業界事情
第9回 株式会社クリエイト・レストランツ 代表取締役社長 岡本晴彦氏「外食産業の今後の展望」
聞き手:リッキービジネスソリューション(株)澁谷耕一

▲ 株式会社クリエイト・レストランツ
代表取締役社長 岡本晴彦氏
消費者の選択の変化に、企業も変化できるのか
(澁谷)
競争の激しい外食マーケットの中で、急成長されていますね。
(岡本社長)
99年5月の創業以来6年半、お陰さまで戦略的に成長を遂げてきました。
当社の主力はレストランなどの飲食ビジネスです。事業自体に目新しさはありませんが、今までにないやり方によって成長しています。店舗は全て直営で現在226店舗、78ブランドを有しています。
これまでの外食企業は、ひとつのブランドをコピーして作ることが多かった。それは量を供給する時代には良かったのですが、1996年をピークに外食マーケットが下降し量的に飽和し始めると、消費者側がレストランを選ぶ時代になってきたのです。そうなると、ひとつのブランドを拡大するという方法はフィットしなくなります。時代や情報量とともに消費者の関心事は変化しますが、消費者サイドの選択の変化に応じたレストランを提供できるかどうか、企業側も変化しながら提供できるかどうかがカギとなります。
現在レストランの数は、オーバーストアの状態になってしまっています。価格競争力のある会社は生き残ることができますが、中途半端なところはどんどん厳しくなっていくでしょう。そして、いかに付加価値を高め消費者に認知させるかが重要です。
マルチブランド・マルチロケーション戦略
昔と比べるとレストランの数や種類も増え、利用シーンも多様化しています。誰と利用するのか、また都心で利用するのか自宅の近くなのか、などなど様々なパターンがあります。雑誌やインターネットによる情報も多い。消費者が自分の使いたいシーンに合わせてレストランを選ぶ中で、個々の利用シーンに浮かばないレストランは淘汰されます。
消費者から認知されるだけの特徴がメッセージとしてしっかり伝わっているか、そしてお客様が利用後に「ここが良かった」と口伝えできるような明らかな付加価値があるかどうかが重要になります。そのためには、一個一個の場所にそこにしかない、そのマーケットにおいて唯一と思われるような、しかし飛び過ぎではなく半歩先を行くような店作りが必要です。手が届く範囲で、潜在的なニーズを具現化するのです。付加価値を優先させ、希少性や口伝えできる何か、再度利用するきっかけとなるキーワードがあるもの、それらを軸に作り上げます。出店するにも有利な場所と不利な場所がありますが、郊外であれ都内であれ人が多く集まる場所においてロケーションに合わせた正しい戦略を実施することで成功に繋がるのです。これは我々が「マルチブランド・マルチロケーション戦略」と言っているものです。
クリエイティビティは、天才的な要素ではない
(澁谷)
例えば、ある地域において1店舗だけで営業しているレストランは、より地域に近いという感じがしますが、利用者の選択の変化や情報量に対する創造性・独創性はどのように発揮されるのでしょうか。
(岡本社長)
クリエイティビティというのは、ある特定の個人がもつ天才的な要素ではなく、科学的に量をこなせば高まるものだと思います。それを構成する要素を細分化し、それぞれの要素に対して他のプレーヤーよりも圧倒的に多くの情報を取り、柔軟に組み合わせる意思決定ができるようになればクリエイティビティは高まります。今年一年で約90店舗の出店を行いましたが、それは90回のケーススタディをこなしていることと同じであり、その結果を検証していくことで、経験が積み上がり、クリエイティビティが高まります。ひとつのチェーンで同じことを繰り返す会社には、クリエイティビティの積上げは少ないのではないでしょうか。パッケージやマニュアルというものは、考えるということを、止めてしまうのではないかと思います。
例えば、万博のように一社でフードコートのプロデュースをすると、競争状態を排除できるため独占のビジネスモデルに変わり、価格設定において有利になったりもします。やり方を少し工夫することです。美味しいものを出せば客は来るという従来型の考え方も大切ですが、それは当然やりながらプラスアルファの要素を考えるのです。
これまで外食業界を引っ張ってこられた会社というのは、今や大きすぎて身動きが取りにくい状態になっています。我々は後発でそれほど大きな会社ではありませんが、経営手法やクリエイティビティ能力によって、この市場を我々の思い描いたような状況に持っていくことができるのではないかと思っています。
あえて「弱者の戦略」を取る
(澁谷)
現在226店舗とのことですが、何店舗目ぐらいからクリエイティビティが発揮されるような出店が可能になったのでしょうか?
(岡本社長)
“このコンセプトで100店200店やります”というような代表的な店や自信作はなく、我々が市場に切り込むためには、「弱者の戦略」を取る必要がありました。例えば、ある商業モールにおいてどのような店舗を誘致したいかというニーズに対し、それを満たすようなレストランがない場合、それを自ら作り上げてやろうという提案をしながら出店するのです。経験がないことにはリスクもありますが、それしかなかったのです。その中で必然的にクリエイティビティが必要とされ、それが武器となり生命線となりました。
何も考えず同じものを繰り返すことは、短期的には楽でも長期的には苦しくなります。毎年新しいブランドを売り出すことで常にクリエイティビティを高める習慣を失わず、そして既存の強いビジネスモデルのものも広げていく。その両方のバランスを取りながらやっていかなくてはなりません。
(澁谷)
従来の「量」においては生産性や効率性が追求されましたが、マルチブランド・マルチロケーション戦略では、どのようにしてそれらを高める努力をされているのですか?
(岡本社長)
それは難しいことではありません。細部にわたるマニュアルで規定すると全て違うオペレーションになります。しかし、食材のコントロール方法や人材トレーニングのように共通するものもたくさんあるので、それをきっちり括り出します。
またマルチブランドの経営に関しては、店舗を1人あたり10店舗ほど統括するエリアマネージャーがマルチブランドで見ています。エリアごとに区切り、ひとつのエリアにマルチブランドがあるわけです。ひとつのブランドのオペレーションを経験しただけではそのエリアのマネージャーにはなれません。自分の経験したことのないブランドをやってみたり、新規出店(新ブランド)の立ち上げに参加することによって、クリエイションとマネジメントの両方を経験します。すると会社全体の経営の中でマルチブランドを経営していくというひとつのDNAが育っていくわけです。
行動規範は「スピード」「クリエイティブ」「チャレンジ」
(澁谷)
エリアマネージャーの方々は、以前からレストラン業界での経験を積んでこられた方が多いのですか?
(岡本社長)
他チェーン店を経験していたり、ホテル出身である者もいます。マニュアルを作成し、アルバイトでもできるような仕組みでは、ファーストフードやファミリーレストランなどにおける“いかに効率的にものを売るか”という手法ですが、質を高める場合にはずっと一定では陳腐化してしまうため、時代に合わせて変化させる必要があり、同程度の質を提供する競合店が増えた場合にはワンランク上の質に切り替えなくてはなりません。
我々にとっての「スピード」とは、単に速くやるというだけでなく“悩まない”ということかもしれません。意思決定に際しいろいろ悩みながら計画した後に実行するのではなく、まず実行してから、その後発生した不具合等を素早く修正していくのです。私はIT出身で、以前はシステムを作っていたのですが、昔のシステム開発の手法というのは、要件定義を行ってから機能を詰め、それをモジュール化していくというものでした
しかし15年ほど前からプロトタイプのやり方が出て、まず作ってしまってその後に修正していくようになりました。その方が断然早く、無駄なことをしなくて済むのです。ビジネスも同じです。「クリエイティブ」とは“変化”です。現状がベストということはまずありません。「チャレンジ」とは“行動”です。実績の良い店も悪い店も関係なく全店が、どんな小さなことでも良いので毎月ひとつの工夫を考えて実行します。例えば、店頭の電球のワット数を少し上げてみるとか、看板の字の大きさを変えてみるとか。そんな些細なことでも効果が現れることがあります。これらの工夫の結果と人間の行動や心理との関係については、どんな教科書にも載っていないことです。毎月行っている全店営業会議でそれぞれの工夫における成果を発表し合い、そのノウハウを皆で顕在化させています。これにより、変化を起こすことが習慣化されるのです。
(澁谷)
メニュー開発はどのように行っているのですか?
(岡本社長)
新規オープンの時には、店舗のコンセプトを勘案し、本社で行います。その後、競争相手の参入などにより少し軸を変更する場合などには現場からの意見を取り入れ話し合います。よって同じブランドでも価格帯やメニューラインは少し調整しています。
(澁谷)
レストラン業界の現状について
(岡本社長)
先ほども少しお話したように業界自体は1996年から下降していますが、プレーヤーの数は増えています。
現在企業価値で1千億円以上の会社が5社ほど、2千億以上の会社はマクドナルドとすかいらーくの2社です。しかし全体で25兆円に達するマーケットの中では、3千億円規模のマクドナルドでも全体の1%ほどにしかなりません。2%でも取ればトップになれるわけで、恐ろしく細分化されたマーケットなのです。量的に増え、今は質の変化が起きています。つまり量的な飽和があり、細分化された中で多く存在する中小規模の会社がこれからどんどん淘汰されていくでしょう。またM&Aも増えるでしょう。市場の構造変化が起こり、プレーヤーの戦略も数も変化するでしょう。ある意味戦国時代と言われています。
(澁谷)
社長のお話を伺っていると、ひとつひとつのブランドの立ち上げがベンチャーのように感じられます。
(岡本社長)
“飲食業を直営でやる”というビジネスモデルはとても単純なことであり、かなり幅の狭いことに集中していると思います。その中で表現の方法は様々ですし、そこにクリエイティビリティを活かしたり、マーケットに合わせてやったり、戦法はたくさんあります。普通の会社にとっては新規事業となるかもしれませんが、クリエイティビリティを軸として会社が成り立っている我々にとっては、新店を立ち上げることはベンチャーでも何でもありません。 当たり前のことです。クリエイティビリティはとても大切です。言葉が先行してお題目のようになっているのですが、もっとこれを科学的に捉えると、どういう順序や行動が重要なのかなど、いろいろあると思います。それを地道に日々行っている会社が、結果としてクリエイティビリティの高い会社になっていくのです。
 
苦しい時に一生懸命に話を聞いてくれた新人銀行員
(澁谷)
銀行員に対する期待やご意見などをお聞かせください。
(岡本社長)
弊社は先日上場し、上場パーティーを行いました。そのときにも少し申し上げたことですが、弊社も創業時はとても苦しかったのです。銀行も飲食業に対してとても厳しい見方をされていました。一番苦しかったとき、当時の富士銀行(現みずほ銀行)渋谷支店の新人さんが飛び込みでやってきました。その方はとても一生懸命話を聞いてくれ、その後3,000万円を融資してくれたのです。今のように会社がどんどん大きくなってくると、「是非借りてください」というお話をよく受けるようになりましたが、起業時の苦しいときに、このビジネスが上手くいくかどうかを一緒になって考え、力を貸してくれたことは本当に有難いことでしたし、今でも感謝しています。
昔は“銀行が産業を支えるんだ”というような誇りがありましたよね。その一端をこのとき見た気がしました。当時もっと近しい銀行がありましたが融資をそこにも断られていましたから。結局、銀行の融資体制は全体的に遅いですよね。もう資金は要らなくなったときにようやく審査が通ったりします。同じ3,000万円でも、リスクの無いところに投じられた場合では価値が違ってきます。リスクがあるからこそそのお金が活かされ、産業自体に活気を与える力になり、とても意味のあることだと思います。
(澁谷)
現在、上場に対するメリット・デメリットについて言われていますが、上場して変わったこと、良かったことなどはありますか?
(岡本社長)
新しい株主が増えたことで、そこに対する説明責任が生じました。上場会社になることで、人材確保・雇用などの面においてひとつステージが上がるだろうと考えておりました。また、現在弊社は約200億円規模ですが、もう一桁大きな会社に成長するためには様々なチャンスを得る必要があり、そのためにも上場が必要でした。上場を機に特に変わったことはありません。
(澁谷)
銀行も現在まさにオーバーバンキングの状態であり、もっと創造性を発揮してお客様に役に立つような仕事をしていかなくてはなりませんね。
(岡本社長)
以前取材で好きな言葉を聞かれ、「戦略的」と「科学的」というふたつの言葉を紹介しました。科学的とは、情報量をきっちり取り全てを知った上で、その中から取捨選択を行うということです。戦略的とは、自分が勝ちやすい土俵を自らが作り、勝てる試合をすることです。横綱のいる土俵では戦わない、弱い力士ばかりのところで勝負をかけるのです。
(澁谷)
金融機関は皆同じ方へ動いてしまいがちです。
(岡本社長)
私の経験上、皆が同じことをやっていても成功しません。特に後発の会社にとっては、勝てる分野において上手く自分の特徴を出していかなくてはなりません。
-会社情報-
社 名: 株式会社クリエイト・レストランツ
代表取締役: 会長/後藤 仁史  社長/岡本 晴彦
株 主: 三菱商事株式会社 他
本 社: 東京都渋谷区渋谷2-15-1 渋谷クロスタワー15F
TEL 03-5774-9700(代表)
従業員数: 約3,371名(内、社員646名) 2005年2月末現在
店舗数: 3226店舗(レストランタイプ136、フードコートタイプ90) 2006年2月末現在
URL: http://www.create-restaurants.co.jp/
2005/12/26 取材)|(2006/03 掲載)
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