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第3回 株式会社と有限会社|中国ビジネス講座

著者:筧 武雄

経営期限の問題

上記のとおり、外国企業が中国に設立する有限会社は、中国地元で一般的な株式会社、集団企業、私営企業等とはかなり異なった取り扱いとなっている。 その代表格が「経営期限」の存在である。

【1】 経営期限はどのように決められるか

合弁形態の場合は、2000年改正の中外合資経営企業法実施条例第89条で「経営期限については中外合資経営企業経営期限暫定規定(1990年10月22日施行)にしたがい執行される」と定められている。当該暫定規定では、合弁契約において経営期間を明確に定めるべき合弁企業の業種として、サービス業、土地開発・不動産業、資源調査開発事業、国家が定める制限投資プロジェクトなどが列挙されているが、具体的な年限数の規定はない。その一方で、経営期間を明確に規定しないケースにおいては、必ず個別に当局から認可を取得する義務があると定めている。その補足規定として後に出された「中外合資経営企業経営期限暫定規定の実施に関連する問題の通知」(1991年6月24日施行)第2条では「当該規定にしたがい経営期間を合弁契約において定めるプロジェクトについて、その期限はプロジェクトの業種、投資額、投資リスク及び投資回収時期の長短に基づき確定するものとし、一般的には30年を超えてはならない。国家が奨励および許可する投資プロジェクトのうち、その契約において経営期間を定めるものは、適宜緩和することができるが、一般的には50年を超えない」と定められている。その後WTO加盟と合弁法改正により、明確な経営年限規定は本文から削除されたが、現実にはこの通達が現在でも適用されている。

これに加えて、独資企業の場合は2001年改正外資企業法実施細則第40条に「外資企業の土地使用年限は、批准された当該外資企業の経営期間と同一とする」という規定があり、工業用地の使用年限は法律で最高50年までとされている。

【2】 期限到来時の対応


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外商投資企業の経営期限は、写真例のように営業許可証上(左下部)に年月日が明記されている。 外国企業が中国に進出を開始した1980年代後半には、まだ独資形態が認められておらず、土地使用権の払い下げも未実施だった。そのような進出環境下で当時は経営期限を20年程度に設定するのが一般的であったため、今年あたりから経営期限の到来が80年代に進出した企業のあいだで続々と始まっている。90年代に進出した企業の期限到来については2040年頃がピークになるものと予想される。では、現実に経営期限が到来した場合、外商投資企業はいったいどうなってしまうのだろうか?

合弁法第13条は以下のように定めている。

「合弁期間を定めた合弁企業は、合弁各方が合弁期間延長に合意したときには、経営期間満了6ヶ月前までに審査認可機関に延長申請を出すものとする。審査認可機関は申請を受け取った日から1ヶ月以内に認可又は不認可を決定する」すなわち、経営期限から半年以上前までに合弁会社の董事会で全員一致で期限延長の決議をあげ、同時に管理当局に期限延長を申請して認可を得る必要がある。したがって、半年前までに延長の合意が得られない場合や、期限延長の申請を失念してしまった場合などは、経営期限到来とともに合弁会社は法律にしたがって強制的に解散となり、財産を清算しなければならなくなる。

「合弁企業が解散を宣告する場合は、清算を行わなければならない。合弁企業は、外商投資企業の清算弁法の規定に基づき清算委員会を設立し、清算委員会が清算に関する事柄に責任を負わなければならない」(合弁法実施細則第91条)。

独資企業の場合にも、ほぼ同様の規定があり、外資企業法実施細則第73条では「外資企業は経営期限満了にともない終了する場合、終了日から15日以内に対外的に公告するとともに債権者に通知し、終了公告通知日から15日以内に清算手続き原則、清算委員会の人選を審査批准機関に提出し許可を受けた後、清算する」とさだめられている。

【3】 土地建物はどうなるのか

経営期限が到来した際、使用してきた土地の使用権も会社解散、事業終了に伴い消滅することになる。土地基本法である「国有地使用権払い下げおよび譲渡に関する暫定規定」(1990年5月公布・施行)第40条によれば、「土地使用期間が満了したときは、土地使用権および地上建築物その他の定着物の所有権は国が無償で取得する。土地使用者は土地使用権証を返納し、かつ規定にしたがって抹消登記手続きをとらなければならない」と定められている。同時に同法第41条で土地使用者は土地使用期間延長を申請することができるとも定められているが、その場合は「あらためて土地使用契約を締結し、払い下げ代金を支払い、かつ登記手続きをとりなおす」こととされている。土地の再使用については、事前の政府許可取得が前提であるため、開発事業などのために再使用許可が得られない場合に、会社は継続しても移転せざるを得なくなる事態もありえる。その場合でも、上記条文にしたがえば、従来使用してきた「地上建築物その他の定着物の所有権は国が無償で取得する」ことにかわりはない。払い下げ国有地でない農村集団所有地の工業転用地に立地している場合は、期限前でも常に無償収容のリスクにさらされている。

【4】 従業員はどうなるのか

中国の労働法、外商投資企業労働管理規定には経営期限到来に伴う従業員の解雇に関する明確な規定は無い。まず労働法の条文に照らしてみると、経営期間満了は生産経営状況に重大な困難が生じた場合の「整理解雇」には該当しない。経営期限の存在は会社設立頭初からわかっていることであり、労働契約締結の際に根拠とした客観的状況に重大な変化が生じた場合の「予告解雇」要件ともみなし難い。もっとも近いと思われるのは、労働法第23条に定められる「労働契約の終了」ではないかと類推される。その場合、労働法上では従業員に対する経済的補償の支払は義務付けられていない。

つぎに外国投資企業労働管理規定第12条には、労働組合の意見を求めたうえ、30日前に本人に書面通知して会社都合で予告解雇できる要件のひとつとして「④法律・行政法規の規定するその他の状況が生じたとき」とあるが、会社設立の当初から明確な経営期限到来がその趣旨に該当するものかどうかは明確でない。

これらに対して、地方都市条例レベルの労働管理規定のなかには会社の解散、経営期限到来が明記されている例がある。「使用者が破産、解散、または経営権が取り消された場合、労働契約は終了する」(上海市労働契約条例第37条3項)、「企業が法にもとづき終了したとき、企業は労働契約を解除することができる」(青島市外国投資企業労働管理規定第23条7項)など。これらの場合は法定の退職金支給が義務付けられている。このように、中国の労働法令にも整合性は無いが、自分の立地する都市条例ベースのものだけは詳細に調査しておく必要があろう。

「解雇」か「終了」か、経済補償の規定はあるか、といった実務上のトラブルを避けるために、あらかじめ労働契約上に労働契約「終了」の要件のひとつとして、会社の経営期限到来をあげ、契約時に合意しておく必要がある。社内にも営業許可証を掲示し、経営期限年月日の存在を平素から従業員に周知徹底しておくことが必要である。就業規則、給与規定にも経営期限到来時のとりきめを盛り込んでおいたほうが良い。10年以上継続勤務し、無期限の労働契約を結んでいる従業員の場合についても、当然に無期限とはなり得ないわけで、個別の契約上に経営期限を明記して本人の承諾署名を受けておく必要がある。

【5】 課題

中国に法人を設立すること自体は比較的容易である。しかし、このように経営期限が存在する限り、いつかは解散の日が必ずやってくる。そのときになって、平素の合弁経営がきちんとできていなければ、いざ延長の合意が得られず、不本意な解散に追い込まれるリスクがある。それだけではない。平素から経理帳簿がきちんと整理されていなければ、いざ清算業務をスムースに進めることすら難しくなる。従業員に対する対応がきちんとできていなければ、予期しない大きな労働争議に発展するかもしれない。さらに最悪の場合、法律にしたがって使用してきた土地だけでなく、建物設備まで無償で手放さざるを得ない結果にも終わりかねない。

このような経営期限の到来は会社設立の頭初から明確にわかっていることであり、本来「リスク」と呼ぶべきようなものではない。しかし、安易な気持ちで何も調査せず、何も考えず準備もしない進出企業にとっては、必ず訪れる最大の衝撃的リスクと呼んで良いものかもしれない。

展望

冒頭にも解説したとおり、株式会社形態の場合は、そもそも経営期限なる概念が存在しない。そのほかにも議決方法、議決権など、このような有限会社と株式会社の法的性格の相違から、より日本の企業経営制度に近い株式会社形態へとあえて株式会社(股分有限公司)形態を戦略的に選択する外資企業が今後は増えていくのではないかと思われる。同時に、時間が経過し中国の資本市場が今後発展していけば、中国現地での直接資金調達を求めて、日系進出企業の法人形態転換(株式会社成り)も進んでいくのではないだろうか。