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第6回 のれん 3 収益を生む"のれん"もある | 銀行員が知っておきたい会計話

著者:公認会計士 井口 秀昭

前回、連結財務諸表ではのれんは連結調整勘定という名目で計上されることを説明しました。今回はその連結調整勘定が、連結財務諸表にどのような影響を与えるかを説明します。

最近、M&Aは益々盛んになっています。M&Aの代表的手法に株式の買収がありますが、株式を買収するとほとんどの場合"のれん"が発生します。株式買収により、他の会社の支配権を入手すると、その会社を子会社として連結財務諸表に取り込まなければなりません。連結財務諸表ではのれんは連結調整勘定として計上されています。

のれんとは教科書的には「当該会社の財務諸表には表現されていない超過収益力」と定義されますが、別の表現をすると、親会社の株式買収価格と連結財務諸表に受け入れる子会社の純資産額(資本勘定)との差額ということになります。

ここで超過"収益力"と表現されているとおり、連結調整勘定は連結財務諸表において資産に計上されるのが普通です。連結調整勘定は償却しなければなりません。資産の償却は当然費用になりますから、連結調整勘定の償却は収益の圧迫要因となるのです。しかし、最近たまに見かけるのが、連結調整勘定が資産ではなく負債に計上され、その償却が収益を生むというケースです。今回は連結調整勘定が負債に計上される場合を取り上げ、その連結財務諸表に与える影響を説明します。

連結調整勘定とは

(設例)買収対象となる子会社のB/S
資産 300 負債 200
  資本 100

買収しようとする子会社のB/Sが上記のとおりだったとします。この子会社の株式100%を150で購入したとします。そうすると、親会社の個別貸借対照表の資産には子会社株式が150と計上されます。ここでこの親子会社の連結財務諸表を作成します。連結財務諸表では親子会社の資産・負債は合算した上で、親会社の子会社株式勘定と子会社の資本勘定を相殺消去します。親会社の子会社株式勘定は150で子会社の資本勘定は100ですから、この両者を相殺消去すると、資産が50残ってしまいます。これが資産に計上される連結調整勘定になります。

つまり、資産に計上される連結調整勘定とは子会社の資本勘定より高い金額で子会社株式を購入したために発生する勘定だということになります。この連結調整勘定は20年以内で償却しなければなりません。固定資産の減価償却と同様に資産にある連結調整勘定を償却すれば、損益計算書で費用が増加しますから、損益を悪化させることになります。

では、同じこの子会社の全株式を60で購入したとすればどうなるでしょう。この場合親会社の子会社株式勘定は60 ということになります。そして連結財務諸表作成のために、親会社の子会社株式勘定と子会社の資本勘定の相殺消去の処理を行います。今度は先程とは逆に資産が資本より40少なくなりますから、連結調整勘定は負債に計上されることになります。負債に計上された連結調整勘定を償却すると、損益計算書では利益が計上されることになるのです。

株式取得価格の決め方

上記の説明でも分かるとおり、連結調整勘定が資産になるか、負債になるかは親会社の株式取得価格が子会社の純資産(資本勘定)に比べて高いのか低いのかによります。したがって、株式の売買価格がどのように決まるのかが問題になるわけです。

株式の売買価格の決定方法には定められた公式があるわけではありません。売り手と買い手双方が納得すれば、その価格で売買は成立します。買収しようとする会社が上場していれば、その株価が基準となるのが普通です。

非公開の会社であれば、企業価値を計算し、そこから株式価値を求めなければなりません。企業価値はその会社の純資産を基準とする考え方もありますが、会社の純資産というのはあくまで、その会社の過去の蓄積に過ぎません。会社の買収は将来その会社を稼動させて収益を得ることを目的としているのですから、この場合の企業価値というのは将来キャッシュフローの現在価値(ディスカウンテッドキャッシュフロー)で計算するのが理論的だといえます。

公開会社であれ、非公開会社であれ、取得する株式価格は必ずしもその会社の純資産(1株当たり純資産)と一致するわけではありません。会社の将来の収益力を評価すれば、純資産より高い価格がつきますが、収益力が低ければ逆に低くなります。それがその会社のその時点における正当な価格です。しかし、会計上は子会社の純資産を購入するという形で連結財務諸表を作成しますので、取得価格が純資産より高ければ、その差額が連結調整勘定として将来の損失になりますし、取得価格が純資産より低ければ、将来の利益になることになります。

連結財務諸表を見るときは、この連結調整勘定がどのように財務諸表に載っているか注目しておかなければなりません。まず、貸借対照表で連結調整勘定の存在を確認します。連結調整勘定が大きくあれば、その会社は会社の買収を積極的にやっていると推察されます。次に連結調整勘定が資産にあるか、負債にあるかを確認します。連結調整勘定は今の会計基準では損益計算書において必ず償却しなければなりません。連結調整勘定が資産にあれば、連結調整勘定償却は費用として損益計算書の収益を圧迫することになりますし、逆に負債にあれば、利益として収益を押し上げることになります。また、連結調整勘定の償却期間も確認しておく必要があります。連結調整勘定は資産に発生するケースが多いですから、償却期間が長いと、収益の引き下げ要因を長く抱えることになりますから、償却期間は短いほど健全だといえます。

このように連結財務諸表を連結調整勘定という切り口で分析することは、会社の実態把握に役立ちますから、そうした側面から再度、連結財務諸表を検証してみてください。