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第2回 これからの金融機関に求められる人材|澁谷耕一's EYE

著者:リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役 澁谷 耕一

金融機関の「ソリューション型営業」「提案型営業」を担う人材とは

最近の法人営業は、単に借入をお願いしたり金融商品を売るだけではなく、顧客企業の経営者が抱える課題や問題を発見して解決策を提供する「ソリューション型営業」や、経営者が気付いていないような潜在ニーズを掘り起こし、そのニーズを満たそうという「提案型営業」を標榜する金融機関が多くなりました。

そもそも資金(融資)や金融商品をセールスする「従来型営業」と、この「ソリューション型営業」「提案型営業」は全く異なるものです。その大きな違いは、「従来型営業」については商品やサービスの内容・価格などを顧客に正しく説明することを重視すればよいのに対し、「ソリューション型営業」「提案型営業」では顧客企業の経営者とのコミュニケーションを通じて得られる、企業の課題や問題、そして潜在ニーズを察知する高度なコミュニケーション能力が要求されるということです。

これからの金融機関の法人営業における「ソリューション型営業」「提案型営業」において求められる人材像とはどのようなものでしょうか。私は以下の三つの要素を兼ね備えた人材だと考えます。

【1】コミュニケーションの前提となる「事業経営や経営者に対する関心」を持つ人材

企業の課題・問題、そして潜在ニーズを察知するには、企業経営者との優れたコミュニケーション能 力が必要になります。コミュニケーションは相手に対する関心や好奇心が無ければ成り立ちません。相手に関心や好奇心があるからこそ、熱心に質問したり、洞察力を働かせながら相手の話を真剣に聞く姿勢が生まれます。経営者とのコミュニケーションにおいては、「事業経営や経営者に対する関心」が不可欠です。この関心が無ければ、経営者に的確な質問もできないでしょうし、経営者の気持ちも理解できないでしょう。

【2】経営者の信頼を勝ち得ることのできる「人間性」を備えた人材

企業の課題や問題は企業の弱みに他なりません。優れた「人間性」を持ち、親身になって相談に乗ってくれる相手にしか、経営者は本音や悩み、そして将来の夢などは話しません。一方、尊敬し信頼できる相手との間にはパートナーとしての深い人間的なつながりが生まれ、率直な忠告をしても経営者は受け入れてくれます。常に、経営者が関心を持っている幅広い分野の勉強をし、人格を高める努力を続けることが大切です。

【3】ソリューション提供や提案を行うことのできる「強みと専門性」を持つ人材

優れたコミュニケーション能力と人間性を備えた人材であっても強みや専門性がなければ、ソリューションの提供も提案もできません。ますます複雑化、グローバル化する経営環境では、企業の課題も多岐にわたります。その企業毎に異なる課 題やニーズを十分に理解し、強みと専門性を発揮してソリューション提供や提案を行っていかなければいけません。金融機関ですから、ファイナンスにおいて「強み」を持っていることは当然ですが、業界に関する知識、M&Aや事業承継などの投資銀行業務、運用業務など、求められる「専門性」は幅広く、どんどん高度化しています。金融機関としては、専門性を持った人材を中途採用することも必要になってきていますが、担当者一人ひとりが自分自身の専門性を高めるべく自己研鑽に努めたいものです。

「経営者の視点」を持つ人材の育成が大切

金融機関の法人営業は、かなりの規模の大企業でない限り、最終的には企業経営者を取引の相手方としています。一方、経営者と最も心が通いあうのは、「経営的関心を持ち、経営者のような視点で行動することのできる」人ですから、金融機関の営業担当者にまず求められていることは、勉強や仕事上での経験と実践を通じ、あたかも一つの企業の経営者であるかのような感性と考え方、すなわち「経営者の視点」を持つことだと思います。

そのような「経営者の視点」を養成するためには、普段の営業業務を行うなかで、経営者に接し、一緒に話し合うことが最も効果的なのです。まずは、企業経営者の話をじっくり聞き、ある事業・業界について詳しく勉強してみることが大切です。上場会社のIR説明会に出席して、実際に行われているマーケット開拓の戦略や戦術を勉強するのも有効かもしれません。また、最近は若手の経営者も多いので、若手経営者の会等に自ら積極的に参加するのも勉強になるのではないでしょうか。

これからの企業や金融機関の成長は、「経営的関心」と「経営者の視点」を持った社員がどれだけいるかという点にかかっていると言っても過言ではありません。指示されて行動するだけでなく、「経営者の視点」で自ら考え行動することのできる、創造力のある社員が多く集まっている金融機関は強いと言えるのではないでしょうか。

(2006/06/09 掲載)