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りそなホールディングス 取締役兼代表執行役社長 東 和浩 氏 インタビュー

新しい“金融サービス業”を追求し、「りそなブランド」の再強化を図る

 りそなホールディングスは、傘下に3つの銀行を持つ、総資産45兆円、信託財産約24兆円を有する金融持株会社です。グループの中核である「りそな銀行」、埼玉県で圧倒的なシェアを誇る「埼玉りそな銀行」、近畿を中心に128 の有人店舗を展開する「近畿大阪銀行」が相互に連携し、これまでの銀行の枠にとらわれない「新しい“金融サービス業”」の実現に取組んでいます。今号では、同社取締役兼代表執行役社長の東和浩氏にグループの経営ビジョンについてお話を伺いました。

聞き手:リッキービジネスソリューション(株)取締役副社長 小原 光男

“りそなイズム”の承継と深化

りそなホールディングス 取締役兼代表執行役社長 東 和浩 氏

▲ りそなホールディングス
取締役兼代表執行役社長 東 和浩 氏

<小原>

 りそなグループで今一番注力していることを教えてください。

(東社長)

 今、私たちは3 つの方針を定めています。1点目は「りそなイズムの承継と深化」です。公的資金が注入され、オペレーション改革などさまざまな改革を実行してきましたが、これからもお客さまの期待を先取りすることで、私たちの行動を変え、深化し続けることが大切だと考えています。
 2点目は、銀行という枠にとらわれず「新しい“金融サービス業”としてのビジネスモデルの構築」を行っていくものです。方向性としては3つあると考えています。

 1つめは、サービスの「時間軸」を拡大する戦略です。時間の拡大とは、営業店とインターネットバンキングが継ぎ目なしにつながって、お客さまが金融サービスを期待したタイミングにサービスを提供できるという考え方です。これまでも店舗の「17時まで営業」やコールセンターの「24時間化」、また365日営業の「セブンデイズプラザ」や「nanoka」(※注1)の開設などに取り組んできました。今後も、お客さまが「いつでもどこでも」サービスを受けられる仕組み作りに注力していきたいです。

(※注1)「うめだプラザnanoka」はローンや資産運用の相談、契約などを専門に扱うプラザのこと。平日夜間や休日を含め、週7日営業している。“りそなイズム”の承継と深化

 2つめの方向性は、提供する「商品」の充実です。りそなグループには、商業銀行業務、信託銀行業務、そして不動産業務の3つの業務の柱がありますが、これらが融合していることが大切だと考えています。商業銀行に信託・不動産業務の付加価値を加え、一方で信託専業銀行よりも充実した店舗網により、お客さまに提供できるサービスの幅を広げて行きたいです。

 3つめの方向性はサービスの「場」を広げる戦略です。地域的に強みを持つ関東圏・関西圏を基盤にしながら、地域金融機関と連携してATM(バンクタイム)拠点を全国に拡大しています。このバンクタイムを含むキャッシュポイントは2年半で約2,000か所以上増設し、現在の営業拠点は約5,300か所となっています。今後もお客さまの利便性をどうやって拡大していくかを常に検討しています。

 3点目は「グループ連結運営の進化」です。りそなグループの傘下にはりそな銀行、埼玉りそな銀行、近畿大阪銀行があり、システムインフラの統一化など、グループでの管理業務や事務の効率化を進めています。今後はグループのどのお店でも同じサービスを受けられる一体運営の強化とともに、首都圏・関西圏を中心としたメガバンクに匹敵するグループの店舗ネットワークを生かし、お客さまへの情報提供力をもっと上げていきたいと考えています。


「りそなと付き合いたい」と思っていただくために

<小原>

 現在、店舗が全国に600店あるということですが、埼玉県や大阪という大都市で、それぞれ45%、20%のシェアを占めるというのは凄いことだと思います。今後グループとしてやっていきたいことはなんでしょう。

(東社長)

 お客さまのお役に立てているかということを常に考えながら、結果として地域でのシェアを拡大することができれば良いと思っています。
今後はもう少しブランド力をつけていくことが必要だと考えます。公的資金完済を視野に入れた今、りそな全体を次の10 年を見据えた未来志向の考え方に変えていきたいのです。お客さまから「りそなと付き合いたい」と思っていただくためにはどうすればよいか、りそなのブランド力の再強化に着手し始めたところです。

<小原>

 平日17時まで営業」「365日年中無休店舗の開設」に対するお客様の評判はいかがですか。

(東社長)

 「17時まで営業」については、お客さまに定着するまでには時間を要しました。そもそも、銀行は15時に閉まる、という意識がお客さまの方にありますから、15時以降も窓口に来ていただけるように、広くお客さまにPRする必要がありました。こうした営業時間の形態に加え、お客さまをお待たせしないお店づくりや、365日年中無休店舗の開設など、常に“金融サービス業”を体現する施策を打ち出し続けることで、りそなのブランドを形成し始めていると感じています。近年では、店頭対応力などを総合的に評価した外部機関のランキングでも常にトップクラスを維持できるようになり、お客さまから評価をいただいての結果だと感じています。

<小原>

 お客さまをお待たせしない店づくりとは具体的にはどのようなものでしょうか。

(東社長)

 オペレーション改革の中で、印鑑レス・ペーパーレス・サインレスでお手続きをしていただけるクイックナビを導入しました。書類での手続きが減少したことで、お客さまの待ち時間が飛躍的に短縮されました。
 一方で、ゆったりと相談したいというお客さまには相談スペースを確保しています。クイックナビは、当社の従業員が立ったまま、お客さまとともに手続きを行うもので、従来の座ったままお客さまをお迎えしていた銀行窓口とは大きく変化しています。「銀行の常識を変えよう」という社員の変革意識が形になった店づくりができたと感じています。その他、運用商品購入の際に必要であった多くのチェックやサインなどの手続きが、端末上のパネル操作で完了する新端末機を導入するなど、お客さまの利便性向上に繋がるサービス改革は常に行っています。
 金融サービス業を体現してく中では、例えば“小売りの発想”も取り入れていく必要があるとも考えています。365日営業の店舗はその例です。「土日はお休み」という、私たちの従来通りの考え方はもう許されないのだと思っています。

<小原>

 イオンやイトーヨーカドーなども銀行業務に参入してきて、そういった新興の会社と戦うためにはスピード感と小売りの発想が必要になるのですね。

(東社長)

 オーバーバンキングと一般的に言われていますが、異業種から銀行業に新規参入してくる企業があります。私たちが見逃してしまっている、まだまだ深堀りできる既存のマーケットがきっとあるのだと思います。

<小原>

 若い方から、銀行の窓口にここ数年行ったことがないと聞きました。

(東社長)

 そうですね。それに対しては、小売業が行っている「オムニ・チャネル」が銀行業でも実現できないかと考えています。
 今までは支店( リアルチャネル) からインターネットバンキング( ネット) へお客さまを誘導してきました。しかしその結果、銀行窓口でのお客さまとの接点が著しく減ってしまいました。このままではお客さまは一生のうち口座開設・住宅ローン・相続の3回しか窓口を訪れることがなく、「銀行の窓口に行って相談すると良いことがある」という認識を持てなくなってしまいます。家計の見直しや相続など、お客さまの金融に関する課題を解決するプロフェッショナルが銀行には揃っています。にもかかわらず、お客さまが窓口に行く習慣がない、これはとてももったいないことだと感じています。窓口に来店していただくことで、「良い思いをする」という体験ができるような店舗、仕組み作りを行い、これからはネットからリアル店舗にどのようにして誘導するかを考えていきたいと思っています。

社会問題の解決に金融業界が担う役割

<小原>

 10年後20年後、金融業界はどうなっていくと思いますか。

(東社長)

 金融サービスの仕事はなくならないと思います。今のような低金利下では、確かに銀行の経営は厳しいですが、一方で、日本全体が抱える社会問題の解決をお手伝いする過程で、結果としてビジネスチャンスに繋げることはできると感じています。例えばこれから迎える人口減少、高齢化社会の中では、個人金融資産の1600兆円をどう循環させていくか、そのために何をやればよいかが課題となっています。これに対し、祖父母が孫のために1人あたり1500万円まで教育資金の贈与が非課税になる「教育資金贈与信託」の仕組みは、若年層への資金循環のお手伝いを信託銀行が担える一つの例です。
 また、中小企業の事業承継においても多くの強みを発揮できると考えています。日本では年間約26万社が廃業していますが、そのうちの6、7万社は後継者不在がその理由です。社長のポストを次の世代に円滑に引き継いでいき、積極的な経営に変えていけるか否かというのは今後の日本経済全体の問題です。こういった問題にも積極的に取り組んでいくことが重要だと感じています。

<小原>

 事業承継というのは銀行が主導しないとなかなか難しいと思います。

(東社長)

 銀行はお客さまの財務内容を良く把握しています。事業承継の問題は、10年20年とかかる話ですから、組織が永続的に続くというのは信頼の源泉なのです。信頼していただける「銀行」だからこそ提供できる、お客さまに長期にわたって寄り添い提供できるサービス、このようなビジネスモデルを確立していきたいと感じています。

「お客さまのよろこびが、りそなの喜びである。」

<小原>

最後になりますが、社長の経営哲学は何ですか。

(東社長)

 「人間至る処に青山あり」です。自身がその時々に与えられたポジションで一生懸命仕事をやろう、という意味で捉えています。誠意をもっていかに仕事に取り組むかが、私にとっての最大のテーマです。

 今年の内定式で「銀行員には何が大切ですか」と尋ねられた際、私は「誠実であることが一番重要」とお話しました。お金を扱う仕事ですので、信用が一番の武器になるということもありますが、やはり「人」を相手にしたビジネ スである以上、いかにお客さまと親身に向き合えるかが重要になってきます。お客さまが企業の場合には、何を作っているか、どんな所で販売しているのか、どんな調達をしているのかなど、商流を把握できなければ良い提案はできません。また、個人の場合には、家族構成がどうなっているのか、また例えば高齢のご両親のことで悩んでいるなどの話を早くキャッチし、解決策を早い段階でご提案できれば、新たな信頼構築にも繋がります。想像力を働かせて誠実に対応し、お客さまのために動く、この積み重ねがとても重要です。これは、私が社長に就任したときから、社員たちに伝え続けている「お客さまの喜びが、りそなの喜び」という理念です。

<小原>

 金融機関につとめる若い人に一言メッセージを。

(東社長)

 銀行に限らず、金融機関の仕事の意義は経済の動きに合わせて変化していくものですが、少なくとも人間の歴史の中で金融の仕事がなくなったことはありません。金融は、常に人々の生活とともに変化し存在し続けています。そのため、お客さまのニーズに合わせて我々のビジネスが変化することは当たり前であり、変化することを恐れてはいけません。時代の変化に柔軟にかつスピーディに対応できることが、お客さまからの信頼に繋がるのだと信じて頑張ってください。

(2014/12/15取材 | 2015/1/6掲載)

金融機関インタビュー