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山形銀行 長谷川 吉茂 頭取インタビュー

新しい時代における山形銀行のCSR経営

聞き手:リッキービジネスソリューション(株) 代表取締役 澁谷 耕一


▲ 山形銀行 長谷川 吉茂 頭取

<澁谷>

御行の沿革、強みについてお聞かせください。また、営業エリアの特色についてもお聞かせください。

<長谷川頭取>

創業は、明治29年4月ですが、当行の歴史を語る上では、第八十一国立銀行が設立された明治11年11月にさかのぼる必要があります。
第八十一国立銀行は、明治9年の国立銀行条例の改正に伴い設立された銀行ですが、その後、明治29年に新たに国立銀行法が制定され、受皿として設立されたのが、当行の前身である両羽銀行であり、その後第八十一国立銀行の営業譲渡を受け、現在に至ります。
両羽銀行は、昭和40年に現在の山形銀行に名称を変更しますが、両羽とは、明治元年に設定された地方区分の国である羽前、羽後の両国を表したものです。しかし、その後の廃藩置県と県統廃合の結果として、明治9年に誕生した山形県としての歴史が長くなるなか、実情に即した命名が望ましいとの声が強まり変更したものです。
当時の山形県は、日本海最大の港である酒田港が、東北各所への最大の拠点として栄えたことから、重要文化財も東北随一の数を誇っており、こうした伝統を踏まえて、銀行が設立された経緯があります。
そういう意味で県の歴史そのものであり、この歴史に裏打ちされた信頼感こそが当行の強みと言えるかと思います。
前期は金融危機の影響を受け63年ぶりに赤字決算となりましたが、これまでの歴史を振り返れば堅実経営を堅持してきており、安定度が高いとも言えるかと思います。

私としては、とにかく、伝統を重視し、地域に根ざした銀行経営を最も大切にしたいとの強い思いがあり、特に行員を大切にすることをモットーにしてきました。
例えば、歴代の支店長が亡くなられたときには、必ず弔問に伺いますし、在籍された店舗の行員が葬儀のお手伝いをさせていただくことにしています。そうすることで、山形銀行は最後まで面倒を見てくれる銀行だという安心感につながります。忙しいなかではありますが、これからも続けていきたいと考えています。

営業エリアについては、山形県内と仙台を地盤としています。なお、仙台においては、七十七銀行さんがありますが棲み分けは可能であり、仙台エリアのお客さまをサポートしていきたいというスタンスです。
そういう意味で、七十七銀行さんとは、ビジネスマッチング、ATMなどの提携も進めています。

<澁谷>

平成21年3月に期限を迎えられた第15次長期経営計画『〈やまぎん〉バリューアップ・プラン』に対する成果、評価についてお聞かせください。

<長谷川頭取>

これは、私が頭取就任最初の長期経営計画になったわけですが、想定外の環境変化を受け、決算ベースでは長期経営計画を達成することはできませんでした。
しかし、業務面においては、大きな成果があったと思っています。
山形県内の地元3行での預金シェアに関しては、頭取就任時の47%から49%の2ポイントアップ、貸出金シェアに関しては、38%から44%に6ポイントアップし、いずれも50%が完全にターゲット圏に入ってきています。
業績面では、リーマンブラザーズ破綻の影響から有価証券の含み損の拡大を余儀なくされたわけですが、健全性の維持を優先する考えから問題を先送りしないとの方針に基づき、会計基準に基づく処理額を上回る200億円程度の有価証券関連の前倒し処理を実施した結果、平成21年3月期は約58億円の純損失となりました。これを受け、配当は従来どおり継続するものの、役員賞与は見送りとし責任の所在を明確にします。
なお、県内含めて10カ所で実施予定のIR説明会においては、私自ら説明を行いますし、業績下方修正発表後、全営業店長には、速やかにお客さまへの説明を行うよう指示しており、冷静な評価をいただけるものと確信しています。

<澁谷>

新たにスタートされます第16次長期経営計画『〈やまぎん〉イノベーション・プラン』における重点課題について、お聞かせいただけますでしょうか。

<長谷川頭取>

この長期経営計画は、非常に思い入れをもって作った手作りの長計であり、シュンペーターやドラッカーの言う「イノベーション」をベースとして策定しています。
イノベーションについては、頭取就任後、何度か話をしており、これには、個人的な思い入れがあります。
ドラッカーの父はシュンペーターのスポンサーであり、シュンペーターは偉大な経済発展の父とも呼ばれています。また、ドラッカーは現代経営学の発明者とも呼ばれ、私は、シュンペーターの経済学を経営学として実践したのが、ドラッカーであると考えています。
2人とも、オーストリアというヨーロッパの最も辺境に位置し、アジアを最も知る国の出身であり、フロイト、クリムト、マーラーなどと共に、世紀末を代表する人物です。この世紀末時代の思想を、今の状況にダブらせ、まさに今回の長計に取り入れたわけです。つまり、一挙にこれまでの環境を取り戻そうとするのではなく、もう一度原点に立ち返って経営というものを議論し、経営という概念の再設計をしようとしたわけです。
したがって、短期的利潤主導という発想は初めから議論の外において、山形銀行はCSRという概念でやろう、本業以外でやることだけがCSRではない、銀行そのものをCSRとして位置付けているわけです。社会的存在としての銀行が、社会的責任にとどまらず社会的存在としてもう一度考察すれば、地方銀行のあり方として、メガバンクとはまた違った伝統や使命もあるのではないかと考えています。これが、今回の長計にある根本的な概念です。
ついては、有価証券に依存しない体質をどうやって築いていくか、その時々の利益水準が高いか低いかではなく、安定配当があり、安心してお付き合いいただける銀行を再構築していく必要があるということになります。
今の経済環境が全治するには1年余りを要すると思われますので、第16次長計の最終年度である3年目に照準を合わせれば、何とか目指すものが見えてくるのではないかと思っています。
また、環境の変化、つまりCHANGEのGの中のsmall-T、つまり小さなトラブルを自分で取り除くことによってCHANCEを掴み、そしてCHALLENGEに結び付けていこうという語呂合わせも、行員に覚えやすいと思い長計に組み入れてあります。
その根幹には、イノベーションということがあります。イノベーションは、日本語では「技術革新」と訳しており難易度の高いものに感じるわけですが、中国では「創新」と訳しています。「創新」とは、新しいものを創っていくということであり、私はその心構えを含めより分かりやすく「向上心」と訳しています。
つまり、毎日少しでも違うことをやっていこう、そしてそれを継続していこう、それがイノベーションだと。こういう発想で、行員に話しかけているわけです。
山形銀行の存在意義は相対的には変わりませんが、求められるものは、その時々で違ってくるわけですから、それを地域金融機関として探していこう、新しい時代の山形銀行を創っていこう、ということがテーマです。

<澁谷>

2005年6月に頭取に就任されて以来、最も注力されてこられたことについてお聞かせください。

<長谷川頭取>

私は、住友銀行では調査部が長く、ハードな業務も経験し、その後、総合商社、鉄鋼業界など、さまざまな企業を担当してきました。どれだけの工場を見てきたかわかりません。
つまり、法人戦略、再生支援、企業育成などに長く携わってきたことから、企業というものが大好きなんです。ですから、山形の企業を育て、日本を代表する企業をつくるということが夢です。フェラーリのカーデザインを手がけた奥山清行氏とは、懇意にしており、山形県の優れた職人技術を結集して、世界に通用する山形ブランド商品を構築していこうというプロジェクト『カロッツエリアプロジェクト』も一緒に仕掛けてきました。
また、メインバンクとしてお取引いただいている企業のなかには、IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)日本酒部門で最優秀賞となるトロフィー賞に輝いた老舗酒造メーカーの"出羽桜酒造"さん、オバマ大統領夫人が大統領就任式で着用されたニットカーディガンでも有名になった"佐藤繊維"さん、戦艦大和や迎賓館にも採用され、平成18年に経済産業省より『元気なモノづくり中小企業300社』にも選定された絨毯メーカーである"オリエンタルカーペット"さんなど、世界に通用する企業が多くあります。
山形県は、昔からものづくりの県として、長い歴史と伝統を備えています。つまり、この伝統を大切に守っていくことが当行の使命であり、経営そのものであると考えています。
山形は、産業空洞化も一段落してきていることもあり、"もう一度山形にものづくりを戻すんだ"という意気込みで臨んでおり、地元企業だけでなくトヨタなど自動車関連企業や電子部品企業などの進出企業に対しても、積極的な支援を今後とも行っていきたいと思っています。

<澁谷>

法人営業戦略、個人営業戦略についてお聞かせください。

<長谷川頭取>

法人戦略に関して申し上げると、トヨタさん、三菱商事さん、三井物産さんなど、日本を代表する大手企業が県内企業との提携関係を求めてくる場合には、必ず当行が窓口の機能を担っており、こうした中央の企業との連携にも対応できる体制は確立できています。
また、銀行間ネットワークにおいても、七十七銀行さんや東邦銀行さん、システム共同化を行っている"じゅうだん会"のメンバー行や、上海での商談会の共同開催メンバー行等、多様な地銀ネットワークにより横との連携はいつでも開ける関係にあります。また、三菱UFJフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループといったメガバンクグループとの友好関係も構築できていますので、多面的に情報提供、企業支援ができる場づくりは完成していると思っています。
特に、進出ニーズの高い中国ビジネスなどでは、販売先であるバイヤーの信用力に不安を覚えるお客さまが多く、そうした場合に、大手商社やメガバンクのネットワークが生きてくるわけです。
いずれにしても、当行が主体的にビジネスマッチングをサポートすることもできますが、あえてさまざまな業種やノウハウのある企業からアドバイス等を受ける場を提供することで、お客さまの安心感に繋げることが重要なのではないかと思います。これこそが、銀行の役割ではないでしょうか。あとは、お客さまが、このネットワークをいかに効果的に活用していただけるかということだと思っています。
なお、最近注目され、当行も注力してきているアグリビジネスについては、まだ残高も40-50億円です。しかし、若手の農業事業者をはじめ、ニーズは非常に強いことから、是非、積極的に支援育成していきたいと考えています。
個人営業戦略については、ひとつ自慢できることがあります。
当行は、非常に女性に人気があるということです。
日経が仙台で調査をしています東北企業の就職人気ランキングというのがありますが、以前、当行の注目度はそれほど高くなかったんですけれども、最近はベスト5の常連となっています。
ちなみに上位企業は、東北電力さん、NTTさん、七十七銀行さん、アイリスオーヤマさん、そして当行ということで、当行以外は全て仙台が本社です。なぜ、山形に本社を構える当行なのかというと、4年生大学卒業の女性に人気があるということがわかりました。
彼女達曰く、"一生働ける会社である"ということですが、確かに出産休暇や育児休職制度など、女性職員にとって働きやすい環境整備がされていることが評価に繋がっているようです。
当行は、女性の方々が生涯にわたって働くことができる職場づくりを実践しており、出産、子育てなどにより仕事に従事できなくなった場合、一旦、職場を離れますが、その後、復帰ができる状況になったとき、職場に戻れる機会を用意し、支店長にもなれる制度づくりをしています。
また、当行は、国が平成19年度よりスタートさせた、次世代育成支援対策推進法に基づく子育て支援企業として今年4月に認定を受けましたが、東北地方の金融機関としては第1号、山形県内でも山形カシオさんに次ぎ2番目となります。
とにかく、女性にチャンスを与えたい。そう考えるとやはり、リテールビジネスは女性が主役で、きめ細かいサポートができ、お客さまの人生設計にあわせた商品提案ができる。住宅ローンプラザも女性行員をヘッドにした体制のもと、ローンのご契約もいただくが、それに留まることなく、それぞれのお客さまのライフスタイル、ライフサイクルにあわせたご提案をするように伝えています。
個人戦略においては、女性行員を積極的に活用するべく準備態勢に入っています。既に2名の女性行員に支店長として活躍してもらっていますが、"家庭を持って、子育てをしながら支店長職を務められる女性行員をつくる"というのが目標です。

<澁谷>

今、地方銀行に最も期待されることは、どんなことでしょうか。
また、4月1日付に実施されました組織改正の狙いは何でしょうか。

<長谷川頭取>

「安全・安心」と「信頼」に尽きると思います。
地方銀行の原点というのは、高い預金金利をつけたり、或いは低金利で貸出をすることではなく、やはり、「安全・安心」、そして、この銀行は絶対に嘘をつかない、という「信頼」です。
ですから、不祥事件などというのは、絶対にあってはならないことなんです。
組織改正では、情報開発部に営業企画部にあった公務室を移管し、地域振興部に名称を変更しています。地銀として取り組める情報、つまり県内データなどの調査に、地公体取引を合体して、営業エリアにおける幅広い活動による地域振興を強化するという組織に再編したものです。
これにより営業企画部は法人部門の専担として営業店戦略などに特化する、また、個人企画部は個人部門の専担として商品企画などに集中し、それぞれの部門における業務の平準化を図るとともに、お互いに切磋琢磨できる体制にしたいとの意図が働いています。

<澁谷>

御行のCSRの取り組みについてお聞かせください。

<長谷川頭取>

新長期経営計画の目指す姿として、"新しい時代における山形銀行のCSR(企業の社会的責任)経営"を掲げていますが、先程お話ししました通り、地方銀行としての社会的存在という観点からCSRを見直そう、ということです。当行のみならず地方銀行は、どこも同じように膨大な社会貢献を行っているはずなんですね。
例えば、当行では、ライヤーズという女子バスケットボール部があるわけですが、彼女達に何をミッションとして与えているかといいますと、"君達にとって、勝つことが目的ではないんだ、山形銀行としての社会貢献をすることなんだ"と。山形県内の中、高、大学のバスケットボールのレベルをクリニック活動などを通して向上させることが重要であり、それが目的なんですね。
それ故にやまぎんライヤーズというのは、非常に評判がいいんです。
確かに国体で優勝もしましたが、それよりも山形商業高校が、公立高校として全日本でベスト3入りを果たし、山形大学がインカレでベスト4入りしたことの方が意義があると思っており、スポーツ関係者を含め、さまざまな方々から高い評価をいただいています。
ところで、我々は、滋賀銀行さんではありませんが、"三方よし"という言葉を使っています。"売り手よし、買い手よし、世間よし"という伝統ある近江商人の精神ですが、山形藩の藩主最上義光は、最終的に近江八幡の5千石の殿様となったわけで、当時、山形と近江は、西廻り航路で結ばれていたんです。当時の家臣団は山形に残っており、山形商人と近江商人の関係がここで繋がっているんですね。
つまり、山形においても"三方よし"が、商売の原点であり、これを覚えていれば分相応の商売ができ、大きな間違いはないと思います。これがCSRの原点ではないでしょうか。

<澁谷>

御行の若手行員に対して、期待されていることはどのようなことでしょうか。

<長谷川頭取>

新入行員には、私が常務の時代から1時間半の講演を行っています。そのなかでは30分の質疑応答の時間を設けていますが、毎年同じことをお話ししています。
まず、勉強をすること。飽くなき好奇心、探究心を持って欲しいということです。
そして、本を読むこと。最近の若い人は、本当に本を読むということをしません。私など、本を読まないと落ち着かないですけどね。それで、私がこれはと思う本を推薦図書として行員に勧めています。
そして最後は、長計の中の行動指針(1)フェイス・トゥ・フェイス【現場力】、(2)スピード【行動力】、(3)コミュニケーション【連携力】の通りにやりなさいとつけ加えています。
つまるところ、向上心をもって生涯を送っていただけると、本人も銀行も幸せになるのではないか、勤め上げた時に、山形銀行で働いてよかったと思ってもらえるのではないかと思っています。

<澁谷>

長谷川頭取が銀行に就職された理由、また銀行員生活を通じて最も印象に残った経験についてお聞かせください。

<長谷川頭取>

私は、もともと理科系で、天文学者を目指していたんですが、入った年に東大紛争が起こり、私も現役学生に見えないとの理由で紛争に参加させられたんですね。そうしているうちに社会学に興味を持つようになり、途中から経済学部に転入して、金融論を専攻することになったわけです。
その後、父親の影響で、銀行に就職することになり、住友銀行(現三井住友銀行)に入行しました。大学を47年に卒業しましたが、経済学部に1年半しか在籍していなかったこともあり、1年間学士留学をさせていただき、翌年48年に入行したという経緯です。
銀行員生活で最も印象に残ったことといえば、やはり、よく仕事をしたということです。住友銀行時代もそうですが、当行に来てからも仕事が多忙であることに全く抵抗はありません。朝も、行員には定刻に来ればいいと言っていますが、私は7時半には出勤しています。それに、公私とも何かと忙しい。でも、どの銀行の頭取も同じような状況ではないでしょうか。

<澁谷>

ありがとうございました。



(2009/05/08 取材 | 2009/06/11 掲載)

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