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第7回 定量分析の三種のツール -その3-

財務分析に関する基本的な考え方、収益力及び生産性の分析評価法、その活用度が近年増しているキャッシュフローの見方について、基礎的な理解の一助とする説明をこれ迄進めてきた。前号のキャッシュフロー分析(資金移動表)の項目にて、基本的な財務分析手法の概要説明はほぼ終了したと云える。本号では、資金運用表と云うキャッシュフロー分析法を追加説明し、資金繰り分析の幅を広げることとしたい。

前章にて説明した「資金移動表」では、企業が事業期間を経過する中で発生するキャッシュの流れを、(1)営業C/F(損益と運転)(2)投資C/F(事業投資等)(3)財務C/F(株式、借入れに依る資金の増減)の区分で把握し、何処でキャッシュを生み出して何処で必要としているのかと云った規則性や跛行性が企業の事業力と経営力を示し、銀行借入を中心とした資金調達の可否が信用力を表す旨、説明を行った。しかしながら、資金移動表では資金の過不足額やその調達額の一覧性が認め得るものの、B/S的な意味での調達資金の属性(返済義務の有無、期限の利益の長さ等)、資金の調達と運用のマッチング状況についての一覧性は乏しいと考えられる。これを補う方策が「資金運用表」である。

【資金運用法の意味するところ】

【ケース1】

【ケース2】

一般的に、企業の資金調達と運用は左記の図に示されるような流れとなる。資金運用とは事業に投入される資金がどのように調達されるのかを確認する考え方である。資金の調達と運用の流れではケース1の長期調達・短期運用の方が財務安定性で優るのは云うまでもない。換言すれば、流動比率(流動資産÷流動負債)が100%

以上であることが望ましいとされる理由は二つの図に明確に表れている。次に具体的な資金運用表の構成について述べてみたい。一般の資金運用表は下記のような流れで示される。

(1) 長期の資金調達
自己資金(純利益+減価償却+引当金等)
株式発行
長期借入金・他長期債務
(2) 長期の資金運用
事業への投融資(固定資産、関連会社株式等)
決算資金(法人税等)
(3) 長期資金の過不足〔(1)-(2)〕
(4) 短期の資金調達
買入債務等の増加・減少
短期借入金
(5) 短期の資金運用
現預金
売掛金等の増加・減少
棚卸資産の増加・減少
(6) 短期資金の過不足〔(4)-(5)〕

当然ながら、(3)と(6)とは収支がバランスする訳であるが、既に述べた調達・運用の巧拙の上では(3)のプラスが是であり、事象としては長期運用(資金回収が長期に亘る投資)は長期性の資金で賄われていることを示している。尚、資金運用表に於いても財務諸表を読む三原則は必須であり、1期のみの長期資金の不足を以って財務安定性を疑うべきではない。その意味ではより長期(2~3期の流れ全体)を掴むことも有効、且つ必要と云える。より詳細に考えると、長期間に亘る回収を要す資産(本社取得、関連会社株式への投資等)は自己資金や増資の返済義務のない資金で賄われるべきである一方、売掛金、在庫と買入債務のずれである運転資金は短期の資金で賄うことも可(無論、長期性資金での調達がコスト的に負担し得るのであれば、なお可)と云うように個別の調達と運用のマッチングを確認することが資金運用表を読むことになる。

【資金移動表と資金運用表との併用】

最後に資金移動表と運用表の使い分けは如何に考えるべきかについて簡単に付言する。一般に双方の概念は共に全ての企業に有効であるが、敢えて使い分けをすれば、流動と固定の別なく大規模な資金を資産に投入する事業(商社、金融、ディベロッパー、化学等の装置産業)では資金運用の巧拙確認が一層重要な分析と云える。