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宮崎銀行 小池 光一 頭取 インタビュー

『最先端、時流、クリーン、高付加価値』をキーワードに地域の発展を積極的に支援

聞き手:リッキービジネスソリューション(株) 代表取締役 澁谷 耕一

<澁谷>

御行の沿革、強み、営業エリアについて、お聞かせください。

<小池頭取>

 当行は、昭和7年に県民銀行として創業し、30周年となる昭和37年に行名を「宮崎銀行」に改めました。創業以来一貫して「地域との共存共栄」を基本理念に掲げ、地域社会の要請に積極的に対応していくことを基本方針とし、宮崎県の中核的金融機関として歩んできました。

 当行の強みですが、まずは、県内において強固な営業基盤を有しているということです。

 地元経済の活性化、発展に貢献し、県内で最も役に立つ銀行であり続けるべく、地域に根差した営業を展開してきた結果、預金は郵貯を含んで約33%、貸出は系統金融機関を含んで約45%という高い県内シェアを確保し、口座数は約150万口座にのぼるなど、強固な営業基盤を構築しています。

 次に、県内に張り巡らされた独自のインフラです。店舗数が85店舗、店舗外ATMが118カ所166台と、他の追随を許さないネットワークを確立しています。さらに、2年後に当行は80周年を迎えますが、この間、一貫して地域に密着した営業を行ってきたことによる、強固なお取引先とのネットワークを構築していることです。

 お取引先とお取引先の連携、お取引先と当行の連携を図るべく「宮銀ひまわり連合会」を組織しており、その会員数は3,300社にのぼります。また、お取引先の後継者になられる方々を対象とした「みやぎん経営者未来塾」を3年前にスタートさせ、次世代経営者のネットワーク構築も進んでいます。こうした組織化は、お取引先同士のビジネスマッチングにも繋がる大きな武器となっています。

 最後に、当行は他行に先駆けてアグリ関連ビジネスに対して本格的な取り組みを行っています。県内には将来有望なシーズ(種)が多く存在しており、非常に高いポテンシャルがあります。

 営業エリアについては、宮崎に加えて隣県である鹿児島にも半世紀以上前から店舗展開しており、現在5店舗を構えています。鹿児島の産業構造は宮崎と似ていることから、県内で培ってきた地域密着スタイルの営業推進が可能な地域です。宮崎と同じく地元として捉えており、鹿児島を代表する企業グループのメインバンクを務めるなど、鹿児島においても深く根ざした営業基盤を構築しています。今後は、ひげ根を生やすためお取引先数の増加を図り、営業基盤のさらなる拡大を図っていく方針です。

 宮崎、鹿児島に加え、東京、大阪、福岡、大分、熊本にも拠点を構えており、地元企業の販路拡大支援や情報提供、ビジネスマッチングなどのサポート機能を発揮しています。

<澁谷>

 宮崎県における製造業はどのような業種が多いのでしょうか。

<小池頭取>

 食品製造業が18%と圧倒的シェアを占めていますが、太陽光発電関連事業や旭化成、メディキットといった最先端医療機器事業の製造拠点も有しています。
 太陽光発電に関しては、昭和シェル石油による世界最大級の太陽電池工場の稼動や、太陽光発電所の設置が決定しています。また、集光型太陽光発電装置の開発に向けて宮崎大学と県外企業の共同実験も始まっています。

   宮崎県は、全国で日射量1位、日照時間3位、快晴日数3位と、まさに「太陽」というイメージにあった自然条件に恵まれた土地です。太陽光発電関連事業を一つの基幹産業に発展させるため、県は昨年4月に「みやざきソーラーフロンティア構想」を打ち出しました。当行も、昨年12月に「みやぎん太陽光エネルギー事業育成ファンド」を設立し、積極的に関与していきたいと考えています。産官学が連携し、他県に先駆けた新エネルギー産業の集積拠点を目指す構想が動きだしています。

 当行は、最先端、時流、クリーン、高付加価値という言葉をキーワードとして捉え、農畜産業に加えて太陽光発電関連事業、最先端医療機器事業の3つの産業を育成していきたいと考えています。

<澁谷>

 地方銀行が地域において果たすべき役割とはどのようなものとお考えでしょうか。

<小池頭取>

 地方銀行の役割は、安全、安心かつ利便性の高い金融インフラを提供することにより、地域における円滑な資金供給の役割を担っています。その上で、法人、個人にかかわらず、あらゆるライフサイクルにおいて、最もお役に立てる銀行を目指すことだと考えています。
 法人のお客さまに対しては、成長支援と再生支援の機能を強化すること。個人のお客さまに対しては、ライフサイクルに合った適切な商品、サービスを提供することが重要です。

   そのために何が必要かといえば、いかにお客さまのニーズを迅速、的確に汲み取って、他行に先駆けて対応していくという「攻め」の営業であると思います。例えば、先ほどの「みやぎん太陽光エネルギー事業育成ファンド」ですが、太陽光関連事業を一つの産業として位置づけている銀行はありますが、それに限定した専用融資枠(ファンド)を設立した銀行は当行だけです。

 また、昨年7月に「宮崎ネオアグリファンド」を立ち上げました。農業向けファンドを持つ銀行も多くありますが、このファンドは、当行がリーダーシップをとり、地元金融機関が共同で出資したほか、農業機具のレンタル会社や地元焼酎メーカー大手といった農業関連の地場有力企業も出資し、地元金融機関と地元の農業関連企業が挙げて、地域の農畜産業発展のために力を結集した全国初のファンドとして注目されています。

 お客さまの目線に立って商品、サービスを考えるためには、科学的、統計的なマーケティングが必要であると考え、3年前に鹿児島を含む法人、個人のお客さまに幅広くアンケート調査を実施しました。また、お客さまの座談会を開催し、お客さまニーズの汲み取りを行いました。その結果を反映させた第1号商品として、昨年、新型のカードローンを発売いたしましたが、これが従来のカードローンと比べると、申込ペースが6倍に達しています。現在、この結果を踏まえ、さまざまなところでマーケティングを活用しています。

 もう一つ、常に心がけていることですが、他県で享受できる金融サービスを、宮崎県のお客さまが享受できないようでは、当行が地域の皆さまより負託されている使命を果たしているとは言えません。しかし、都市部で上手くいっている商品、サービスを単に導入しても、地域の皆さまのニーズにお応えできるかといえば、必ずしもそうではありません。つまり、バランスをうまく保って、地域の皆さまのニーズに合った当行ならではの商品、サービスを提供していかなければならないと考えています。この3点が、地方銀行としての存在意義であると考えています。そのためにも"お客さまの動きやニーズに対する情報感度を徹底的に磨き、ビジネスチャンスを必ず捕捉するように"と指示を徹底しています。

<澁谷>

平成21年4月からスタートした計画期間2年の中期経営計画「リスタート・プラン」三つの基本方針についてお聞かせください。

<小池頭取>

 「リスタート=再出発」ということですが、その背景には二つのポイントがあります。一つは、平成20年度決算において、創業以来二度目かつ最大の赤字決算を余儀なくされ、早急に業績回復をする必要があったこと。
 二つ目は、平成23年に基幹システムの共同化を控え、相当の負荷がかかるということです。加えて、経済情勢を鑑みれば、この2年間は拡大する局面ではないとの基本認識のもと、持続可能な成長ステージに向けた顧客基盤、収益基盤の足固めをする再構築の期間と位置づけ、「リスタート・プラン」と命名しました。

 基本方針は、1、営業力強化、2、取引先支援強化、3、業務態勢効率化の3つです。

 まず、業務態勢効率化は、営業力強化、取引先支援強化のために必要な経営資源の捻出を行おうというものです。ハード面では、昨年5月から7月にかけて店舗形態の見直しを行い、フルバンキング10店舗を出張所に転換しました。また、3営業店を統合し中核的支店へ移行するといった発展的統廃合を実施、そして、非効率ATMの撤去を実施しました。ソフト面では、商品、サービスの見直しを行い、約100品目の改廃を実施しました。

 例えば、外貨両替店舗の集約、金取扱の廃止、日銀代理店の統合、必要性の薄くなった預金、ローン商品のスクラップなどです。これらの効率化により捻出した人材を、お取り引き先支援強化の人員に充当し、100名規模の人員再配置を実施しました。

 営業力強化については、重点地区である宮崎、都城、延岡、鹿児島市部を強化すべく、質、量ともに営業人員を傾斜配置しました。

 中期経営計画の滑り出しとなった平成21年度の業績は、大幅な黒字回復を実現することができ、株主さま、お取り引き先さまそして地域の皆さまからの一定の信頼を取り戻すことができたものと考えています。さらに本格的な成果が、目に見える形で現れてくるのは、来年度以降になるかと考えています。

<澁谷>

 人材の質の向上という点での具体的な施策とはどういったものなのでしょうか。

<小池頭取>

 当行は、「法人営業マイスター養成研修」というものを実施し、若手行員を主体とした提案型営業力の強化を実現する研修体制を整えています。その中で、専門スタッフを作り上げるという意味で、特に注力している業種が農畜産業と医業です。
 農畜産業に関しては、行員を日本政策金融公庫に出向させ、生産の現場から稟議対応まで、一貫した業務のOJTを受けています。医業に関しては、行員を医業コンサルティング会社や病院の事務局に半年から1年の期間で継続的に派遣し、業務の習得にあたらせています。将来的には、農畜産業支援グループ、医業支援グループといった独立した専門部署を立ち上げることを考えています。

 宮崎県は、高齢化スピードが他県に比べて5年程早いと言われており、さらに今後は団塊世代のIターン、Uターンによる滞在型医療も展望でき、介護も含めて大きなセクターとして捉えています。そこで、現在の取り組みとして、医師会、医療協同組合と提携して、制度的財務面の支援を目的に、医師向けのセミナーを実施しています。将来的には、病院の事務長、事務局長といったポストにOBを含めた人員を派遣して病院経営をサポートする体制、いわゆる「病院の人材バンク」を標榜しています。

<澁谷>

 「みやざき 食と農の商談会2010」の意義と成果についてお聞かせください。

<小池頭取>

 お取り引き先の販路拡大のために、これまでも東京や福岡といった大都市圏で食に関する商談会にお取り引き先をお連れしてきました。毎回非常に高い成果が上がるのを目の当たりにし、より多くの地元企業の方々に出展していただきたいと思い、地元での開催を決断しました。

 「みやざき食と農の商談会2010」は、当行単独で開催するのではなく、お取り引き先の販路拡大、地元経済の底上げといった志、理念を共有していただける方々とともに取り組むため、地元行政機関や金融機関と協力し商談会を開催しました。ここに大きな意義があったと思います。

 今の時代は、融資対象となる市場を求めていく上で、座して待つのではなく、このような攻めの取り組みにより、自らの手でマーケットをクリエイト(創造)していくことが肝心です。

<澁谷>

農業分野における今後の取り組み方針についてお聞かせください。

<小池頭取>

 宮崎県の経済規模は全国の1%ですが、農畜産業分野においては4%を占める基幹産業です。加えて、食の安全、安心が叫ばれ、国内産を求める動きが高まっているほか、宮崎県は東国原知事のご尽力もあり地域ブランドとしての価値が飛躍的に向上しています。また、食料自給率の問題など、色々な意味で追い風が吹いているという状況にあります。さらに宮崎県は、比較的農業の経営規模拡大が進んでおり、企業的経営を目指す意欲的な生産者が増えているという事情があります。

 そこで当行は、生産者だけにとどまらず、仕入、加工、流通、小売なども含めた全体を複合的な産業セクターとして捉え、「ネオアグリ構想」と称し、全プロセスに対応できる体制整備と支援強化を徹底しています。

 その具体的な形として、まずは、農家の企業経営化支援を行っており、県内での生産法人化のうち6~7割は当行が関与しています。この実績は、他行と比較しても相当高いものであると自負しています。

 次に、販路の拡大、開拓ということになりますが、インターネットを活用したBtoBのビジネスマッチングの活用や、商談会、マーケティング、大手広告代理店と提携しブランド化支援も行っています。ブランド化支援の成果として、海外輸出も行っているトマト農家の方が、これまで使用していた茶色のダンボールから、トマト色のダンボールに変更したところ、40%売上が増えたという事例があります。

 現在のところ農畜産業向けの融資規模は500億円程度ですが、こうした取り組みの成果として、すぐに結果として現れるものではなく、じっくり取り組んでいこうと考えています。また、「豊年万作」、「豊穣祈願」といった農業事業者向けローン商品も取り扱っており、今後はABL等の金融手法も活用したローン商品の拡大も行っていきます。

<澁谷>

頭取がご就任以来、最も注力されてきたものはどのようなことでしょうか。

<小池頭取>

 頭取就任の際に話したことは、まず「目指すべき銀行は、品格と強靭さを兼ね備えた銀行であれ」ということです。

 これは、コンプライアンスの意識が高く、高い良識、見識を持った行員が構成する組織であり、同時にシェアを向上し、収益拡大を図り、企業価値の向上を不断かつ貪欲に求めていく姿勢を持った銀行という意味です。コンプライアンスについては、私は事あるごとに口にしていますが、まずは、コンプライアンスを徹底するためには、「二つの識」である、意識と知識が必要だということです。いかに法令を遵守する意識が高くても、法令に対する知識が必要であり、逆も然りであることから、この二つの識を兼ね備えなさいということです。

 次に、コンプライアンスは、銀行差別化の要因にもなり得ることから、前向きに捉えるということです。最後に、コンプライアンスは、組織を守るだけでなく、それ以上に行員のかけがえのない人生、大切な家族を守るために必要だという意識で取り組んでほしいということです。

 営業面では、攻めの姿勢を強くしようということです。前中期経営計画「バリュー・アップ」において、「『攻めの経営』による業務粗利益、バランスシートの拡大」を基本方針としました。現中期経営計画「リスタート・プラン」でも、引き続きその取り組みを強化しています。

 貸出を伸ばすのも大事ですが、もっと重要なのは預金であると考えています。運用資産の原資は預金であり、その調達マインドをいかに高めるかが重要です。この時期に、ボリュームを追い求めることに違和感もありますがあえて言い続けています。規模の大小にかかわらず管理のメニューは同じように負っており、バランスシートを拡大しなければ経営効率化は実現できません。だとすれば分母の拡大が必要であり、収益を念頭に置きながらもボリューム拡大を実現することが基本だということです。そのため、低コストの預金を確保することが重要になりますが、給与振込や年金口座の獲得などの面でまだまだ弱さがあり、より積極的かつ徹底して取り組むよう指示しています。

<澁谷>

 若手行員や女性行員に期待されていることについてお聞かせください。

<小池頭取>

 若手行員には、いつも3つのことを話しています。
 一つ目は、柔軟な思考力を発揮しなさいということです。銀行だけでなく、社会全般においてそうですが、若い人たち求められていることは、固定観念に囚われない柔軟な思考であり、しなやかな行動力です。社会においても、企業においても、常に新しい風を吹き込まなければ、発展もなければ、変化の速さに遅れることなく対応することもできません。つまり、その原動力になってもらいたいということです。

 二つ目は、チームワークを大事にしてほしいということです。いかに優れたプレイヤーがいても、組織を結集することによって生まれる組織力が伴わなければ、その人の力を存分に発揮することはできません。また、一人ひとりの力にも限界があるため、ことある度に"気合いを揃えて組織力を結集せよ"と言っています。

 三つ目は、高い志と強い気概をもって取り組んでほしいということです。当行は、共存共栄が基本理念であり、地域社会の発展を志向するという経営方針とリーディングバンクとして常にお役にたてる銀行としてあり続けるという二つが存在意義であり、将来の発展に繋がるものだと考えています。従って、"地域に貢献していく"という強い気概を持って取り組んでほしいということと、地域に頼られる"金融のプロ"になるという強い志をもって、日々研鑽を積んでほしいということです。

 女性行員については、女性ならではの感性で商品、サービスを考えてほしいという思いから、今年4月に女性プロジェクトチームを立ち上げることを決定しました。お客さまの半数は女性であり、女性の観点やアイデアを十分取り組んでいく必要があると考えています。先述しましたマーケティング調査においても、女性と男性とでは随分違うニーズを持っていることが判り、これを具体化しようとした次第です。

 また、当行は女性の活用という点では、既に経験者を含めて4名の営業店長を輩出しているほか、役席者は40名程度を数えるなど、地方銀行の中では進んでいるほうではないかと思います。今後、さらに女性が活躍できる場を拡げていきたいと考えています。

 昨年、行員一人ひとりの考えやアイデアを直接聞いてみたいとの思いから、入行3年目以上の行員全員に頭取宛ての提案書を提出してもらったところ、提案書は1300件にも上りました。提案書すべてに目を通し、ジャンル別にどのような意見があるのかを取りまとめ、全行員にフィードバックしました。

 これらの意見は、支店の出張所化や優秀なパートの方の正規雇用化など、現中期経営計画にも多く取り入れており、生の意見を汲み取っていくことの重要性に改めて気付かされた次第です。こうしたことが、ES(従業員満足:Employees Satisfaction)の実践にも繋がっていくと考えています。

<澁谷>

ありがとうございました。

(2010/3/16 取材 | 2010/4/5 掲載)

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