納付すべき法人税額を計算します。そこで計算した法人税額が決算書における損益計算書の「法人税、住民税、事業税」と貸借対照表の「未払法人税等」に戻ってくるのです。決算書と税務申告書の別表四と別表一の関係を整理すると、次の図のようになります。

(1)決算書:損益計算書 利益計算
(2)申告書:別表四 (1)の利益をベースに税務上の所得を算出
(3)申告書:別表一 (2)の所得をベースに法人税額を算出
(4)決算書:損益計算書
  決算書:貸借対照表
(3)の法人税額をベースに「法人税、住民税、事業税」と「未払法人税等」を算出

申告書の別表一と決算書の関係は、決算書には法人税以外の税金が含まれていることや、会計処理の方法が会社によって違うことから、機械的にその関連性を確定することはできませんので、実際に決算書と申告書をもらった段階で各自検証してください。

いずれにしても、決算書と税務申告書が決算書の利益を出発点に申告書を通り、また決算書に戻るという構図をよく理解しておかなければなりません。その上で、両者の相互関連性を確認しておくことは銀行員の最低限の義務といえます。