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平塚信用金庫 石崎 明 理事長 インタビュー

「まごころ&スピード宣言」を実践する平塚信用金庫

聞き手:リッキービジネスソリューション(株) 代表取締役 澁谷 耕一


▲ 平塚信用金庫 石崎 明 理事長

<澁谷>

平塚信用金庫の沿革、強みについてお聞かせください。また、営業エリアの特色についてもお聞かせください。
(石崎理事長)
当金庫の歴史は、昭和7年という不景気の最中、中小商工業者の金融円滑化を図るべく、産業組合法による信用組合設立の機運が高まり、当時の市議会議員が中心となって設立された『有限会社平塚商工信用組合』に遡ります。
営業エリアは、平塚市を中心として、県央地区にまたがり28店舗を展開しています。
平成2年には、三浦信用金庫(現三浦藤沢信用金庫)、小田原信用金庫(現さがみ信用金庫)と業務提携を締結し、TRIbank(トライバンク)と銘打って、イメージアップを図るほか、相互交流を深め、専門部会を設置し、各本部部門にて定例的な勉強会を開催したり、人事交流などを行ってきています。
当金庫の強みは、健全経営を第一義とした『信頼される信用金庫』、地域密着の営業展開による『地元になくてはならない信用金庫』、人材育成に努め『魅力ある信用金庫』を経営理念に掲げ、信用金庫法に基づく組織変更後58期連続黒字を達成した、安定的経営基盤であります。
エリアの特色としては、戦時中の軍需工場跡地を利用した積極的な企業誘致から、自動車産業をはじめとする製造業中心の工業地帯を形成してきており、県内でも有数の活力のあるエリアです。

<澁谷>

平成21年3月に迎えられた「中期3ヵ年計画TRIbank ひらつか Solution Project」に対する成果についてお聞かせください。
(石崎理事長)
中期3ヵ年計画においては、『信頼される信用金庫』、『地元になくてはならない信用金庫』、『魅力ある信用金庫』を実現するために、地域のお客様に対して、まごころを持って素早く確実に対応するとともに(「まごころ&スピード宣言。」)、金融に関する良き相談相手となること(課題解決型金融)により経営力の強化を図っていくことを目標としてきました。 これをもとに、各部が施策を出し、経営資源の「集中と選択」を進める中で、営業店後方事務の本部集中やエリア営業体制を導入することにより、事務ミスの削減や営業力の強化を図ってまいりました。また、顧客満足度向上の一環として、「4時まで営業」を平成19年よりスタートし、実施店を全店の半数にあたる15店舗まで拡大してきています。

<澁谷>

今年度スタートとなる新中期経営計画における重要課題などについてお聞かせください。
(石崎理事長)
平成24年に当金庫は80周年を迎えますが、80周年は一つの節目でもあり、お客様に還元できるような何かを行いたいと考えています。 ここでスタートした「中期3ヵ年経営計画 Innovation Project」は、80周年への道筋であり、平成24年にスタートする新たな経営計画の基礎となるものであります。 そこで、次の3つの重要課題を掲げ、強力に推進していきたいと考えています。

1、 選択と集中に基づく経営効率の向上による収益力の強化 少子高齢化に代表される社会・経済等の外部環境の変化及び、団塊世代の大量退職により当金庫最大の経営資源である「人材」が漸減すること等の内部環境の変化に対応するために、「選択と集中」に基づく有限な経営資源の適切な配分を行うことにより収益拡大を図ってまいります。

2、 課題解決力の向上 継続的なコミュニケーションによって、顧客の顕在化したニーズにとどまらず潜在的ニーズに深く踏み込み、中小企業のライフサイクルや個人のライフプランを踏まえた課題解決に向けた、付加価値の高い金融サービス(課題解決型金融)を提供していきます。 この取組を通じて、顧客満足度向上による競合金融機関との差別化を図るとともに、既存顧客との取引深耕によるコア顧客化を進め、当金庫の顧客基盤を確固たるものにしていく所存です。

3、 経営管理体制の更なる高度化 リスクを的確に把握して、収益に対して適切なリスクコントロールを行う体制の確立を図ります。また、ガバナンスコンプライアンス体制強化により内部管理体制の充実を図ってまいります。

<澁谷>

2008年6月に理事長に就任されましたが、今後注力されたいことについてお聞かせください。
(石崎理事長)
まず、今年の年初に、本部の部課長、支店長という所謂管理職のメンバーを集め、管理者としての心構えについて、3点話をいたしました。
まず、この経済環境の中で、お客様は厳しい状況に置かれている訳ですので、当金庫の都合で金融商品を売ってはならない、ということです。
お客様の悩みや課題が何なのか、しっかりと見極めた上で、お客様に則した提案をしていってほしい。そうすることによって、お客様からもご理解をいただければ、他の金融機関との金利競争に陥ることなく、お客様との強いリレーションが築けるはずです。
それから、管理者として、人の管理というのは、部下に指示をする、或いは部下を評価することが管理者としての仕事ではなく、部下が困難な局面に対峙しているような場合には、自ら行動することで、部下に模範を示し、身をもって部下を教育することだと思います。そうすることで、上司、部下の繋がりが強固なものとなり、信頼関係が構築されるのではないでしょうか。 例えば、金利交渉をお客様としなければならない時、若手職員にとっては、非常に重い仕事になるわけです。そうした時、支店長が同行して、自ら交渉の場に出て行くことが大事なんです。そうして支店長が方向性を示し、見本を示すことで、メンバー全員がベクトルを同じ方向に向かわせることになり、大きな力を発揮できることになるんだと思います。一人二人の優秀な人材がいたとしても、ベクトルの向きがバラバラであれば、そうした力は半減されてしまいます。
最後に、正義を貫いてほしいということです。例えば、支店には、ローカルルールのようなもの、昔ながらの慣習的な取扱のようなものが存在するケースがありますが、それが、金庫としての統一したルールに合致しない場合には、身を呈して即刻正してもらいたい。そうすることによって、金庫全体が強力な力を発揮できるわけです。 正義を貫くことによって、お客様との繋がり、金庫内での繋がりが強固なものとなり、ひいては、金庫自体を強くすることになる訳です。

<澁谷>

また、お客様志向としながらも、収益目標が与えられると、どうしても目先の収益を追い求めてしまうという結果になってしまうと思うのですが。
(石崎理事長)
確かにその通りです。ただ、信用金庫は、町医者とも言われますが、医師は、問診をして、処方をして、患者の体を治すわけです。つまり、こちらの都合だけで商売をした場合、一時的には成果を出せたとしても、次に繋げることはできません。やはり、長期的な視点に立った関係構築が不可欠だと思っています。

<澁谷>

また、企業のお客様は常に悩みを抱え、課題のない会社はないと思いますが、なかなか経営者の方々はフランクに金融機関に、彼らの抱えている課題や、悩みを打ち明けられないと思うのですが。
(石崎理事長)
おっしゃるとおりですね。やはりお客様との結びつきがないと、一歩踏み込んだ話はできません。特にこういう環境下においては、手の内を明かしていただかないと、経営支援を行うに際しても、的確なアドバイスはできないと思います。緊急保証制度や条件変更に対する緩和措置も施されており、これらを有効に活用する必要があります。今は、お客様が我慢していくお手伝いをさせていただき、この嵐が過ぎ去ったあとで、本来の力を発揮してもらえばいいんです。支援についても、新たな資金注入だけでなく、キャッシュフローにあった期限の利益を供与するなど、的確な対応をしていくべき局面だと強く感じています。 そうすることで、お客様に"平塚信金に相談してよかった"とご認識いただけることが重要なのではないでしょうか。

<澁谷>

法人営業戦略、個人営業戦略についてお聞かせください。また、今回4期目を迎えられる「平塚信用金庫 経営塾」についてお聞かせください。
(石崎理事長)
法人営業については37名、個人営業については42名の担当者を顧客別、重層的に配置し、地域のお客様と継続的なコミュニケーションを行うことで、お客様にとっての金融に関する良き相談相手となり、顕在・潜在的ニーズや課題等に深く踏み込んだ提案、サービスを行い、課題解決を実現していきます。また、高度な提案だけでなく、「気付き」を重視していきたいと考えています。
この取組を通じて、コアとなる既存のお客様との取引を深耕し、当金庫に対するロイヤルティを高め、常に地域のお客様から選択される金融機関となることを目指すとともに、安定した収益基盤の確保、金利競争からの脱却等を図り、収益力を強化していきます。 また、新たな顧客管理指標として、ストックとフローの2軸から、維持先(コア顧客)、守勢先(守りながら攻める先)、推進先(成長見込み先)、厳選先(取引厳選先)に分類し、テラー、預金後方、融資係、コールセンター等を活用した管理を徹底していきます。 これにより、地域内の全顧客の管理体制を確立し、21世紀のビジネスモデルを構築したいと考えております。
更に、この管理基準によりセグメントが明確化された顧客に対する機能強化策(顧客対応力、営業力、人材育成力)として、エリア営業体制を導入し、攻めの営業を明確に推し進めていくつもりです。 これにより、複数店舗の営業係を集約化、人材の適正配置を実施し、役席を減らして営業マンを増員できたほか、競争意識の醸成、教育指導の機会増加が期待できるものと思っています。
一方、店舗においては、個人のお客様によっては、ニーズがまちまちであることから、それぞれのお客様に適切な対応を図るべく、コンシェルジュを配置いたしました。 現在は、まだ4店舗に留まっていますが、評判は上々であり、最も不満の多かった待ち時間、店頭対応について、徐々に改善が図られるものと期待しております。
また、課題解決力を高めるために、昇格要件としてFP3級の資格取得を設け、人材育成にも努めています。
『経営塾』は、中小零細事業者の後継者、後継者候補者及び幹部社員を対象に毎月1回行っているセミナーです。中小零細企業の場合、後継者が決まっている企業は全体の約40%と言われています。つまり、後継者養成は大きな課題の一つであることから、あらゆる経営の視点からテーマを選び、財務面のみならず、人事労務管理、情報管理、行動管理等についての勉強会を行っています。 毎年、40-50名に参加いただいており、年を跨いでの継続受講も可能としています。今年度からは、企業視察も組み込んで、より参加者の方々にとって充実した内容にしていきたいと考えています。

<澁谷>

信用金庫の強みならびに信用金庫に最も期待されていることは、どのようなこととお考えでしょうか。

<石崎理事長>

信用金庫というのは、利益追求が目的ではなく、協同組織であるという強みがあると思います。もちろん、適正利益を確保しなければ、次の良質なサービスの提供ができないわけですから、これは基本として、地域と金庫の内部留保と職員とが、バランス良くステップアップする形を作っていきたいと思っています。
中期経営計画では、3年後に純利益10億円、自己資本比率10%、一人当たりのコア純益5百万円を目標としておりますが、これが到達できれば、本業の中で経費をまかなうことができるわけです。
つまり、市場環境に影響されない筋肉質な経営を目指していこうということです。 但し、お客様に無理強いをするのではなく、支持をいただきながら、適正利益を確保し、継続的、確実に基盤の拡大を図っていくことが肝心であり、店では、一人一人が、自分の置かれた立場の中で、与えられた役割を確実にこなしていくことであり、そうした積み上げが、チーム力となり、最終的に目指すところに到達できるものと考えています。 ところで、昨日ある支店を訪問しましたが、パートの方が一度自宅に帰ってから、理事長の話を伺いたいといって、戻ってきてくれたんですね。これは非常に感激しました。
支店長による雰囲気作りにもよるのでしょうが、そうした意識を持ったパートの方がいていただけると、非常に心強い限りです。 こうした、地域に密着した人たちの支えがあるというのが、まさに信用金庫の強みと言えるのではないでしょうか。
また、当金庫の場合、平塚市という人口26万人の中堅都市に本店を抱えていますが、この規模ゆえに、行政、商工会議所からも頼りにされており、我々が活躍できる場として、町のスケールが非常に手頃な規模なんですね。
地域貢献という観点からも、定額給付金に関して協力を要請され、プレミアム商品券販売の取次や資金交付の事業についても地域にお役に立てればとお引受した次第です。つまり、常に地域の期待に応えられる信用金庫でありたいと思っており、地域と平仄をあわせて何を選択していくのかを考えていくことが、我々信用金庫の生きていくべき道ではないかと思っています。

<澁谷>

平塚信用金庫のCSRへの取組についてお聞かせください。

<石崎理事長>

社会的責任を「経済的価値だけではなく、社会的価値、文化的価値、環境的価値について本業を通じて実現し分かち合うことに力を置いた経営を目指すこと」と捉えるならば、信用金庫は、短期的な利益の追求を目的とする株式会社とは異なり、会員・顧客を通じて地域社会と繋がっていることから、長期的視点を重視した経営を実現する最適な組織形態だと思います。
つまり、「会員・顧客、地域社会、信用金庫」の三者を念頭においた社会的責任型経営を実現したいと考えています。
特に、環境への配慮については、業界全体でも取り組んでいますが、当金庫では、平成20年度において店外ATMの設置や、事務サポートセンターの開所があったものの、本部課長会を所管として、クールビズ、ウォームビズ、階段の使用励行など、地道な対策を通じて電力量の削減を実現しています。また、全職員およびその家族による海岸清掃や、エコ定期の発売による2百万円余りの寄付の実施など、できることから率先して取り組んできています。

<澁谷>

石崎理事長が、お仕事を通じて最も印象に残った経験についてお聞かせください。

<石崎理事長>

私は、やりがいを感じないと仕事はいけないと思っていましたし、そのためには、どうやってモチベーションを維持していくか、仕事に向かい合っていけるか、常に意識しながら業務に取り組んできたつもりです。
負けず嫌いのところもある反面、自分の弱さも知っていましたので、私が、支店に勤務していた頃は、自分にノルマを課して、毎日、そのノルマが達成できない限り会社に戻らず、遮二無二エリアを駆け回ったことを覚えています。
また、この頃は非常に忙しい日々を送っていましたが、こういう時こそ気持ちを折らずに、"支店は俺が背負ってるのだ"という気持ちで働いていました。それ故に、非常に充実していましたし、やりがいを感じていましたね。

<澁谷>

ありがとうございました。


(2009/05/27 取材 | 2009/06/30 掲載)

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