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常陽銀行 取締役頭取 寺門 一義 氏 インタビュー

地域の未来を協創する

 茨城県は、首都圏から近く、また海からもアクセスできる立地にあります。そして2005年のつくばエクスプレス開通、2011年の北関東自動車道の全線開通に引き続き、2015年には圏央道が東名高速道路に接続されるなど、交通インフラの整備が進行しています。今回の巻頭インタビューでは、同県で地域に根差した銀行として様々な取り組みを行う常陽銀行の寺門頭取にお話を伺いました。

聞き手:リッキービジネスソリューション(株)取締役副社長 小原 光男

茨城県の特徴・現在の動き

●「農業」「ものづくり」大県/ 交通インフラの拡充

常陽銀行 取締役頭取 寺門 一義 氏

▲ 常陽銀行 取締役頭取 寺門 一義 氏

<小原>

 まずは、常陽銀行の主要営業地盤である茨城県の特徴についてお聞かせください。

(寺門頭取)

 茨城県は、全国第2位の農業大県であると同時に、全国8位のものづくり大県という、2つの顔を持っています。
また、陸・海・空の広域交通ネットワークの整備が急ピッチで拡充されつつあり、地域外から茨城県内への工場進出が非常に活発になっています。昨年2013年度の工場立地件数は147件で全国第1位でした。

●「平坦な土地」「充実の交通インフラ」を活用した工場誘致

(寺門頭取)

 県西地区には古河という町があるのですが、昨年5月、ここに日野自動車(※1)の組み立て工場が移転して来ました。他にもトヨタ自動車の下請けの工場がいくつか茨城に移転しています。 最近も古河に近い下妻という町に、自動車関連の部品メーカーが進出しました。下妻地区は、現在の工場生産額が約1千億円なのですが、今回の進出により工業生産額が3割ほど伸びると見込まれていますし、また、約90名の社員が移住されたことにより、貸家の稼働率が一挙にアップしました。さらには、近隣の食堂がにぎわったり、廃棄物関連の事業者の方々などに新しい発注があるなど、波及効果も期待されています。我々も積極的に企業誘致活動を展開していますが、他県も誘致活動をされている中で茨城に企業がこれほど来られるのは、首都圏が近いということに加え、交通インフラが整備されてきているということもあるんだと思います。

(※1)日野自動車はトヨタグループのトラック・バス部門を担っている。

<小原>

 進出企業に対して、どのような提案をされたんですか。

(寺門頭取)

 利子補給制度を全面的に活用した資金の調達、従業員の方々の住まいのお世話、仕入れ業者のご紹介などを提案しました。また、銀行と市がタイアップして観光バスを手配し、従業員の方々をご案内しました。こうしたご提案をさせていただくなかで、お取引をいただくことができました。

<小原>

 それはすごいですね。

(寺門頭取)

 工場が移転すれば、新たな仕入先の確保が必要になりますので、例えば給食業者や廃棄物処理業者の紹介などをパッケージとして提案させて頂きました。資金調達のお手伝いをするだけでなく、お客さまのさまざまな課題に対して総合的な提案をおこない、お客さま・地域の課題解決に貢献していくことが、私共が第12次中期経営計画でも掲げている「協創」という概念の目に見える姿です。

<小原>

 やはり地域を知っているからこそできる提案ですね。

(寺門頭取)

 地域にある銀行として、きめ細やかな提案が出来たと思います。

地域の課題解決に向けた取り組み

●常陽リバースモーゲージローン「住活スタイル」

(寺門頭取)

 一方で、進出した企業の従業員にとっては、勤め先の移転にともなう転居などで、「今まで住んでいた住宅をどうするのか」という問題がこれから顕在化してくると思っています。そこで、一般社団法人移住・住みかえ支援機構とタイアップして、「常陽リバースモーゲージローン『住活スタイル』 (※2)」という商品をつくりました。現在、全国に約15%の空き家があると言われていますが、その中にはまだ十分使える家がたくさんあります。例えば、老人ホームに入るから住んでいた家を処分したいという場合、20年も住んでいた建物であれば処分価格は非常に安くなってしまいます。しかし、このような建物であっても、少し手直しすれば、十分賃貸になる物件も多いものです。処分するのではなく、本商品をご活用いただければ、新しい施設に入る入居保証金を調達することができます。また、工場の移転などで転勤となり、「今まで住んでいた家をどうするか」となった時に、元の住宅を賃貸に回し、その家賃を毎月の返済原資にすることで二重ローンに悩まされずに新しい建物を建てることができます。高齢者が新しい人生をスタートするにあたって必要となる資金の調達手法として、また、会社の都合で転居を余儀なくされた方々のサポートとして、この"住活スタイル"というリバースモーゲージローンに力をいれています。

(※2)住まなくなった住宅を、移住・住みかえ支援機構の「マイホーム借上げ制度」を利用して賃貸し、その賃貸収入を返済原資として、住み替えにかかる資金などを借入する制度のこと

<小原>

 反応はいかがですか。

(寺門頭取)

 引き合いはとても多いのですが、実績はまだまだです。ただ、某大手住宅メーカーが「非常に良い制度だ」「自分の所でつくる住宅については、全部これを付けてもよい」と言ってくれました。「こういう機能があるから安心して作ってください」とお客様の背中を押す材料としても使えると言うんですね。ですから、実績はまだ本当にごく僅かですが、我々は自信を持って色々なところにお勧めしています。いくつかの市町村長と会ってお話しすると、ぜひやらせてくれと言われます。

<小原>

 リバースモーゲージを日本的にアレンジし、高齢化問題を解決できるとても良い仕組みだと思います。なかなかここまで本気で取り組まれている銀行はないかと思います。

(寺門頭取)

 我々も単独ではこれをできません。移住・住みかえ支援機構の社長が非常に理解のある方で、我々の色々なお願いを前向きに採択してくださり商品化できました。いずれにしても社会問題化している空き家や人の移動に伴って発生する二重ローンなど、これらの問題に対するサポート材料として、これからも力を入れてやっていきたいと思っています。


成長分野への取り組み

●「常陽ビジネスアワード」で革新的・創造的なビジネスプランを表彰

<小原>

 御行は食品部門やアグリビジネスの他にも様々な分野でお客様のビジネスを支援されています。地域経済の活性化に繋がる新事業プランを表彰する「常陽ビジネスアワード」を実施されていますが、この辺りをお話しいただけますでしょうか。

(寺門頭取)

 まず、「常陽ビジネスアワード」の取り組みについてお話しします。この取り組みは、「地域には、まだアイデア段階ではあるけれども、新たな事業に結び付くような事業プランが潜在しているのではないか。そうした事業プランを掘り起こして、新しい事業として育てていきたい」という想いから始めた事業です。
 第1回目の開催となった「常陽ビジネスアワード2012」では、261件もの応募をいただき、うち17件の事業プランを表彰させていただきました。地域にこれほど多くの事業プランが潜在していたことに、大変な驚きと感動を覚えたと同時に、改めて金融機関としての使命の重さを認識したところです。現在、当行グループが全力で事業化に向けた支援をさせていただいています。

●中小企業と研究機関・大手企業をコーディネートする

(寺門頭取)

 次にお話をさせていただきたいのが「nextⅩ (ネクストテン)」活動です。これは震災の復旧・復興に取り組んでいくなかで、復興の次のステージである「成長」に向けてどのようなお手伝いが出来るのかを考えた時に始まった事業です。
 一例を挙げますと、私共が、産学官金連携「ひざづめミーティング」と呼んでいる取り組みがあります。これは、研究者もしくは大学の先生と数社の企業が集まって、専門の先生方の持っている「シーズ(※3)」と各社の技術を、セミナー形式ではなくまさに膝を詰めて話し合いをする取り組みです。茨城県には茨城大学・筑波大学という2つの国立大学がありますし、世界を代表する研究機関もつくばに数多く存在します。こういった機関の持つノウハウと、お客様の持つ技術力を結び付けることができないかという想いで始めたものです。この取り組みでは、毎回活発な議論が行われ、共同研究や受発注など、さまざまな展開に結び付いています。この「ひざづめミーティング」は、もともと、ものづくりの分野で取り組んできたことなのですが、「アグリ」の分野でも同様のことができるのではないかと考え、昨年初めて「ひざづめミーティングforアグリ」を開催しました。これによって「ものづくり」と「アグリ」の両方で同じ取り組みができるようになりました。
 もう1つは、大和ハウス工業㈱様と連携して取り組んでいる、事業協創プロジェクト「アクションD」があります。同社は、新しい事業分野に対する関心が非常に強い会社で、新しい事業を共同で行うことができる技術力のある企業を探していました。そこで、当行が間に入って技術力のある企業を募集し、同社に「これから10年後、20年後にどういう事業を展開したいのか」というプレゼンテーションをして頂き、各社に「どういう協力ができるのか」を提案をしていただきました。応募した157社のうち、最終的に4社がパートナー企業となり、事業化に向けた活動をはじめています。また、パートナー企業には選ばれなかったけれども、将来的な可能性を見据えて、引き続き検討を進めたいとする企業も21社あり、今後の展開が期待されます。
 大企業や研究機関は、高い専門知識やノウハウを持っていますが、それを具体的な形で実現してくれる企業を知らないことが多く、また、中小企業は、技術力に自信があっても、その技術を発展させて新しい事業を創造するノウハウを持っていない場合が多いです。つまり、我々の仕事は、両社をコーディネートすることだと思っています。お取引先を中心とするネットワークを持っている銀行だからこそ、それができると思うんです。
 もちろん、事業化に向けた支援なども積極的にさせていただいています。過程を知っているから支援しやすいという面もあります。第1回「常陽ビジネスアワード」では、金属の先端を縦に裂く加工技術をもつプレス事業の会社が最優秀賞を受賞しました。成熟化した技術でも最先端のことができるんだということを、中小企業の社長が身をもって示してくれました。この技術は、現在、日本だけでなく海外でも積極的に取り上げられており、私どもも資金支援をさせて頂いています。

(※3)開発することによって将来、花開き実を結ぶ可能性の高い技術、材料、サービスのこと。

若い読者へのメッセージ

●「熱意」「創意」「誠意」を持つ

<小原>

 最後に、若い行員たちに期待することをお聞かせください。

(寺門頭取)

 行員に期待することは大きく3つあります。それは「熱意」、「創意」、「誠意」を持って仕事に取り組んで欲しいということです。
 社会・経済環境は目まぐるしく変化しており、こうした状況下では新しいことに積極的にチャレンジする「熱意」があるか否かで仕事の結果が全く異なるものになります。前例のない新たな仕事に取り組むにあたっては、失敗をともなうことも往々にしてあります。しかし、失敗を恐れずに、積極的にチャレンジして欲しいと考えています。
 そして、変化の激しい時代に求められるもう一つの要素が「創意」です。銀行業務は多様化しており、もはや同じようなサービスを同じように提供していれば、それなりの業績を維持できる時代ではありません。お客様から"今何が求められているのか"を常に意識して、課題や問題点の解決に向け、前例にとらわれることなく、創意工夫を重ねて欲しいと考えています。
 最後に「誠意」です。組織で仕事をしていく上では誠実であることが極めて重要です。誠実でなければ人に共感を与えることなどできません。当行ではコンプライアンスを営業推進・収益確保に優先する経営の最重要事項としていますが、コンプライアンスを自分のものとして実践していくうえでも、誠実にルールを守り抜くことが基本であると考えています。また、特に若い行員にとっては自己啓発が大切となりますが、基本的に「行員の成長は自己責任」と考えています。企業は自己啓発の枠組や支援体制を整備しますが、それをどう活用するかは本人次第であり、主体的に自己啓発に取り組んで欲しいと考えています。

<小原>

 良いお話をありがとうございました。

●インタビュー内での企業名につきましては敬称略とさせて頂きました。

(2014/5/27取材 | 2014/7/31掲載)

金融機関インタビュー