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北陸銀行 代表取締役頭取 庵 栄伸 氏インタビュー

地域のため「一取引先一応援運動」を展開
~お客様のために“考動”できる人財の育成こそ、わが行の財産~

 今回は支店長のあり方や人財強化、行員の応援する姿勢を顧客貢献につなげる取組みについて、北陸銀行の庵頭取にお話を伺いました。

聞き手:リッキービジネスソリューション(株)代表取締役 澁谷 耕一

人財ピラミッドのギャップを埋める

弁護士 中村健三 北陸銀行
代表取締役頭取 庵 栄伸

富山県出身、一橋大商学部卒。1979年北陸銀行入行、福井西中央支店長、東京支店統括副支店長、総合企画部長などを経て2010年常務執行役員、2013年6月に頭取に就任。

<澁谷>

まずは、貴行が近年注力されていることについてお聞かせください。

(庵頭取)

17年前に公的資金を入れ、業務改善命令を受けながら返済をしていたこともあって、収益を重視した経営をしていた時期がありました。当時は、自分たちの志は別のところにあるのに「やむを得ない、仕方ない」となってしまっていたんです。しかし、それではバランスを欠いてくるわけです。私たちの今の問題意識は、≪銀行は人財≫ということにあります。人財によって競争力が強まるとするならば、やはり人財を磨いたり鍛えたりすることが、優先事項だと考えています。

一時期、若手の採用を絞っていた時期がありました。そのために現在30代の中堅職員がいないという「人財ピラミッドの断層」が生じています。以前は近い年代の先輩から教えられ、またその人の背中を見ることができましたが、今の状況では「すぐ上の先輩が10歳以上離れている」ということが少なくありません。ですから、近年は毎年200名近くを採用していますが、30代以下の人たちをなるべく早く育て上げ、そのギャップを埋めようとしているところです。ただ、この2年間は「支店長の第一の仕事は人財育成だ」と言い続けてきたので、各支店長はお客様への訪問にも若手を同行させるなど、部下の育成に時間を割いてくれています。

陸銀行 代表取締役頭取 庵 栄伸 氏

先日、外部機関の方に「昨年と今年の1番の違いは何だと思いますか?」と聞かれた際、私は「昨年は、人財はまだあまり育っていない。法人のお客様を相手に出来るような人財はまだ薄いと申し上げましたが、それは間違っていました」と答えました。当行では“目利き研修”の一環として、各自の成功事例の提案プレゼンテーション大会を実施していますが、そこで外部の方から「なかなかしっかりとした内容だったね」と言っていただいたり、融資課長候補について担当部に意見を聞いた際にも、20代の人がリストアップされていたり。2年間取り組んできて、歩みは遅いけれども間違いなく前進しているな、と思っています。

<澁谷>

人財育成は、特に金融機関においては、非常に大切なことだと思います。人財育成にも2通りあります。1つは、「基礎知識」や「応用・専門知識をつける」という、いわゆるスキル研修。もう1つはマインドで、“お客様にどのように役立つか”という視点を持つということだと思います。私も「お客様に喜ばれることをする」「志」「使命感」「感謝する気持ち」などがとても大切だと常々言っております。いわゆるマインドとしての人財育成ということでしょうか。

(庵頭取)

そこは、僕より麦野会長が大好きな部分ですね。麦野会長の理念は「銀行経営は、CSから始まる」ということです。CSというのは、お客様に興味を持つことであったり、お客様の気持ちを思いやる事だと私は思います。だから「聞く力」というような言い方をされる方もいらっしゃいますが、挨拶ひとつにしても相手を思いやって行うなど、各自がCSについて考え、“考動”が出来る人財になって欲しいと思います。

「顧客貢献運動」改め「一取引先一応援運動」の推進

(庵頭取)

もうひとつ、当行では「顧客貢献運動」という活動を20年ほど前から行っています。これはほんの些細なことなんですが、例えば取引先から税務相談をされたから税理士を紹介したり、企業に合った市の補助金を調べて補助金が受けられるようにしたり、あるいは取引先で倒産した先の土地を他のお客様につないで新しいお客様の工場用地として使っていただいたり、といったことです。そのような好事例を全店から集め、「こんなことをした行員がいますよ、目の付け所はこんなところにもありますよね」と、全行員に広く周知するという運動です。

昨年までは年間で1万件もの事例が挙がっていました。ところが、お客様を意識して始めた運動のはずが、やっていることや気持ちは同じなのに、どうしても自分たちの「評価」に結び付く行動を選択してしまいやすいのです。最近では銀行にとっての成果に意識が集中しすぎているように感じていました。「顧客貢献運動」も「評価」の対象になっているから、何か成功した案件を探しにいっているような感もありました。これに対しては声を大にして「違うんだ」と言いたいのです。成功してもしていなくても良いのです。「自発的に考えてお客様にこういう提案をした。喜ばれたかどうかは分からない、自分たちの実入りになったかどうかは分からない。けれども、種をまく活動なんだよ」と。これを伝えるために、昨年の10月から【一取引先一応援運動】に名称を変えました。より「お客様指向」の思想を全職員に浸透させなければいけないというのは、課題として残っていると思っています。ただ、弊行ではそもそもそういった運動を長く続けてきたので、出来るはずだと思っています。

澁谷耕一

<澁谷>

【一取引先一応援運動】というのは、とても良い取り組みだと思います。顧客貢献運動も良いのですが、スケールが大きいですから。弊社も御行の顧客の一員ですが、何らかの形で「応援してもらえる」という気持ちがあるのはすごくありがたいですね。

(庵頭取)

お客様へ「私はあなたをこう思っています」という自分の気持ちをきちんと伝える。収益に結び付くかどうかというのはまた別の話で、お客様ことを考えている職員がいるということが大切なのだと思います。

支店長は偉くあれ

(庵頭取)

私たちは今、融資の支店長権限を大きく引き上げようとしています。今までは「与信リスクが大変だ」と言って思考停止になってしまったところがありますが、私は「いや、金融機関の経営というのは、現場を尊重して支店長に任せることだろう」と思うのです。ですから私たちは「支店長を任せられる人財か」ということを考えて支店長を任命しています。逆に言うと、支店経営を任せてよいと思えなくなったら、支店長を外さざるを得なくなると思います。どんなに成績が苦しくても、成績が上がらなくても、自分たちの置かれたステージを把握し、部下の育成や志に繋がるものであれば遂行する。支店長は最低限、そういう「経営者」であってほしいのです。

<澁谷>

地域やお客様によってニーズや要求する水準がまったく異なりますので、支店長に権限を与えて判断を任せる。頭取のおっしゃるように支店を任せられる人財だけを支店長にするというお考えはもっともだと思います。

(庵頭取)

人間は完璧ではありませんが、しかし酸いも甘いも見ながら、大きな太い幹だけはきっちりと支店長が持っていて欲しい。支店長には偉くあって欲しいと思います。その現場のトップは頭取ではなく支店長なのです。ですから、そういう考え方、接し方、そして部下に対する教育をして欲しいんですよ。

<澁谷>

まさに人間的な度量や風格、知見、経験などを含めて偉くあって欲しいということですね。本当にそう思います。

(庵頭取)

ところが一時期から管理が強くなって、モニタリングが入ったり報告事項が増えたりしました。店を預かっていれば当然、事務的なミスや様々なトラブルがありますが、全て本部に報告して本部から注意文書がきて。支店長としてやり切れないところもあるのは事実です。ですから、そこは私も事故を起こしてよいとは思いませんが、支店長に会えば基本は「ご苦労さん」ということと「支店長に任せたぞ」という気持ちだけですね。

陸銀行 

民間企業の移転の動き

<澁谷>

YKK が秋葉原の本社機能を一部黒部市に移し、200名以上の社員が動くということですが、やはり北陸新幹線の開通により東京~富山が2時間で移動できるというのは大きいですね。

(庵頭取)

YKK さんは本社機能の一部を黒部市に移し、今はIT化が進んでいるので、海外担当の方も黒部にいらっしゃいます。そして開発会議はテレビ電話でやっておられるそうです。そして、YKK さんの1つの強みであるファスナー製造の機械というのは、全て黒部で作られています。海外でも同じ品質を維持するために、MADE IN 黒部の機械を輸出しているのです。製品の開発拠点となる工機部門を黒部に集中させるとなれば、それに応じて人も移るだろう、ならば快適に住める町にしようということで、古くなった社宅を壊した跡地に、環境重視型の住宅群「パッシブタウン黒部モデル」の建設を考えられたのです。太陽や風などを活かした建築設計をして、冷暖房に使用されるハイエネルギーの消費を抑制する試みをされています。

<澁谷>

YKK さんのように世界中にシェアが広り、インターネットの普及も進んでくると、特に東京に集中する必要がありませんからね。

(庵頭取)

そうなのです。ですから至極当然の流れでもあり、やはりリスク分散にもなるということだと思います。

陸銀行 代表取締役頭取 庵 栄伸 氏

最後に;経営者として考えていること

(庵頭取)

私自身が未熟者なので、いつも試行錯誤しています。うまくいかない事の方が多いですが、でも少しずつ変わったらよいのだと思います。大きく変わったら、それはまた不健全です。だからみんなが右を向いている時に、何人かは左を向く人がいないといけないと、私は思うのです。一時期あまりにも右を向くときに右を向きすぎていて、そこにあるリスクだとか、忘れ去られたものに気づくのが遅れたことがありました。しかし、ダイバーシティと言いますか、みんなが自分の持っていることを言い合うことで色々なリスクの予兆も見えてくるでしょうし、トータル的にバランスの取れた経営が出来るのではないでしょうか。

ですから、今はトップダウン型の経営はしていません。逆にボトムアップ型で、どんどん意見を吸い上げることをしていきたいと思っています。

●会社概要

社 名 株式会社 北陸銀行
会 長 麦野 英順
頭 取 庵 栄伸
本店所在地 富山県富山市堤町通り1 丁目2-26
創 業 明治10 年 (1877 年)
ネットワーク 国内本支店・出張所 187 カ店
海外駐在員事務所 6 カ所
店舗外キャッシュコーナー 194 カ所
(平成27 年1 月31 日現在)
資本金 1,404 億円
従業員数 2,895人(平成26 年9 月30 日現在)

(2015/04/10取材 | 2015/05/25掲載)

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