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第8回 税効果会計 1 税効果会計の基本構造 | 銀行員が知っておきたい会計話

著者:公認会計士 井口 秀昭

これから、数回にわたって「税効果会計」を取り上げます。税効果会計では繰延税金資産という資産が計上され、そのことにより自己資本が簡単に増加します。銀行員の財務分析の中心は自己資本の確実性の判断にありますから、税効果会計は銀行員が財務諸表分析をする場合に必ず把握しておかなければならない会計知識です。今後非公開会社でも税効果会計を適用することが増えてくると思われますので、税効果会計の基本から理解してほしいと思います。今回は税効果会計の基本構造について説明します。

決算書の二つの役割

決算書には二つの役割があります。一つには言うまでもなく株主をはじめとしたステークホールダー(利害関係者)に企業の経営成績を開示するものです。決算書の経営成績を見て、株主は自らの配当を決め、債権者はこの会社と取引をするかどうかを決めます。そして、決算書のもう一つの役割に法人税額計算の基礎を提供するというものがあります。法人税額はその年の会社の利益(税務では所得といいます)に法人税率をかけて算出されます。ただ、このとき計算される税務上の所得は会計上の利益とは一致しません。その結果、会計上の利益と法人税額がアンバランスになってしまうため、両者の整合性をとるために導入されたのが税効果会計です。

会計上の利益と税務上の所得のアンバランス

会計上の利益と税務上の所得との関係は第1章第3項で説明しましたが、その関係を簡単に復習しておきます。【表1】は「利益と税金」の項で掲載した表です。この表にあるとおり、売上高から税引前利益までは会計的に計算しています。しかし、法人税等は税務計算によって算出しています。税務計算とは、税務上の所得を会計上の利益をベースにして、税務と会計との差異を調整して算出することをいいます。この算出された所得に基づいて計算された法人税額が再び決算書に戻って、法人税等として計上されることになります。つまり、法人税額の計算は会計計算とは違う方法によっていますから、税引前利益、法人税等、当期純利益の関係がアンバランスになるということを表しています。このため、税引前利益に比べて、法人税等が多すぎたり、少なすぎたりし、結果として当期純利益も不整合なものになってしまいます。税効果会計を適用する前は、こうしたアンバランスは致し方ないものとして、決算書は不整合のまま表示していました。

【表1】 会計上の利益と税務上の所得の関係

税効果会計の必要性

しかし、そのアンバランスをアンバランスのまま放置できなくなってきたのです。というのは、税金も他の費用と同様に収益に対応して、期間配分をすべきだという理論的理由のほかに、現実的に、銀行をはじめとした企業が税務上損金算入できない多額の不良債権の償却を迫られたこともその理由の一つです。たとえば、次の【表2】のように不良債権の償却、つまり貸倒引当金繰入を行ったとします。

【表2】 税効果会計を適用しない損益計算書(実効税率 40%とする)
経常利益 200  
特別利益 0  
特別損失(貸倒引当金繰入) △200 ・・・税務上損金不算入
税引前当期利益 0  
法人税等 △80 ・・・(0 + 200)× 40% = 80
当期純利益 △80  

この特別損失の貸倒引当金繰入は、会計上は費用ですが、税務上は損金算入できないものだとします。すると、会計的には費用ですから、税引前当期利益は0になります。一方、税務上の所得は貸倒引当金200が損金には算入されませんから、税引前当期利益0に200を加算した200が所得となります。そして、法人税等は200×40%=80になります。その結果、当期純利益は80の欠損となってしまうのです。これでは、不良債権の償却を行ったために、会計上の利益は減少するにもかかわらず、税金は減少しませんから、銀行側は不良債権の積極的償却をしようという気になりません。そこで、税効果会計の登場となるわけです。

税効果会計とは ~B/Sに繰延税金資産、P/Lに法人税等調整額を計上する~

この不良債権償却を具体例に税効果会計の仕組みを解説します。 税務では、不良債権の償却は法的整理等の外形的な基準に該当しない限り認められないのに対し、会計では実質的に回収不能と判断されれば、償却しなければなりません。この状況で不良債権を償却すれば、会計的には費用となるのに税務上は損金とならずに、【表2】のように、会計上の税引前利益は0なのに、納税額は80と多額になってしまいます。一方、その後この不良債権が完全に回収不能となれば、当然法人税法上も損金と認められますから、そのときに法人税額は 80減少します。しかし、財務諸表の利益計算ではこの不良債権は償却済みですから、費用にはなりません。したがって、納付する税額は会計上の利益対比少なくなります。つまり、不良債権償却が税務上認められれば、当然納税額も減少するのですが、会計的には税務に先立って費用認識をしているので、当期の納税額は税務では認められない不良債権償却分だけ先払いしたことになるのです。
それを調整するため、【表3】のように税効果会計を適用します。

【表3】 税効果会計を適用した損益計算書(実効税率 40%とする)
経常利益 200  
特別利益 0  
特別損失(貸倒引当金繰入) △200 ・・・税務上損金不算入
税引前当期利益 0  
法人税等(A) △80 ・・・(0 + 200)× 40% = 80
法人税等調整額(B) 80  
当期純利益 0  

【表3】では当期実際払うべき法人税額80は法人税等(A)として一旦計上します。しかし、この80は前述のように不良債権償却の先払いにかかる税額分ですから、それは法人税等調整額(B)として戻してやるのです。この法人税等調整額は損益計算書では利益になると同時に、貸借対照表では繰延税金資産として資産計上されます。
【表2】と【表3】を比較してみます。そうすると、税効果会計を適用すると、法人税等調整額分だけ当期純利益が増加していることが分かります。

【表4】では、税効果会計を適用した場合と適用しない場合の貸借対照表の比較をしています。税効果会計を適用すると、当期純利益の増加分だけ資本勘定が増加して、それと同額の繰延税金資産が増加します。

【表4】 貸借対照表の比較(該当する部分のみ抜粋)
(1)税効果会計を適用しない場合
(資産勘定) (負債勘定)
   
  (資本勘定)
  当期純利益△80
(2)税効果会計を適用する場合
(資産勘定) (負債勘定)
繰延税金資産 80  
  (資本勘定)
  当期純利益 0

このように、税効果会計を適用すると、資本も資産も増えて皆ハッピーとなってしまいます。しかし、そうは問屋がおろしません。問題は繰延税金資産の資産性(回収可能性)です。次回はその資産性について説明します。