業界事情
第8回 株式会社ローソン 代表取締役社長 新浪剛史氏「新しい発想や行動へのチャレンジ 〜コンビニの今後30年に向けて〜」-前編-
聞き手:リッキービジネスソリューション(株)澁谷耕一
※今回の業界事情は2部構成です。まずは前編からお読みください。(後編へ)

▲ 株式会社ローソン
代表取締役社長 新浪剛史氏
(澁谷)
平成14年5月の社長就任以来、3つの徹底(品揃え・接客・清掃)を行われてきました。
また、『私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします。』という企業理念のもと「マチのほっとステーション」を目指してイノベーションをキーワードに従来のビジネスモデル、コンビニエンスストアを越えることを目指されていることについてもお話をお聞かせください。
(新浪社長)
ローソン30周年の節目に新しい理念
『私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします。』という企業理念は、30周年を機会に変えたものです。30周年というものは企業にとってとても大切なことだと思っています。プロダクトライフサイクル上、30年が大きな節目であるという経験則的なものもありますが、私にとって3年というのがひとつの節目で、私の3年が終わるのがちょうど30周年なのです。
私が社長に就任した時、企業文化は“上意下達”“馬耳東風”でした。上から情報が発せられて、店舗の旗は何を付けるかというような細かい話まで上層部で決められていました。とはいっても、実は「こうあれば良いのに」という発想はあるのですが、それを言うと怒られてしまうという恐怖心がある。また成功体験がないために、それをやったがために失敗してしまった場合の責任を取るのが怖い。そのため常に“待ち”であったのです。また、あれもこれもと言われるため、基本的には何度となく言われること以外は上意下達に動かないのです。
「3つの徹底」で、あれもこれもやらない
私も同様に、就任後半年間はあれもこれもと言っていました。整理整頓して何から始めるかということを半年経ってから決めました。これが3つの徹底です。人間、4つも5つもやるのは大変なので、3つに絞り込みました。
現場を回ってみると、現場の声は「もっと基本的なことをやれる体制にしてもらいたい」ということでした。基本とは、お客様の目線そして加盟店の目線に、本部が常に同一の歩調を取るような施策をきちっと明確にしてもらいたい、ということでした。
あれもこれもとある中で、まずは「店舗においてお客様に喜んでいただきご来店いただく」という基本的なことのために何をすれば良いのか、ということだけを一心不乱に考えました。
その間、多数の店舗キャンペーンを行っていました。人寄せパンダをたくさん用意してどんどんやるのです。すると、店舗はその用意だけで忙しいのです。またキャンペーンというのは麻薬で、やらなくなるとお客様は来なくなります。
このため、キャンペーンは最小限にして、もう一度お店を磨き直そうと決めました。
それが3つの徹底です。
(「3つの徹底」とは
  • マチのお客さまを理解し、そのお客さまに喜んでいただけるお店・売場作りを行う
  • お店」と「マチ」をきれいにする
  • お客さまに、また来ていただける心のこもった接客を行う
です。)
それぞれの店舗のお客様に合った品揃えをしなくてはならない。心のこもった接客をしなければいけない。買いたいと思って来店されるお客様の「買いたい」という気持ちを入り口でどれだけ増幅させられるか、そのためには入り口を綺麗にしておかなくてはならない。そして、入ったときに気持ち良い挨拶があるかどうか。それがあれば、さらに買おうという気持ちになれるだろう。
買いたい商品があればなおさら他の商品も買いたいと思うだろう。
「なぜ、なぜ」と何度も繰り返す
購買行動を増幅させるために、入ったときにお店が輝いて見える床の照度も重要です。
照明が明るいだけではなく、床が光って商品に反射すると、お店全体が明るく見えるのです。
そのような基本的なことの「なぜ」をすべてお客様の発想で加盟店に説明しました。
これは、直接トップである私がやるのです。これを何度も繰り返しやってきました。社員に対しても同じです。
気持ち良いレジカウンターで、またお越しくださいとニコッと笑い、頭を下げられてお店を出ると、お客様はまた来ようと思うわけです。
やはり、「なぜ」ということを何度となく話しました。これはいまだ変わらず同じことを話し続けています。軸をぶらさず同じことを何度も言う、そして社員にも同じ話をする、そして価値観を作る、ということを3年間やってきました。
一方本部は、「並べる商品の質を高くする」ということで『おにぎり屋』、『ごはん亭』というブランドを作ったのです。
なぜカテゴリーごとのブランドを作ったかと言うと、『ローソン』というブランド力が競争相手のセブンイレブンに比べて低いからです。つまり、ローソンというブランドのクレディビリティが低いと判断したのです。『おにぎり屋』や『ごはん亭』など個々のブランドの積み重ねにより、最終的に『ローソン』というブランド名が認められ評価されればと思っています。
ごはんで勝負、原材料にこだわる
以前のローソンは、商品の原材料に手を抜いており、キャンペーンや客寄せパンダの力で買っていただいていたのです。もっと実質的なところを上げていかなければ結局は継続しない。商品力については本部が圧倒的な責任をもってやっていかなくてはならない。
成功する商品づくりのために単純に原材料を良くしました。そして一番重要なごはんを良くしました。炊き方についても各工場を回りました。ごはんというベーシックなところが本当に重要なのです。私は、弊社が一番良い米を使っていると自負しています。
商品が良くなっていく過程において、加盟店も品揃えができるようになりました。
彼らが自慢できる商品づくりをしてあげることが我々の役目だと思っています。
相対評価と絶対評価を徹底
このようなことを愚直に3年間やっていくとともに、その加盟店の努力や成果をどのように計るか、定量化ということがとても重要になってきました。定量化されない頑張りは何の意味もなくなってしまう。そこで、定量化を勧めるべく昨年から「ミステリーショッパープログラム」というものを作りました。オーナーの頑張りには酬い、頑張らないところにはそれなりの対応をする、これを「公平」と考え、本部として何をもって公平と扱うかという定義をし直したのです。
今まではみんながみんな平等で一緒なのだとされてきた。しかしそれは違うと思うのです。
客観的な数値を作るため、3人一組で年に2回定点分析を行います。客としてお店に行き、約50項目の中でお客様の目線で見たとき何が問題かを分析し、それによりランキングを付けるのです。
ランキングとともに、分析結果を現場の店舗指導員(スーパーバイザー)が加盟店へフィードバックします。仮に接客やクリンリネスに問題があれば加盟店の店主とアルバイトのリーダーを弊社のトレーニングセンターで再教育します。
始めてからほぼ一年半が経ちましたが、データが溜まっているので、「この地域のこのチェーンは要注意だ」ということも分かります。平均値ではなく、エリア毎に競争相手の強さ・弱さが見えるので、それを分析し、エリアの責任者にしっかりフィードバックします。そして攻め方を考えるのです。そのようなことをしながら、最終的には加盟店の質や経営力が上がり、それが結果として収益の向上に繋がるようにする。
我々は何のためにあるのか?
そして3年経ったところで、我々は何のためにあるのか?という存在意義をもう一度考えてみました。私たちのお客様やその周囲に住まれている方々を幸せにするためにあるのだ、便利ということもひとつの要素かもしれないけれど何かしら存在意義がなくてはならないはずだ、それは何と言っても同じマチ(=商圏)の方々にとってハピネスをどう享受していただくかが我々の役割なのだ、そのために何でもやろうよ、ということがその答えでした。結果として、マチにとってのほっとステーションになっていこう、それはなくてはならない存在なのだ、と。
そのためには差別化しなくてはなりません。どこのコンビニも同じでは絶対にダメなのです。
 
(澁谷)
“価値観を作り上げてきた”というお話がありましたが、旧来の旧経営陣の下での価値観からの意識改革はこの3年間でできたとお考えですか?
(新浪社長)
まだ100%とは言えませんが、先ほどの上意下達からボトムアップというところへは点数にすると60点ぐらいでしょうか。加盟店が随分変わりました。これまではスーパーバイザーが単なるメッセンジャーだったのに、もっと一緒になって話し合おうと双方向に大きく変わりました。
まだ変わっていないのはスーパーバイザーの力量です。
店舗に点数を付けると同時にスーパーバイザーにも点数を付けています。我々・本部にも2ヵ月ほど前に点数を付けてもらいました。これも重要なことで、一方的に加盟店だけに点数を付けてはいけないのです。我々も点数を付けられる立場にならなくてはいけない。
(澁谷)
確かに店舗も綺麗になったし接客態度も良くなっていますよね。
(新浪社長)
これからは品揃えに関してもっとチャレンジしていかなくてはなりません。これは失敗すると加盟店のポケットからお金が出るところですから、そこを共有していかなくてはならないのです。
コンビニエンスストアの展望について
(澁谷)
現在約43,000店舗と飽和状態となり、弁当やおにぎりなどの中食を中心に成長してきた既存店も頭打ちの中で、新しいビジネスモデルの模索、ナチュラルローソンやLAWSON STORE100などの展開をされていますね。
(新浪社長)
これまでのやり方の延長線上では、コンビニはダメになるだろうと思っています。これまでのやり方では良くて3年もつぐらいではないでしょうか。その大きな原因は、まず1つ目は「地域格差」。それには「人口動態」と「経済力」という二つの要素があります。今までコンビニ運営というのは中央集権型で北海道から沖縄まで同じような店を作り最大公約数的なマネジメントをしてきたわけです。しかし、地域格差ができてしまったために最大公約数が小さくなってしまいました。そうすると今までの中央集権的なやり方の効果が減ってしまったのです。
道東や東北などに行くと、高齢者の方が多い。しかしその方々に合った商品を作ろうなどという発想はこの東京のど真ん中にいてはないのです。たとえば『おにぎり屋』でも、マーチャンダイザーに何も言わずに作らせると、良いお米にトンカツ挟むようなおにぎりを作ってきます。これを食べるのはせいぜい30代前後です。
“新商品=30代を中心としたターゲット”とすり込まれてしまっている頭やDNAを変えてい
なくてはなりません。そこを変えるということ、新たな顧客層づくりが重要であり、地域性を重視したコンビニエンスストアが重要なのです。
新しい顧客づくりが成功すれば、コンビニ業界はまだまだ成長するでしょう。
先ほどもお話したように、そこにアプローチするDNAがないことが問題なのですが、どうアプローチしていくのか、また、特に女性のお客様や50代のお客様に対してもっとアプローチできるような仕組みづくりが必要であり、年齢が上がっていくほど地域ごとの味というものがとても重要になるのです。20代30代のコアターゲットについても「健康」という軸がとても重要になっています。
早い意思決定で、とんがった発想を
このような変化に付いて行くためには地方分権しかありません。意思決定の構造をもっと現場に近いところに落とさなくてはいけません。また、東京で考えていると、色々と意見が入ってきて商品そのものは角が取れて丸くなってしまうのです。「この商品は、この地域では良い、この地域ではダメ」となってしまい、結局カレーライスの辛さにしても中途半端な平均値になってしまうのです。
平均値から地域のとんがったところにどうシフトしていくのかがとても重要で、地方で意思決定をさせて商品づくりを行っていく。
そのためには、地方で意思決定できる人材育成が必要です。 (後編へ続く
2005/10/17 取材)|(2005/12 掲載)
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