第10回 中国商人との付き合い方
中国社会における「面子」の大切さを知る
人間関係が大きな意味を持つ中国社会では、様々な人間関係トラブルもまた日常的に発生する。そこでわれわれの眼には解決困難に見える混沌とした複雑な状況を、一言で仕切る伝統的なキーワードが「留面子」(liu mianzi)という言葉である。 中国社会のトラブルの多くは「面子」に原因を発している。「面子」を日本語に訳せば、その人の「立場、信用、自尊心、プライド(honour)」のことである。「留面子」という中国語の意味することは、相手をいくら激しく攻撃あるいは反撃しても、相手の面子だけは尊重して、最後までつぶさずに留める(残す)ことをいう。
中国社会においては、このように「面子」の大切さをよく理解しておくことが大切で、「面子を重んじ、面子を立てること(留面子)」を最優先すればたいていの問題やトラブルは解決することを知ることである。たとえば、数分前まで棍棒を握り締め口から泡を飛ばして路上で大声で喧嘩を始め、引っ込みのつかなくなっている中国人どうしに、通りすがりの通行人が「そんなことをしていたらあなたたちの面子は丸つぶれですよ」と一言仲介するだけで、何事もなかったように急に真顔になって別れる不思議さがここにある。また、商取引においても、信頼関係にある相手の面子を尊重して、ある程度の取引上のロスは黙認する商習慣もある。
言い換えれば、どんなに激しい議論をしても、相手に恥をかかせたり、人格や誇りまでを傷つける言動はタブーであり、交渉の場では決して相手を最後まで追い詰めることをせず、逃げ道を残しておく配慮が必要と言える。
「道理」を語る能力を持つ
誇り高い中国商人たちは職場の中でも外でも話し好き、大変な理屈好きで交渉や議論が大好きである。たとえ規則違反を注意される場面でも、自分の誤りは最後まで認めようとせず、様々な「屁理屈」まで動員して徹底的に自分を正当化しようとする。
ここで、中国語には「有道理(youdaoli)」という、頻繁に使用されるもうひとつのキーワードがある。「道理」とは真理のことであり、日本語で言う「ことわり」である。中国社会では、現代日本のような「まず法律ルールありき」ではなく、「まず事実は何か」を認識することから始まる。つぎに、その事実に対してどう対処するか。その基本原則を「道理」と呼ぶといってよいだろう。万人を説得し得る論理であれば、「道理がある(有道理)」と言われ、道理が通れば、中国人の少なくとも大人(daren)は道理の前に面子をおろす。これが道理と面子の基本的な関係であり、これは立法と取締り、処罰という法治関係を超越したレベルに位置する。このように国の法律よりも面子と道理のほうが優先する、中国はいわば一種の道徳社会と言ってよいかもしれない。事実、中国では、多くの弁護士、検察官、判事が法律とともに必ず道理を語る。
中国人社員を管理し、指導する経営者としての立場にたつ場合は、どのような場面でも相手の面子を重んじ、同時に自分の道理を明確に語ることのできる能力が不可欠の資質として求められる。日本人によくありがちな「沈黙は金」、「不言実行」、「面子にこだわらず実質をとる」という姿勢は、中国社会では、「自分の非をすぐに認める理解しがたい人」、「会話したがらない面白みのない人物」という風によく誤解されがちである。
日中の習慣の違いから、中国人の徹底した議論に日本人はややもすると辟易してしまいがちだが、よく耳を傾けて彼らの語る「道理」を聴いていれば、その実は、議論を通じて真の忠誠や友情を説き、信頼を求めていることにも気づくはずである。このような彼らの問いかけに対して、こちらもきちんと受けとめてやらないと、「あなたには情も理も無い」ということになってしまう。また、たとえ相手が間違っていたとしても、その場で何の反論も説得もせず黙って無視する態度をとれば、内容はどうであれ、結果としては相手の側に理があるという結論になってしまうので注意したい。



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